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召喚賢者の魔王化計画  作者: 高田リョウ
3/13

第二話

「ん、ふぁぁ~。ここ、どこだっけ?」

目が覚めたら知らない天井が見えた。

あれ?ここ俺の部屋じゃないな。寝ぼけてるからなのか上手く思い出せない。昨日は何があったんだっけ?

しばらくの間フリーズしていた脳が働き始め昨日の記憶が戻って来る。

あ、そっか。俺、異世界に来たんだった。

しかも勇者様とか呼ばれてたし、さてどうやって誤解を解こうか?などと考えているとノックの音と共にケイトさんが部屋に呼びに来た。

「失礼するわ。ってあら、起きてたの?イツキ君」

「はい、おはようございます。もしかして、わざわざ起こしに来てくれたんですか?」

「それもあるけど大丈夫かなって思って…昨日は色々あったからね。あ、朝食出来てるから下にきて食べてね。」

「ありがとうございます。」

「それとお客さんも来てるから、早めに来ることをお勧めするわよ。」

「わかりました。」

そして、昨日借りたトニーさんの昔買った男物の寝間着を脱いで制服に着替える。

そういえば、着替えとか無いからこれからは制服のままなのだろうか…そのうち服買おう。

そう心に誓いながら、階段を下りて右手側にある食堂のドアを開ける。

扉を開けた瞬間扉の方からギャといった男の声が聞こえてきた。

急に聞こえてきた驚きの声に驚きすぐに扉を閉める。そして扉越しにケイトさんかトニーさんに質問する。

「あの…開けてもいいですか?」

「いいわよ~ご飯冷めちゃうから早く入ってきて。」

そして、扉を開けた先にいた人物は予想していた人数より多かった。

トニーさんにケイトさん、そして昨日夕食をいただいていた時にはいなかったレーナ姫。

それに、先ほどドアを開けた時にぶつかったのだろう赤くなった鼻を抑えながら、こちらを恨みがましく睨んでくる俺と同年代位の男性。

とりあえず、状況を整理しよう。多分さっき扉に鼻をぶつけた人と目が合う。…超睨まれた。

レーナは昨日俺が座ってたケイトさんとトニーさんと対面の席に座っている。

トニーさんやケイトさんに至っては、心配する人と必死に笑いを堪えている人に分かれている。

「ケイトさんが朝食を作ってくれたという事だったので冷める前に食べたいと思って急いで来たらレーナちゃんの後ろに立ってた彼の鼻に俺が開けた扉がぶつかったという事ですか?」

そして一番面白そうにしてたケイトさんに視線を向けて説明を求める。

「正解だよ…ふふふ」

とても楽しそうですね。俺としては変な所で知らない人に喧嘩を売ってるようなものなんだけど。

とりあえず謝っておこうと思い謝罪の言葉を口から出そうとするが、その言葉は口からは出なかった。というか出せなかった。

目の前の男に突然殴られたのだ。頬に鈍痛が走る。それと同時にケイトさんは驚いた顔になり、トニーさんとレーナは慌てて俺を気遣いながら近寄って来る。

「いってえ!?なにするんだよ!?」

「うるさい!貴様、一国の姫を『ちゃん』呼ばわりだと…?不敬だぞ!貴様!姫、こんな無礼者があの高名な勇者様な訳がないです!即刻首を刎ねるべきですよ!」

そして、殴った俺なんてどうでもいいようにレーナに言う。

確かに俺は不敬だったかもしれないけど、普通殴るか!?昨日こちらの世界に来たばかりの奴にそこまで威張り散らせることが驚きだよ!?

あからさまにテンパっているこの男以外の面々。トニーさんにいたっては、怒りで顔が真っ赤になっている。

「ケイ!なんてことするんだ!勇者様に謝りなさい!」

「残念ですがトニー様、僕はこの男が勇者様とは思えません。それに先に手を出したのはあちらです。よって僕には過失はないと思います。」

「それは、お前の屁理屈だろう!それに勇者様はわざとしていたわけではないとお前も気づいていただろう!?」

他人が自分以上に怒っていると逆に自分が冷静になれるっていうのは本当の事だったらしくトニーさんが怒っているところを見た瞬間に瞬時に冷静になった。

ていうか、トニーさんってあんな顔するんだな。昨日からニコニコな顔しか見てなかったから全然怒るイメージが無かった。

てっきり、怒るとかとは無縁の人だと思っていたがどうやらそんなことはなかったらしい。

なんて、さっき殴られた時の怒りなどはすっかり忘れ考える。

というか不味い、このままだとトニーさんの怒りが頂点に達し確実に殴りかかる。

流石にそんな光景は見たくないし、おかしいとは思うが俺が仲裁に入るとしよう。

「トニーさんそこまで怒らなくても大丈夫ですよ。元々、扉を開ける時に僕がノックなりなんなりすれば怒らなかったことですし、それに僕今おなかペコペコなんですよ。それにせっかくのケイトさんの朝食が冷めてしまうので喧嘩はそこまでにしましょう?」

