12.人間が増える様子を確認しよう。
本文の「**************」の前後でシーンが変わります。
また、前後で「彼」が指している対象が異なります。
彼は転生を失敗したことに気づいた。無理矢理口から押し込み一度は入った魂は、再確認したとき人間のとなりに立っていた。入れそこねた人間の口は何かで覆われており、管のようなものが入っている。彼は別の個体に意識を取られていたため、いつのまに吐き出されていたのか気づいていなかった。
観察していたのは、魂を押し込んだ個体ほどではないが中心部が大きな個体だ。動く様子はなく頭の部分から血を流していたので、転生させる前に壊れるだろうと思い、彼は選ばなかった。
人間たちはその個体を運び、いくつかの奇妙な物体を使って、大騒ぎをして足を広げた状態に固定した。そしてその付け根を切り開いていくのを確認し、彼は驚愕を覚えた。目的はわからないが、人間たちがその個体を壊そうとしていると思ったのだ。何故そんなことをしているのかがわからず観察していた彼は、魂のことなど忘れるほどに更に驚愕させられた。
「人間だ」
そこから取り出されたものは人間の形をしていた。他の人間たちがその口に管を通して何かしていたのだが、彼にはそれが魂を入れているように思えた。生まれた人間が口から音を立てると、周囲の人間たちは更に慌ただしくなる。箱のようなものに入れられた小さな個体も気になったが、人間を増やした方の個体も気になり、彼はそちらへと意識を向けた。
その個体が動かないままであることを確かめ、増えるというこんなに大変な行為を繰り返してこれだけの数になったのかと、彼は畏れを感じていた。
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『…………さん3番の窓口からお入りください…………』
患者を呼び出すアナウンスが鳴っていたが、彼の耳には届いていなかった。義父と共に訪れた病院で、彼の妻と義母が運び込まれていたことを知った。玉突き事故に巻き込まれたらしい。
義父は義母の側にいるため、彼の待つ廊下には誰もいない。彼は息をひそめるようにして手術中の表示を睨みつけている。瞬きすら恐れるようにして身動ぎせずにいるのは、溢れ出る不安に叫びそうな自分を抑えるためだ。
どれだけの時間をそうしていたのか。扉の奥からつんざくような泣き声が響き、彼は弾けたように立ち上がった。扉が開くのをもどかしい思いで待ち、手術中の灯りが目に入って睨みつける。
灯りが消えて、扉から出てきた医師に言葉をかけられた彼は崩れ落ち、泣いた。
天井の角から、家族を皆殺しにした魂が彼を見つめていたが、気づくものはいなかった。
奥さんがどうなったのかは次回をお待ちください。




