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召喚賢者の魔王化計画  作者: 高田リョウ
8/13

第七話

その呼び出しは唐突だった。

昨日のエドワードとの闘い以降、あそこ周辺の住民や商店などの方々とはいいお付き合いが出来そうになった。

だが、その翌日にこの国の王…つまりヒト族の現『魔王』からの召喚命令が下されたのだ。

正直、昨日のエドワードが確実に一枚かんでいることは分かりきっていたが、なぜあんな奴の言葉を信じたのだろうか?…あるいは、いや可能性の一つとして考えることは可能か。

話は昨日まで遡る。

昨日、周囲の野次馬からやっとのことで解放された時にはソーニャはもう既に【銀狼亭】に戻った後だった。

帰り足に丁度いいと言い、ケイトはそのままイツキを【自由労働組合】通称ユニオンに連れていかれたのだった。

「あのケイトさん、ここってどういう場所なんですか?」

「そうねぇ…簡単に言えばここ王都周辺の治安を報酬によって依頼を受ける傭兵集団の集まりみたいなものかしら。さっきのごろつきも多分、ここから依頼を受けていたはずよ。」

「それで、何故俺はここに連れてこられたんですか?」

「だってイツキはこの国を出ていくつもりなんでしょう?」

ケイトさんの言葉にどきりとする。

元々イツキはこの世界の人間ではない、そのため必然的にイツキはこの世界から元の世界へ戻る方法を探していた。初めはケイトの持つ魔法指南書、次にケイトに連れられ訪れた王立図書館。

だが、この国で最も蔵書数のある王立図書館でさえ人間一人を召喚する事に関する書物どころかトニーさんに聞いていた迷い人に関する書物や伝説すら目にしなかった。

果ては禁書庫に入ったのにもかかわらずだ。

つまりは、この国には世界単位の転移を試したことすらないという訳だ。

なら他にやることと言ったらほかの国、それも世界単位の転移を試した…あるいは成功した可能性が高い国に行くしかない。

イツキが可能性があると目星をつけているのは、他の大国よりも魔力量が多いと言われる『魔人』の住む国の『ムスペルヘイム』と、他の大国よりも知略に優れていて尚且つ魔導器と言われるゴーレムなどの創造物を多く開発・保有している『天人』という種族の住まう『ヴァナヘイム』の二つが最有力候補ではある。次点で、本では名前しか載っておらず正確な位置すらわかっていないため行けるかも怪しい国の全ての『精霊』が住むと言われている『ミズガルズ』のどれかの国には居るだろうと思っている。

だが、イツキにとってはこの国を出ていくことを悟られてはいないだろうと思い行動していたのでこのケイトの発言は想定外だと思っていた。

「…いつから気づいてたんですか?」

「いつからもなにも多分そうなるんじゃないかなとは予想してたわよ。私もトニーもね。」

「どうして、分かったんですか?」

「昔会ったあの人にとても似ていたからね。」

昔会った?もしかして…昔、ケイトさんは召喚者と出会ったことがあるのか!?

「ふふっ…今、もしかして私が召喚者と会ったことがあるのか?とか考えてないかしら?」

「なんでわかるんですか…」

そう言いため息を吐くイツキに対して愉快そうに笑うケイト。

「だって、イツキってわかりやすいんだもの。」

本当はこの人〈常時発動〉で〈読心〉とか使ってないよな?

そう思い密かに〈抵抗(レジスト)〉の魔法を発動してみるイツキ。

だが、それすらもケイトに見破られる。

「別に私もトニーもこの国を出ていくことに反対なんてしないわよ。でもね、私たちに黙って出ていくのは許さないわ。あなたと私たちはもう家族じゃない。」

その言葉にイツキはどこか温かいものを感じた。やはりこの人には敵わないなと、思いつつも不意に優しく子どもを諭す、まるで自分を優しく叱る自分の母親をケイトに自分を重ねてしまった。

