17.転移と学校はセットなのか。
本文の「**************」の前後でシーンが変わります。
また、前後で「彼」が指している対象が異なります。
彼が用意した建物には人間は入らなかった。時間を変えて確認しても、埋もれて発掘されて観察される様子が確認できただけで入るものはない。だが失敗は予想していたため、気持ちの切り替えは早い。覚えているそれらを撤去して、ほかの建物を作っていく。それでも多少の失望感があったのだろう。設置した周辺を軽く揺らしてしまった気がして、落ち着こう、と自分に言い聞かせる。
「転移なんだから学校にしないとダメだったんだよな」
転移転生モノ小説を根拠にした理屈を述べて、彼は再び建物を型作っていく。しかし、 作ったのは一つだけ。伸ばした糸を編み込んで建物の形を作るのが面倒くさくなったらしい。
彼は転移転生モノをやることに対して、少しずつ飽き始めていた。
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『…………昨年は世界中でも多くの火山が噴火して、多くの人が避難することになりました。専門家は地殻になんらかの要因があるとしており、番組では分かりやすく説明して…………』
壊れて電源が切れなくなった軽トラのラジオ。それが喋り続ける無駄知識を彼は聞き流し、呆然としていた。
一通りの作業を終えた後で彼は死ぬつもりでいたが、実践できず夜が明けていた。最後に妻の姿を見たかったが、実物に会うのは迷惑をかける。携帯の待ち受けを確認すると、妻は昔のままの笑顔を見せてくれた。
申し訳なさと情けなさに涙が溢れる。何故こんなことになったのか、彼にはわからなかった。
泣き果て、気力も尽きた彼はメールが残っていることに気づいて、無意識に確認する。それは仕事人間の習性で、今更確認する必要がないことは彼自身わかっていた。
それは業務メールに紛れていた。
彼を心配する叔父夫婦のメールには、何も返せない。そんな資格はもう無くしてしまった。
打ちのめされた気分で昨夜に届いたメールを見ると、義父から妻が目覚めたから逢いに来るようにと書かれていた。また涙が出てきた。
そして一時間ほど前、最後に届いたメール。それを読み終えた彼は死にたくなり、そして再び殺意に襲われた。
義母から届いたそのメールには、妻と子供の未来を哀れに思っていると。二人だけを逝かせることはかわいそうだと。だから義父を殺し、二人を殺したら自分も後を追うのだと。義父の死体の写真とともに綴られていた。
私たち家族のことは忘れて、幸せになってほしい。メールはそう締めくくられていた。
山奥に絶叫が響いた。
物語はクライマックスへと転がり落ちていきます。




