第一話
更新三か月も遅れてすいませんでした。
異世界に召喚されて三時間後、現在の時刻は午後五時半。
色々と混乱していたが現在は少し落ち着いている。
「スープの味は薄くない?美味しい?」
「はい。すごい美味しいです。お世辞抜きで。」
そして、すんごい美人な女性が作ってくれた夕食をいただいている。どれくらい美人かというと、テレビに出てる女優さんと同じくらい美人。この人が某シャンプー会社のコマーシャル出てたら俺の母親は必ずと言っていいほど同じシャンプーを買うだろうと断言できるほどの艶のある藍色の髪。
そして、海の様な澄んだ蒼色の瞳はサファイアを連想させられる。
その上、面倒見もよくて世話好きとか確実モテモテだろうな。
「それは良かったわ。」
そう言ってにっこりと笑う。
やはり綺麗な人だな…これだから異世界というのは不思議だ。
というか、そう!俺は正真正銘の異世界に来てしまったのだ。しかも帰る方法もないというオプション付きで。話は三時間前に遡る—――
俺に魔王になってほしいと言う女の子は淡いライトブルーの綺麗な瞳が潤んでいる。
今にも泣き出しそうというか目に涙を溜めているため慌てながら様々な疑問を投げかける。
「いやいやいや…ちょっと待ってよ。僕はまだ学生という身分だし、それに魔王ってそんなのただの一般人がなれるものじゃないでしょ?」
とにかく、ここは何処なんて聞くまでもなく召喚という単語を先ほどこの人たちが連呼していたため推測ではあるがここ、と言うより多分世界単位で違う場所、つまり異世界に来たんだろう。
異世界…それに、この世界で魔王になれとかまず無理だろう。他の世界から来たとか妄言を吐いてる奴が魔王とか配下の人たちも混乱するというか、納得する事すら無理だろう。
まず、配下や今の魔王は人なのだろうか…?
そう思い、目の前の女の子の事をじっと見つめる。やけにそわそわしているけれど大丈夫なのだろうか?
「あの…大丈夫ですか?『勇者』様。私の事をそんなに見つめられて、私顔に何かついてますでしょうか?」
「あ、ああ、うん、ごめん。何も無いので気にしないでください。それより…先ほどの質問に対して答えてくれませんか?」
顔に何かついてるかもという解釈してくれた。良かった…人間かどうか確認していたとか言ったら流石に、本気で怒りそうだし。とはいえ、やはりここは異世界だとしか信じれないな。ラノベとかで異世界召喚とか異世界転生ものとかはあったけどあれはフィクションだし、現実に起こりうるとは考えにくい。そう考えると何かの映画の収録…?いや、でもわざわざこんな大掛かりなセットを街中に作ることが出来る会社なんて無い。それに俺が主役みたいな役回りなのもおかしい。やっぱりここは異世界…?