「すいませんでした。相談しないというより、あまり不安にさせたくなかったんですケイトさんたちのこと。」

「あなたはもう強いのよ!大丈夫よ!師匠の二人が両方とも手も足も出ないんだから、あなたはもう大丈夫って信じてるもの。」

「ありがとうございます。…それで本当にここに何の用事があるんですか?」

「イツキがこの国を出て別の国に入国する時に便利だからよ。この【組合証書】は身分証明にも使えるからね。だから先にとっておこうと思ってね。ちなみに私も持っているわ。」

「へぇ~、そうなんですね。でも俺は元々この国に国籍がないどころか、存在するはずのない人物なのに身分証明書なんて作ることが出来るんですか?」

「そこら辺は大丈夫よ。ここの組合会長とは知り合いだし、何かと融通も聞くのよ。」

そう言って組合の扉を開けるケイトとそれに続く不安そうな顔のイツキ。

だが、そこで待ち受けていた光景はイツキが想像していた光景とは全く異なるものだった。

外装を見たときは所々痛んでいたり、崩れそうな部分もあったが内装は全く異なっており、西洋風のシャンデリアがフロアの中心地の上部を陣取っており、床は大理石のような白基調の石造り。

少なくともイツキがあちらの世界にいた時では最上級のホテルと言われても信じていたと思えるほどの豪華さだった。

「あ!やっぱりケイトさん来てたぞ!ほら、俺が言ったとおりだろ!」

「本当に来てますね…お嬢はケイトさんのことになると他の人に負けないんじゃないかって思えてきますわ。」

「…それは俺のことを褒めてるのか?」

「何言ってんすか~褒めてるにきまってるでしょ。」

「何故棒読みなんだ!」

「気のせいっすよ。」

そう言い合いながら近づいていく二人組にケイトは親しげに話しかける。

「お久しぶりね、二人とも。」

「お久しぶりです!ケイトさん。このナターシャ、あなたが不在でも頑張ってこの支部を切り盛りしていました!」

「お久しぶりっす、ケイトさん。まだまだ若いですね。」

「あらあら、嬉しいこと言ってくれるわね~。セバス君も相も変わらず男前よ?」

「ありがとうございます。」

今、ケイトさんと話していたセバス?と呼ばれていた男性はこの世界では珍しいと言われている俺と同じの黒髪黒目だった。前髪は書き上げている状態でセットしているのかはわからないがでこが丸出しのため、特徴的な吊り目が強調されていて子どもに出会ったら確実に泣かせそうな風貌である。

「お前だけケイトさんに褒められてずりぃぞ!俺も、俺ももっと褒めてください!」

そう言って今にもケイトさんに飛びかからんとしようとしている女の子は見た目の通りの元気っ子で、ケイトさんの周りをピョンピョンと飛び跳ねている。イツキの目には犬のしっぽと耳が付いているように見えた。

それにしても綺麗な赤髪だ。ソーニャも赤髪だったけど、どちらかというとこちらの人の方が艶があると思う。正直なところそういうお洒落とかよくわからないがやはり種族が違うと毛髪の質も違うものなのだろうか?まあ、どちらも可愛いという点でいえば一緒なんだけど。

と、そこでケイトさんの後ろにいる俺に気が付いたのか、こちらに目を向ける二人組。

「ん?君は…ここで登録している人じゃないね。ここに何の用事だい?」

先ほどとは打って変わって落ち着いた様子で俺への対応を行うナターシャさん?だったか?

だが変わらない所はケイトさんに抱き付いている腕を決して話していないという部分だ。

「えーと、僕はケイトさんに連れてこられてここに来たんですけれども…。」

そう言った途端人間とは思えないスピードでぎゅるんと首を回しケイトさんの肩を掴みガクガクと揺らしながら問いただすナターシャさん。

「嘘!嘘だよね!?ケイトさん!!?結婚とかしないよね!?こんなどこの馬の骨ともわからない奴を婿として迎え入れるなんて反対だよ!ケイトさんは俺と結婚するんだよ!昔約束したじゃないか!」

等と言っている。

もしかしなくても俺、完全に誤解されてる?