「勇者様がそうおっしゃるなら…私が怒る必要も無いというものですな。」

渋々と言ったところだがどうにか納得してくれた。

「ふん。負け犬が。」

おい、聞こえてるぞ。せめて聞こえない声で言ってくれ。直球で俺の心を抉りにくるのは止めろ。

それに俺は負け犬じゃねえし、平和的解決だろうが。むしろ感謝してほしいくらいなんだが。あのままだとお前確実殴られてたぞ。

なんで助けられたお前が俺に悪態吐くんだよ。おかしいだろ。

こいつに対する不満を心の中で発散する。

これぐらいは許してほしい。怒ってないわけではないが、早くケイトさんの朝食を食べたいというのは本当の事であったからである。

「ありがとうイツキ。あのままだと兄さん、確実に手を出してただろうし。」

「いえ、大丈夫ですよ。逆にトニーさんの怒ったところなんて想像もつかなかったので、これはこれで見れてラッキーっても感じですよ。それにケイトさんの朝食を食べたかったのは本当のことですし。」

「そう、嬉しいわね。でもあまり期待はしすぎないでよ?」

「いや昨日も言いましたけどケイトさんの料理美味しいですって。」

「ありがとう。」

そう言って台所に向かうケイトさん。

今はレーナちゃんに席を取られているためトニーさんの隣に座る。

目の前にはレーナちゃんが申し訳なさそうな顔をしてこちらを見ていた。

そして、目が合うとすぐに視線を逸らされる。

そんなことを考えていたらケイトさんの料理が運ばれてきた時、意を決したようにレーナちゃんが口を開いた。

「あの、勇者様私たちが今日来たのには理由がありまして、そのことについてお話させていただきたいのですが…。」

正直、なんとなくそんな気はしていた。

わざわざ俺の顔が見たくてここに大国の姫が来るわけがないし、どんな理由かは想像もつかないが、とにかく重要なことだという事はレーナちゃんの声色で理解した。

「分かりました。ですが、レーナ姫一つだけ僕の提案を受けてくれませんか?」

そこでレーナちゃんの後ろに立っていた男が俺にというより、俺の発言に噛みつく。

「貴様…ふざけるなよ?何故、姫が貴様なんぞの提案を受け入れねばならんのだ!」

という言葉と同時に男がこちらに歩を進めようとする。

あー…これはまた殴られるパターンかな?と現実逃避していると、レーナちゃんがやめなさいと嗜める。

そして、少しの思索の後に「わかりました。その提案を受けます。」と神妙な面持ちで告げる。というか、少しこの男もレーナちゃんも警戒しすぎなのではないか?レーナちゃんにいたっては俺を召喚したんじゃないのか?

しかし、なんでこいつはそんなに警戒しているのやら…私には訳がわかりませんと言って聖人のような顔をしている自分を考えて気持ち悪いと率直に感じた。

完全な自爆であり誤爆である。

「何に警戒しているのかはわかりませんが、とても簡単な事です。レーナ姫、僕の事をイツキと名前で呼んでください。勇者様なんて呼ばれるとなんかむずがゆくて困るんです。」

