11.魂を込めてみよう。
本文の「**************」の前後でシーンが変わります。
また、前後で「彼」が指している対象が異なります。
糸に包んだ魂は彼の保護によって守られていたため、わずかに身動ぎしただけで特に反応をしなかった。
地形が変わっていることなど一切考慮せず、彼は妊婦というものを探す。だが彼は根本的に人間の増え方を理解していない。
「口から入れて保護しているなら、出るときにはもう魂が入っているのかな?」
そう考えて口から人間を出そうとしている人間を探すが、当然そんなものはどこにもいない。個体が持つ熱量は彼に多数の人間が土砂に埋もれていることを伝えて来たが、ほとんどが壊れて中身が出ていることも伝えていた。どうやら人間の中には液体と魂が詰まっているらしいと思い、その液体が血というものかと思い至る。
「血が出すぎてもダメなんだよな」
最初からなければ壊れにくいのにと思いながら、彼は土砂の周囲を確かめる。どうやら埋もれた人間を回収しようとしているのか、箱状のものに入った人間がそれを操って土砂を動かしている。
少し離れたところでは液体が溢れないように処理をしている人間もいる。
そんな人間の群が先程の小さな生物を想起させ、彼は他に熱量の高いところがないかと意識を逸らした。
熱量の高い箱が連なり、一部が火を出しているのを感知して興味を持つ。
人間がいない箱に糸を這わせて形状を確認する。
「車ってやつか。軽トラってどれだろう?」
転生用ツールとして頻繁に用いられる軽トラがあるかと思い、彼はその周囲に意識を合わせる。
その車列から逃げたらしい人間の中に、中心近くが大きな個体があるのに気づいた。しかも他の人間がその個体の口を開けて口を重ねたり、中身を押し出そうとするようにリズミカルに押して刺激している。
「これが人間が増える方法か。コツが難しいから小説では書いてないのかな?」
彼はその個体を妊婦だと判断し、捕らえた魂を押し込んでみることにした。
**************
『…………おかけになった番号は電波が届かないところにあるか電源が入っていないためかかりません。おかけになった番号は電波が届かないところ…………』
何度目になるかわからない、無機質な音声の繰り返し。家で連絡を待っていた義父が蒼白になっているのを尻目に、彼は妻の携帯を呼び出そうとするが繋がらない。
土砂災害に隠れて彼には届かなかったローカルニュース。国道で起きた十数台の玉突き事故を見た義父が、妻を乗せた義母がそこを通っているはずだと伝えていた。
病院に着いたから電源を切っているのだと、義父は彼を落ち着かせようとする。しかし到着の報告さえないことが義母らしからぬことだとわかっているのだろう。時折手にした携帯や家の電話を見て、着信がないか確かめている。
不安を抑えきれなくなり病院へと向かうことにするまで、さほど時間はかからなかった。
口から人型を出す人型生物は、作者は思いつきませんでした。
肌が緑の異星人は卵生ですし。ビックリドッキリメカはメカですし。
他に人型生物で口から人型を出しそうなものってあったかなぁ…?




