2.数を増やしてみよう。
本文の「**************」の前後でシーンが変わります。
また、前後で「彼」が指している対象が異なります。
直接的なイメージで捕獲するには、人間というものは脆い。
何度か建物ごと人間たちを潰し、彼はそう結論づけた。
「方法を変えてみるか」
そう考えた彼は、学校という建物を探すことにした。箱型の建築物で学生と呼ばれる人間がたくさん入っていると書かれていたので、一つくらいは残るかもしれないと考えた。学校というのは拓けた場所に置かれた建物が多いらしいので、それを探す。ほどなくして見つけたそれをまるごと掴み、持ち上げてみる。力が入りすぎたのか、中身ごと潰してしまった。失敗したものは仕方ないので、次を探して糸のイメージで建物を絡め取る。今度は潰れていないようだ。
糸を引き寄せ、打ち込まれた基礎ごと建物を宙に浮かべたら折れた。
「あー、落ちた。まだ拾えるか?」
横倒しに落ちた建物を再び掴み、持ち上げる。基礎が地面から離れた分、抵抗は少なかった。
半分になった建物が傾いて中身が動いた振動が伝わる。中に意識を向けると、人間らしいものとは別に細々とした不可解な物体がたくさんあった。ものが詰まっていることに興味が湧いて、その物体たちに意識を凝らし、糸の先を這わせていく。
それらは忌むべきことに奇妙に均された植物の死骸ようなものが基盤となり、歪な形に形成された板状の金属が組み合わされていた。さらに奇妙に歪められた筒状の金属が不自然に溶け合い一部が癒着している。その全てが硬質な突起のようなもので死骸に打ち付けられている。それらはおぞましいことにまるで全て同じ物体であるかのごとく、同様の形態をしていた。
「うわっ、なんだこれ。気持ち悪いオブジェだなぁ」
机や椅子というものを彼は必要としないため、それらが何なのかと、戸惑った。無意識に触れていたくないと思ったのだろうか、糸のイメージが離れて建物が地面へと滑り落ちる。土煙りをあげながら砕け散る学校から、大量のそれらが溢れ出た振動を感じ取り、彼は反射的に拒絶感を覚えた。
建物が落下した時よりも激しく、地面が揺れる。
彼が再び落としたものを確認しようとした時には、机や椅子の形は残っていなかった。建物でさえ弾き飛ばされたように砕かれ、もはや名残もない。
「うーん。転移転生予防のトラップだったのか」
そう呟いた彼は、今度はトラップにかからないように注意してみようと思いながら、別の学校を探して試そうと決める。
机と椅子の存在に思い至るのは、3回ほど建物を粉砕したあと、休憩のために小説に意識を戻したときだった。
**************
『…………地区の住民の多くが避難していた学校や公民館に対して爆撃が行われ、死傷者の数は3桁に達しています。救援活動の目処も立っておらず、今後も死傷者の数は増加すると見られています。この爆撃行為をテロリスト対策と公表されたことは先のニュースでも触れましたが、政府は正式に我が国に対する宣戦布告であり、人道的にも許されない行いであると…………』
家族を失ったビル倒壊事故から一カ月。
退院が決まった朝にラジオから流れてきた遠い異国の戦争について、彼は全く意識を向けていなかった。
同部屋だった人たちに別れを告げ、引き取りに来た叔父に頭を下げる。
「あまり面倒をかけるなよ」
「はい」
医者たちも憐れみを込めて、事故を忘れるようにと語り、カウンセラーも恐怖が見せた幻覚だと診断した。
忘れるように言われ続け、そうしようとする日々を送り、リハビリに励んだ。
そして、事故の時に目にしたものだけでなく家族の顔さえおぼろげになってしまった。
彼の胸に過ぎる不安が、更に記憶が薄い叔父の家で暮らすことか、何かを忘れたことか、今の彼には判別できない。
そんな不安定な状態で彼は退院する。
前半で書かれている「彼」ですが、人体構造的な構造はしていないようです。(作者も正確には把握できていない)
そのため、人体構造を前提にした器物は異形に感じるようです。