「それだけですか?」

驚いたように、それでいて少し呆れているようなキョトンとした顔をしている。

「はい、それだけです。それにあなたは姫ですから僕の事はイツキって友達感覚位がちょうどいいかなって。」

まあこんな年下の女の子を友達と呼んだら確実に警察事案ものだが、そこは目を瞑ろう。

「わかりました勇者様、じゃなくてイツキ…さん。それでしたら、私の事もレーナと呼んでください。それに友達感覚というなら、私と友達になって下さいませんか?」

そう上目遣いで聞いてくる。これはポイント高いです。いや、そんな事を言ってる場合じゃなく姫と友達とかおかしいだろ。まずこの状態がおかしいのだが。

「いや、流石にそれは…あなたは一国の姫でしょう?」

「私にだけ呼ばせるのですか?それに友達と言えるような人は今まで一人もいなかったのです。私と友達になるのは嫌でしょうか?」

そう言って泣きそうな顔になる。

いや、ズル過ぎるだろ可愛いなおい。

このままだと、俺の事も勇者様呼びに戻りそうだし諦めよう。

後ろの般若のごとき形相をしている奴の事は無視しよう。

「わかったよ、レーナ。それで僕…いや俺に会いに来た理由っていうのは何だ?」

「レーナと呼んでくれてとても嬉しいです!ありがとうございます勇者、じゃなくてイツキさん。」

そう言って向日葵が咲いたように眩しい笑顔でにっこりと笑う。

少し花に似てる気がするな。ただ単に歳が花に近そうというのが一番の理由だが、雰囲気がどことなく似ている気がする。

というか、俺が勇者というのはレーナの中では決定事項らしい。

どうやら誤解を解くのはもう少し先のようだ。

俺には元の世界戻らなければいけないという目的がある。

面倒事は少ない方がいいが、とりあえず覚悟はした方がいいみたいだ。

真剣な顔をレーナ姫はしているため相当重要なことなのだろう。

「それはですね、このプレート…『適性(ジョ)()識別表(プレート)』にふれて少し魔力を流してほしいのです。」

そう言ってレーナ姫が白色の紙の様な物を差し出した。

イツキは怪しみながらもジョブプレートを受け取る。

紙でできてるという事もあり、プレートというより日本でいう名刺みたいだ。

だが、サイズはA4程度の大きさなので名刺とは似ても似つかない。

というか、魔力なんて使ったことが無いから分からないんだが。

とりあえず力んでみれば流れるだろうかと思いとりあえず力んでみた。

「!!?イツキさん!そんなに魔力を流すと…!」

「この魔力量は…!?」

「どうしたの!?ありえない魔力を感じたけど!?」

俺以外の皆が反応する。なんかおかしいことがあっただろうか?

そして、突然ジョブプレートは激しく発光し始めた。

結果としては魔力を流すことができたのだが、それだけでは済まなかった。数秒間この部屋の中ではジョブプレートは発光していた。

その光景を見てその場に居た全員が驚愕に顔を染める。てか、これ普通は発光するのだろうか?いやあり得ないだろう。だって凄い驚いてる顔してるし…うわ、なんか不味いことになった気がする。

光が収まり辺りが食堂だと認識できるほどになった瞬間にレーナに質問する。

「えっと、これでいいか?」

呆然としている一同。静寂に取り残される俺。このカオスどう収集をつければいい?

とりあえず、事の発端のレーナに話しかける

「レーナ?大丈夫?水、持ってくるか?」

「あ、い、いえ…大丈夫です。少し待っていただいてもよろしいですか?気持ちを落ち着かせたいので。」

「わかった。落ち着いたら教えてくれ。」

そう言って回れ右をして後ろを向いた後、深呼吸を何度か繰り返しようやく落ち着いたようだ。あいつに限って言えば未だにあんぐりと口を開けアホ面を俺に晒している。

こいつ…こんな顔を人に見せて恥ずかしくないのだろうか?と疑問に思ったが先ほど殴られた事を覚えているのでこのアホ面を今のうちに見ておこう。

今後笑わないで接するのは難しそうだが…。

トニーさんとケイトさんは落ち着きを取り戻したらしく俺の疑問に答えてくれた。

「そういえばジョブプレートってどんなものなんだ?」

「それはですね、文字通りそのプレートに魔力を流した者の適性職、つまり一番向いている職業を提示もしくは天から授かった『天職』という特殊な職業を提示するものです。他にも簡単な基礎能力…例えば体力、体内魔力量などが提示されます。」

ある程度落ち着きを取り戻したトニーさんが答える。

「へえ、そうなんですか。」

ゲームやラノベでのステータスプレートの簡易版みたいなものだろう。

でももしかしたら俺も自分の能力とか確認できるのか便利だ。

「ちなみに体力などの基礎能力は見れますが、私のユニークの様なものは閲覧できません。あくまで身体能力とその延長程度です。」

事細かに説明してくれるトニーさん。こういう風に説明してくれる人がいるのはいいことである。

そして、トニーさんと話していたら落ち着いたのかレーナがこちらの話に混ざってきた。

「はい…ですので、どうしてもイツキさんの『天職』を確認しておきたかったのです。」

そう言って申し訳なさそうな顔でこちらに向きなおった。

この娘は俺にも想像がつかないくらいの苦労をしてきたんだろう。

俺よりも年下でありながらこの腐りきった貴族が富を肥やすたび国、そして国民のために必死に良くしようと奔走しこの小さい体で、小さい手で国民を国王を守ろうとしていたのだ。