別に俺はケイトさんの婚約者でもないし、結婚する予定もないけどな~。

「ねえ、ちょっとイツキ君?だよね?」

そこで、黒髪黒目のセバスさん?が話しかけてきた。

「はい、イツキで構いませんよ。」

「そう?じゃあ、イツキ。俺はケイトさんから事前に話は聞いてるから、こっち来て。」

そう言って俺を奥の通路に招くセバスさん?に着いていく。

道すがら、ケイトさんとはどういう関係なのかを説明してもらった。

「セバスさんとナターシャさんはケイトさんとどういう関係なんですか?」

「…ん~、どういう関係かと聞かれたら俺は親友と答えるかな~。お嬢は憧れの人って感じだと思うよ。」

お嬢…ああ、ナターシャさんのことか。というかこの人びっくりする程隙が無い。まるで、そうトニーさんのしごきを耐えたようなそんな隙の無さだ。

そんなことを考えていると、緊張していると思われたのかはははと小さく笑った後あんまり緊張しすぎないで、気楽にいこうぜと気遣ってくれた。

いい人だ…と思ったのも束の間、目的の部屋に着いたようである。

「着いたぜ、ここだよ。」

そう言って連れてこられたのは中心に直径30センチメートル程度の水晶球が鎮座されている部屋だった。

初めに訪れたのは困惑だった。なぜこんな部屋へ?というかこの水晶みたいな球、何?というここに来た意味が分からないといった類の困惑。

次に訪れたのも困惑だった。なぜなら、先ほどのロビーの様な場所にいたはずのケイトとナターシャがそこに居たからである。イツキとしてはこっそり抜け出してきたつもりだったので、ここに二人がいるとは夢にも思ってなかった。

「さっきまでナターシャさんとケイトさんはロビーにいたはずなのに、どうしてここに居るんですか?」

「近道があったからね。」

そう言って悪戯っぽく微笑むケイトさん。

イツキは嫌な予感がしていた。そもそも目的地の情報もそこまでよく分かっていなかったしそもそもここでどんな事をするか等全くと言っていいほど、聞いていなかった。

つまりこの後に何をするかも全く聞いていないわけであって…イツキは体中から冷や汗が流れる感覚を覚える。

ちらりとセバスさんの方向を見ると準備はできているというように構えをとる。

「もしかしなくても…戦う感じですか?」

「そういうことになるね~。」

どのみち拒否権はなさそうなので諦めた。

というか初対面の人と戦うって…正直嫌なんだけど。

「それで、魔法の使用はありなんですか?」

元々、イツキは〈上等防護〉と〈上等強化〉を重ねがけで発動していたが、ソフィアに指摘されてからは何も発動していない状態である。

ピリつく空間にナターシャが試合内容を説明する。

「まず初めに、魔法の使用は禁止だ。俺は素の状態のお前の身体能力を見たいからな。次に〈強化系〉の『特異(ユニーク)』の使用もだめだ。ただし、武器の使用は許可する。得意な武器があるなら用意するが、何か要望はあるか?」

「いえ、特にはないです。セバスさんも拳で戦うようですし、俺自身も拳闘使いですしね。」

「そうか、一応水晶はしまっておこう。」

ならなんで水晶置いといたんだよとは思ったが、口には出さなかった。

「それでは…初め!」

試合が開始したと同時に飛び出す、なんていうことはお互いにせずジリジリと一定の距離を保ちながら睨み合う。

そして、セバスが急に距離を詰め、右ストレートを仕掛けてくるがイツキは難なくセバスの拳をいなし、反撃の膝蹴りを叩き込む。

しかし、体を捻じりイツキの蹴りを躱すセバス。

互いが一撃を放ったことによって、お互いのある程度の実力がわかったのかどちらともなく構えを解く二人。

そして、急にセバスが笑い出した。

「あはははは!はは…は、息が出来ねえ…ははは!すごいね、イツキ!あんな簡単に俺のストレートいなされたのは初めてだよ!」

少々引き気味のイツキは…内心焦っていた。

あっっぶねぇぇぇ!