次々と湧いてくる疑問を打ち消しながら彼女の説明を聞く姿勢に入る。
俺の中での結論は、これは夢オチだという事で終了した。
「はい。勇者様が混乱されているのも判ります。ですので、元々一から一通り説明させていただかせてもらうつもりでした。少し長くなりますけどご了承ください。」
そして、そこから先に聞いたものは、案の定ラノベ等に出てくる様な空想や妄想と言われても納得できるものだった。
この世界は六大国という国が中心となって世界の覇権を狙っており、その国の王は敬意と畏怖を込めて『魔王』という称号をもらい受けるという事。
『魔王』と言っても魔物を使役するわけでもなければ、魔人の様な害をなすものを束ねて災厄を振りまこうとするでもなく、六大国の王のことを指す事。
過去には小国がちらほらとあったが、現在は温厚派である〈亜人国〉や竜神が生まれ落ちた土地とされ崇められている中立派の〈龍人国〉に統合したという事。
ただ、『魔王』間にも格差があるらしくこのレムリアという国の民や王の体や魔力が他の種族より弱く、最弱の魔王国と言われている事。
また、その馬鹿にしている一部の国の貴族の中には農作物生産国と呼称されており自分達へ農作物を作るためだけの国と考えられている…らしい。
それで、何故俺が『魔王』にならなければならないのか正直分からない。
だって俺、普通の人間だし、たとえ召喚されて身体能力が上がったとしていても、国を丸ごと変えられるような政治の能力も無い、力だって何もない…はず。
正直、今の自分の身体能力どころか体事態どうなってるか分かっていない状態で任せろ!なんて言えるわけがない。
だから、どんな能力を持ってて、どんなことが今の俺にできるかなんて分からない。
「まあ、なんとなくは分かった気がします…多分。」
いや、正直に言うとこの国の状態と周りの国との関係、それにどんな世界か分かった程度だが。
本当は話の二割ほどしか分からなかったが。
「姫様、私の方から簡単に説明してもよろしいですか?『勇者』様は召喚されたばかりゆえたいそう混乱されていると思いますので。」
流石に情報量が多くて混乱していた俺に、助け舟を出すような形で俺が理解できていなかった八割の事を説明してくれると白髪のダンディなおじさんが言っていた。
「そうですね…私も説明が長かったと思いました。申し訳ありません『勇者』様。では、私はケイトさんの所にでも行ってまいります。後の事はよろしくお願いしますね、トニーさん。」
「わかりました。このトニーがしっかと勇者様に分かるように説明して見せますぞ!」
そう言ったトニーさんの様子を見て安心したのか教会の奥の扉に向かって行く。
いやだから、別に俺は勇者なんてたいそうなものなんかじゃないんだけど…まあ、誤解はそのうち解こう。
「では、説明させていただきます!」
「あ、その前に今更なんですけど名前を聞かせていただいてもよろしいですか?」
「申し訳ありません。すっかり失念しておりました。私の名は、トニーと申します。歳は四十でございます。このレムリア国の都市であるレムリアの教会で牧師をしていますので貴族よりも少し下くらいの地位にいると言われております。因みに娘と妹がおりまして妹は家での家事を取り仕切っておりますので後々会う機会もあると思います。」
娘さんがいるのか…四十で子どもがいて、奥さんがいないというのはどういうことなのだろうか?普通の家庭で育ってきた俺からしたらおかしいものだと思うけど、まああまり気にしない方向でいこう。
流石に他人の家庭事情に首を突っ込むのは失礼だしこれ以上考えるのは止めた。
それにトニーさんに自己紹介してもらったんだから俺も自己紹介するのが筋だろう。
「ありがとうございます。僕の名前は山本樹と言います。歳は十七で元の世界では学生してました。地位とか権力とか大層なものは無く、一般人です。他に詳しい事は妹さんと会った時でもいいですか?」
「はい、それで構いません。わざわざ自己紹介していただいてありがとうございます。」
いや普通に考えて、自己紹介をさせるだけさせてこっちが名乗らないとか馬鹿だろ。
それにこれからお世話になるかもしれない人に粗相をするわけにもいかない。とりあえず先ほどの子について疑問があるしそのことを聞くとしよう。
「早速で悪いんですけど俺の質問をいくつか答えてもらってもいいですか?」
「ええ、もちろんですよ。何でも質問してくださいませ勇者様。ある程度の事なら答えられますので。」
よし、とりあえずこの人やさっきの女の子は俺に敵意があるわけじゃない…と思いたい。
害意や敵意を気配だけで察知することなんてまず一般の男子高校生には無理である。とりあえず大丈夫な人間側にしておこう。今後敵にならないことを祈って。
「さっきの子はこのレムリア国?のお姫様だったりとかしますか?」
「はい、左様でございます。彼女はレーナ姫と言いましてこの国の現魔王であらせられるマティア=ブラウン様の一人娘であらせられます。私は昔、よくマティア様と遊んでいたいわゆる幼馴染みの仲でありましてその事もあり、よく遊びにいらっしゃるのです。」
「じゃあ、二つ目の質問ですが何故俺の事を勇者と呼ぶのですか?」
「それは、申し訳ありません…つい興奮してしまい。名乗っていただいたのに私としたことがお名前で呼ばないなど、いや、ですが私などが勇者様の名を呼ぶなどおこがましいのでは?ですが勇者様が呼べと仰っているのですから呼ばないわけには…。」
なんかトリップしちゃってるんだが、瞳に俺が写ってないんだが!?