そして藁にも縋る思いで俺を召喚した。

だが、彼女が望んだのは『勇者』で俺は『勇者』にはなれない。

さっきの突然の発光の後、このジョブプレートに浮かび上がった文字。そこに『勇者』の二文字はいくら探しても見つからなかった。

俺は勇者じゃない、藁にも縋る思いで俺を召喚した彼女たちに伝えるのは残酷すぎないかと思いながらも彼女にとって絶望であろうという言葉を発する。

「このプレートを確認しました。」

「…それで、どのような結果でしたか?」

そう言って俺に詰め寄る。トニーさんやケイトさんもどこか神妙な面持ちで俺の言葉に耳を傾けている。

あの男はやっと放心状態から回復したらしくこちらをボーと見ている。

「俺は、俺の『天職』は『勇者』じゃなかった。ごめん、期待に応えられなくて。」

少し言い淀みながらもはっきり答える。

「……え?そんな…事って…嘘…でしょ?ねえ、イツキさん?」

案の定、と言えば良いのかあからさまに絶望の色を瞳に浮かべていた。

こんなことになるならこのプレートを壊してしまえば良かったのだろうが、貴重な品であることはわかっていたしそんなことを毎回することは困難で誤魔化す事にも無理がある。

いずればれる位なら今話した方がダメージは少ないと思っていた。

だが、そんな顔を見ると相当追い詰められていたことがはっきりとわかる。

そして、その問いに答えるようにゆっくりと、首を横に振り、その後俯く。その行為はレーナにとってさながら死刑宣告のようで、その悲痛そうなレーナの顔は見ていられなかった。

「そう、ですか…わかりました。今日は、帰ります。お邪魔しました。ケイトさん、トニーさん朝早くから申し訳ありませんでした。」

「はい、わかりました。お気を付けてお帰り下さい。」

「気を付けてね。また遊びに来てね。」

そう言ってレーナを見送る二人。俺は罪悪感からかまともに見送れなかったが…。

そして帰ろうとしているレーナの後を慌ててついていく男。

「待ってください姫!…おい!そこの能無し!俺の名前はケイ。姫の忠実なる騎士だ。よく覚えておけ!」

そう言って嵐のように二人はこの家から出ていった。

そこからの記憶は曖昧で思い出せない。ただ終始ケイトさんとトニーさんに心配させたことだけは思い出せる。

体をズルズルと引き摺って部屋にたどり着きそのままベッドに倒れこむ。

先程までの事を思い出す。

これでまだ二日しか経っていないんだな…。

これから、どうなるのだろう?

元の世界に返してもらえるのだろうか?

だけど、もし帰れたとして、レーナやトニーさんはどうなるのだろうか?

確かに貴族たち腐っている奴が多いことは昨日の話を聞いていてわかっているが、俺がなにかできるわけでもない。所詮一般人なのだ。

だって、俺は『勇者』ではないのだから。

ここにいても迷惑というものだろう。

レーナにはすまないが俺は…元の世界に帰る。

こちらの人たちと元の世界の家族を秤にかけることはしたくないが俺は俺を育ててくれた家族に心配も心労もかけたくない。

「今日はやけに独り言少なかったな~元の世界では意識しなければ止まらなかったのに。」

そう言って一人で笑う。

そう…まだ、二日しか経ってない。

それでも、二日も経てば失踪事件としては十分だろう。

早く帰って安心させたい。いや、俺がこの世界から逃げて安心したいだけかもしれない。

…俺はどうすれば良かった?

どうやっても変わらない事実を捻じ曲げることは出来ない。

俺は『勇者』ではなく、『賢者』なのだから。

帰るための手段…探さないといけないな。トニーさんも分からないって言ってたし。

こうして、俺は『勇者』ではないという誤解が解けたが、代わりにレーナの絶望という対価を押し付けた。

そうして、もやもやした感情を押し殺すように俺は夢の世界へと旅立った。

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