3.やり方を変えてみよう。
本文の「**************」の前後でシーンが変わります。
また、前後で「彼」が指している対象が異なります。
直接的な方法がうまくいかないことで、彼は少し考えることにした。
参考にするのは転移転生モノの小説である。しかし具体的にやり方を教えてくれる教本のような書き方のものは希少である。いつのまにか目的を忘れて没入してしまうが、彼自身は楽しめているため不満を持ってはいなかった。
「よし、釣ってみるか」
作品の中で描かれる方法として、魚というものを捕獲する方法があった。それによると糸を垂らし、口という機構で掴んでいるうちに持ち上げるらしい。技術的な難易度が高そうだが、面白そうだと感じて試すことにする。
糸のイメージはこれまでにも何度もやっているため、慣れたものだ。だが今度はその糸で捕まえるのではなく、人間たちから掴まりにこさせる必要がある。
「工夫のしどころだな」
人間が糸を確認し易く、また掴み易いように開けた場所を選ぶ。人間たちが整理した土地だろう、区分けされた湿地帯を見つける。
「近くに学校があると良い釣場なんだけど」
転移転生モノの大多数では学生という人間が対象にされるため、学校近くを選ぶ。だが彼は拓けた場所にある建物は全て学校なのだと思っている。
糸の先には疑似餌という餌をつけるのがルールらしいが、彼には人間の餌というものがどんなものか良くわからない。そのため人間の形をさせておけば近づいてくるのではないかと考え、糸の先をイメージする。
だが彼は人間の形状というものをおおまかにしか把握していなかった。
「手足っていうのが二本ずつ生えているんだっけ?」
元にしている糸のイメージ。その先端に疑似餌としての人間をイメージしていく。糸の先がほつれたように広がって、四つになる。切れ目や長さがバラバラなのは、そこまで人間を把握していないため、イメージ出来ないからだ。
「そうだ、口もあるんだ。えーと、この辺で内側につながっているんだよな」
糸が分かれる根元を開いて、内側を露出する。掴み易いように、また捕まえ易いようにと、内側でも糸を伸ばし、触れたら絡みつくようにイメージする。
「よし。あとは釣れるのを待てば良いな」
そうして彼は糸に人間がかかることを期待した。
たまに糸の質や色合いを変えてみたり、人間の方に寄せてみたりと、色々試してみる。
だが不可解なことに人間たちは逃げていく。糸を見つけると興味を持ったように観察し、近寄ってくるものもいたが、一定の距離までくると全力で逃げ出すのである。
「…………飽きた」
結局、一度も釣れないままにやめることにした。
**************
『…………村では相次いで目撃証言が出ており、地域住民に不安が広がっています。猟友会では該当するような生物は存在しないとしており、熊などを見間違えたのではないか、との懸念から山狩りの準備にかかったところです。また警察からは不安を煽るような発言は控えて、外出を控えるようにとの発表がありましたが、目撃されたものの正体については言及されておらず…………』
段々畑の怪異として報道されているローカルニュース。そのチャンネルが変わり野球中継が映る。
「最近のニュースはバカバカしくて見る気にならん」
「あらでもさっきのニュースってお義父さんのうちの御近所じゃないかしら。あれを見たどこだかの旦那さんがおかしくなっちゃったって言ってたし、心配だわ」
「くだらんことを言ってないで、さっさと飯をよこせ」
そんなやりとりをする叔父夫婦を見ながら彼は、ここでこの人たちと暮らすためにどのように振る舞うべきなのかを考えていた。
人間、誰しも一度くらいは釣られた経験があるものです。
(知らんけど)