15.転移には魔王がセットらしい。
本文の「**************」の前後でシーンが変わります。
また、前後で「彼」が指している対象が異なります。
15回も同じ前書きをしていると、違う文章を書いたら違和感を覚えそうです。
転移転生モノ小説の真似事をしたいと思って実践した彼は、再び小説を確認していた。もともと転移や転生をやってみたくなっただけで、それをする目的など彼には無い。たまたま妊婦を使ったために転生ができたと誤認していたが、それがなければ未だに人間の身体を人型に抉り抜いていただろう。
「転移って魔王がセットなのかな」
ある種の定番として魔王退治のために召喚されるというモノがあることを、彼は学んでいた。そして大抵の場合は魔王は既にその世界にいて、人間を追い詰めているらしい。そこで彼は魔王と呼ばれるものがいる世界を探すことにした。
小説では人間が召喚される前の魔王の様子を描いたモノは少ない。彼は多くの人間に対して害をもたらしているものがこれに当たるだろうと考え、人間の魂が多く漂っている世界を探して観察していく。
人間が最も多く壊れている先を確認してみると、簡単に見つかった。魔王と呼ばれるような個体は確認できないが、簡単に見つかるラスボスもいないだろうと考える。実際には災害や病気などで大きな被害が出ているだけなのだが、彼にそんなことの区別はつかない。
「こういうところに放り込めばいいんだよな」
そう考えた彼は人間を捕らえてみようと思い、糸を伸ばしていく。これまでの失敗は完全に忘れていた。
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『…………国内の失踪者の数は毎年九万人に近く、その多くがなんらかの事件や事故に巻き込まれていると見られており、国外への拉致が行われている可能性も…………』
居なくなってほしい人間ほど残っていると、職場に流れるラジオニュースに彼は舌打ちを返した。晩飯の代わりに酒を飲むようになったのは、残業が増えて帰ることが減ってからだ。帰ってから食事をとるのも億劫で居酒屋で済ませるようになり、それさえ周囲の喧騒が煩わしくなった。今では自販機で缶ビールを買い、飲み歩いて会社に戻る日々。帰宅さえできない彼は、妻の様子を見に行ったのがどれほど前なのかもおぼろげになり、子供の顔さえ忘れつつある。そのことに危機感を抱けないほど、彼は荒んでいた。それでも妻や子供のために働いている。
そんな彼に上司が親しげに話しかけるようになっていた。同僚たちはいつか彼が爆発するだろうと恐々としていたが、上司は全く気づいていなかった。
だからある日、こんなことを平気で言った。
「稼ぐねぇ。古女房の遺産で愛人でも買ったか? うぅ〜らやますぃ〜」
彼は上司を殺すことにした。
実際にこういう人が居たりしますが、当人は場を和ませるジョークのつもりだったりするので、殺さないようにご注意ください。
……裏拳ツッコミくらいなら、ジョーク返しってことで許されないかな?(試してません)