仕方ないから諦めて次の質問に移ろうか、いや別に面倒だからこの問題を放棄するとかじゃなくて、あとで解決しようとしてるだけから!
「呼び方の話は一旦棚に上げておいて、最後の質問なのですがこの世界に魔法や魔術の概念はありますか?」
これが一番気になっている。
いくら異世界と言っても元の世界と変わらなければ世界単位での移動が出来るわけがない。
これで無いとか言われたら絶望的である。
そんなこれからの俺に関わる質問の返答はあっさりしたものだった。
「ありますよ。むしろ魔法によって発展を遂げています。最近の農業用魔道具なんて目を見張るものが多いですから最近は農家の方々も張り切っております。」
「そうなんですか…良かったです。」
「質問は以上でしょうか?では次はこちらの話をさせていただきます。まずこの国の貴族たちと王の現状なのですが…」
そこから先の話は真っ黒な国内事情だった。
腐敗した貴族たちが自身の富を肥やすためだけに農業用魔道具を技術者に発明させ、その魔道具が無ければ収められない程の納税義務を課す。
納税が出来なければその家族まで巻き込み他国に奴隷として売り飛ばされる。
最初の感想は、何でそんなブラックな国に召喚されてるんだよ…しか出てこなかった。
それにこの国は俺とは無関係で、これから生活していくなんて考えもしなかったから他人行儀にもなるだろう。
そして、元の世界に帰りたいという事をトニーさんに相談した。
「それは難しいと思われます。…この話は誰にもせずにいてくれるとありがたいのですがなにより勇者様は知る権利がありますし、私は教える義務がある。私は『特異』持ちです。ですが必要な魔力が膨大なため簡単には使えないのです。あまり詳しく話すと長くなるので、この話は明日にでもしませんか?」
その頃には空が来た時と異なり傾き始めていた。
俺の寝泊まりをする場所をどうするかという話になった時にトニーさんの妹であるケイトさんが来たという事である。
急なことばかりで混乱しているはずだから暖かいスープでも飲んで今日は寝てくださいと言われ、確かに考えることが多く早く一人になりたかったためその提案に乗った。
というか、無言の圧力が強すぎて言うことを聞かざるを得なかった。
あの人は訓練すれば威圧と眼光で人を殺せるのではないかという発見したくない案件を発見したと同時に心の中にある絶対に怒らせてはいけないリストに密かに名前を綴った。
そして今は、ふと自己紹介をしてないと思い簡単な自己紹介をケイトさんとトニーさんに行い自室として貸してくれた部屋に寝そべっている。
「そういえば、お姫様はスープをいただいていた時にはもういなかったな…。それにしても大変なことになったな。大変の一言で済ましちゃいけないとも思うが、とりあえず明日は話を聞けるだけ聞いてお暇するか?流石に衣食住をまるっきり面倒見てもらう事は情けないし…かといってトニーさんが簡単に諦めてくれるとは思えない。それにこの世界につてがあるわけでもないし。食事とかなら手伝えるしケイトさんの手伝いとトニーさんの手伝いは…とりあえずできる事をしてみようかな。…父さん、母さん、花、とりあえず俺はこっちで頑張るよから心配しないでいて。絶対、そっちに帰るから」
それに、ずっと気になっている事があった。
『勇者』とはこの世界でどのような存在なのかというものだ。
先ほど、ケイトさんから食事中に権力者から嫌われているみたいなニュアンスで話していた。
この世界の王様は魔王と呼ばれているみたいだし、やはり元の世界の感覚とは違うんだなと改めて感じる。
そんなことを考えているとケイトさんの言う通り慣れない環境で疲れていたのか、すぐに意識を手放し深い眠りに落ちた。