あの人急に距離詰めてパンチくらわそうとしてくるし、動きがトニーさんに似すぎなんだよ!

トニーさんと稽古してなかったら、あのスピードには着いていけなかったな、絶対。

良かったぁぁぁぁ!

トニーさんありがとう!

正直、イツキの内心の方が引くには十分なのだが、その事には気づかないイツキ。

二人の額には集中のしすぎか、汗が滲んでいた。

「いや、正直セバスさん早すぎます。俺も対応できたの、ギリギリでしたし。」

「またまた~そんな謙遜しなくてもいいのに~」

「本当に謙遜じゃありませんよ!…怖かったです。」

そんな話をしていたらいつの間にかケイトさんとナターシャさんが傍まで来ていた。

「…それで、セバス、そいつは合格か?」

「あ、お嬢。もちろんですよ。逆に合格にしない方がおかしいってもんです。」

「そうか……チッ」

この人、今舌打ちしなかった?

というか、ものすごい剣幕で俺のこと睨んでくるの、止めてほしいです。

怖いです。

「まあ、いい!他にも試験はあるからな!」

そう言われ、別室に案内される。

その後、魔法適性試験やら、なにやらを受けて最終的な通知は合格だった。

というか、最後の方の耐久試験とか確実に私怨で動いていた気がするが、気にするだけ無駄だと悟ったし、セバスさんからもごめんね~と言われたので別段怒ってはいない。

そうして、試験が終わり、組合における『組合員証明書』を発行された。

「それじゃあ早速だが、依頼をしようか。」

「え、そんなに早く依頼とか受けれるんですか?」

「今は人材不足なんだよ~」

「ああ、そういう事でしたか。」

そう納得し、依頼は受ける方向で纏まった。

ちなみに、ケイトさんは夕食の支度の為に家に帰った。

「それで、どういった依頼なんでしょうか?」

そう言うとおもむろにナターシャさんは一つの子袋を取り出し、その中から植物の種のようなものを取り出した。

「これを見たことがあるか?と言っても分からないと思うから、俺が説明させてもらう。」

曰く、片方は普通の食用にも使える種らしいが、もう片方の種が厄介らしい。

『悪意の種子』と呼ばれる危険な代物らしく、その効果は対象の体内に経口摂取、もしくは直接体に埋め込むことによって生きた傀儡にすることが出来るという代物である。

栽培方法は簡単で闇市(ブラックマーケット)でもよく見かけるが、最近かなり大幅な品種改良がおこなわれたしく流通量も多くなっているのだとか。

基本、危険物質として扱われているため表の市場などには出回らないようになっているが、最近ではこの食用の種に類似しているためなのか原因は不明だが表の市場にも出品されているときがあるのだそうだ。

「それで、その調査を行えという事ですか?」

「まあ簡単に言えばそういうことになるな。」

「それ、証明書発行されたばかりの俺にさせるような依頼じゃないと思うんですけど…?」

「何か言ったか?」

あ、ダメだ。この人話聞かない人だ。猪突猛進タイプだ。

仕方ないか…まあ、なんとかなるだろうし、とりあえず調査だけだしな。と無理やり自身を納得させるイツキ。

「まあ、初めての依頼だけど気合い入れすぎないで頑張ってね。」

「わかりました。ところで、依頼主はどういった人なんですか?」

「それはこっちにも守秘義務ってものがあるからな。基本的には依頼主の情報はやれない。」

まあ、それはそうだろう。もし、対人関係の依頼でそんなことがバレたらそんな奴とは一緒に居たいとは思わないからな。

「わかりました。」

「あ、そうそう。調査って言われてもわからないだろうから、とりあえず闇市での情報収集を行ってくれると助かる。」

「了解しました。」

そうして、帰りがけに闇市に情報収集に行ったものの、どこへ行っても門前払いだったので仕方なく後日行おうと思い家に帰った。

そしたら、王からの召喚命令が下った。

――というか、召喚場所が『円状(コロ)闘技場(ッセオ)』って嫌な予感しかしないんだが!?

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