4.もう少し工夫してみよう。
本文の「**************」の前後でシーンが変わります。
また、前後で「彼」が指している対象が異なります。
疑似餌を使う釣りで結果を出せなかった彼は、釣りについて確認した。小説によると針という機構も必要であると知り、再度試すことにした。
餌を独占させるために競争相手が少なく、人間が潜伏していそうな場所を探す。
彼が選んだのは駅から少し離れたガード下である。そこに慣れたイメージで糸を垂らし、先端に疑似餌を作る。先端と分け目付近だけ別の色になっている。そうすると人間が興味を持ち易いようだと、彼は前回の経験から学んでいた。
ガード下は薄暗いためか人間はあまりよってこないが、少し待つだけで数個が通る。入って来たのとは反対側に糸を垂らすと、人間は一瞬だけ動きを止めて来た方へと逃げ戻っていった。
「あれ? ダメか。反対側にも垂らしてみれば釣れるかな?」
両側を塞げばどちらかに食いつくかもしれないと思ってのことだが、なぜか人間は中央で動かなくなった。
しばらく待っても動かないので諦めて糸を戻そうかと考えたとき、糸に振動が伝わった。
「釣れた!」
喜びを感じながら糸の様子を確認すると、人間が一個、全身で絡みつくようにしているのがわかった。さらに手足どちらかはわからないが、突き出た箇所をふるって何度も糸に触れたり離れたりを繰り返している。疑似餌を食べているのだと判断した彼は、逃げられないように針を刺すことをイメージする。
「口の中に入れて、抜けないようにするんだよな」
糸に絡んでいる人間の口の中へ、針を伸ばして入れていく。ちゃんと引っかかるように、軽く針を膨らませるイメージ。しかし膨らませすぎたらしく、外側へとはみだしてしまった。そちらに意識が向いているため、針の先が貫通していることは気づいていない。
糸に絡みついたままの人間の残骸を解こうとしだが、やはり力加減が難しい。手足と思われるものが千切れて液体が溢れる。針も人間を割るようにして抜き出ていた。
その個体を釣ることに集中していたためだろう。いつのまにか人間の数が減っていたが、残った人間を釣れば良いのだと気を取り直す。
しかし彼は人間の構造を理解していない。当然、針を刺された人間たちは無残な死体となってガード下に打ち捨てられることになる。
**************
『…………で起きた集団惨殺事件について、現時点では被害者の身元や人数などの情報は公表されていませんが、現場周辺の情報により、少なくとも5名の男女が被害にあったとみられています。現在も現場はブルーシートで封鎖されており、中の様子を確認することは出来ません。犯人は日本刀のようなものを持っていたという情報もあり、警察は総力を挙げて犯人の逮捕に全力を…………』
街頭テレビから流れるニュースをぼんやりと眺め、彼は携帯の画面で時間を確認した。
退院祝いをしようと、誘ってくれたのは彼女の方だった。それは彼にとって意外なことだったが、素直に嬉しいと感じた。できれば二人きりが良かったが、周囲で同様に待っている友人たちの善意を無碍にもできない。
約束の時間をだいぶ過ぎたが、彼女の姿は見えない。ここに来るまでの道中にはニュースに流れているような場所があったかもしれない。
そんな不安から電話してみようかと考えた時、人混みの中で手を振る姿を見つけた。
もう二度と事件や事故なんてものとは関係がないのだと、不安を振り払うように彼は手を振り返した。
マニュアルの再確認は大事です。
時に致命的なことを見落としていることに気づいたりします。
あるいは、システムが致命的に間違っていることに気づくこともあります。(会社あるある)