神くんの優しさ
少し汚いです。食事の片手間に見ている方はお気を付けください。
腹パンをきめたけれど大してきかなかったことをいぶかしむと実体がないから効かないよ~とヘラっと笑われた。
ちなみに自分の意志で触ることはできるようだ。
泣いたことで落ち着き、神くんに茶化されて癪だがいつもの調子に戻った私に神くんは何か飲む?と聞いてきてくれた。
「とりあえず何かもらえる」
「りょうかい」
そういうと神くんは床をすり抜けた。
「ひっ」
その光景はあまり目に優しいものではなかった。人がゆっくりと床にめり込んでいくのはシュールすぎる。
「ごめんごめん」
口が床に入って鼻から上がみている姿で言われても恐ろしさが増すだけだ。
一階からカチャカチャ音がするのでどうやら台所から飲み物をもってきてくれるようだ。
何か飲むと聞かれたときは神様の力的なもので水を出すのかと思ったがそうではなかったようだ。
「いやできなくはないけど、この世界は魔法の概念が薄いから疲れるからやりたくないかな」
そう言って今度は扉を開けて普通に入ってきた。
「魔法の概念が薄いって、むしろ魔法を知らない人のほうが少ないと思うけど」
「それはリアリティを伴ったものじゃないからノーカン」
色々と神くんにも制約があるんだなと思ったがまあそれは私には関係ない。
神くんからマグカップを受け取った私は顔をしかめる。
中身がホットミルクだったのだ。
においだけで気持ち悪くなってくる。
けれどこれはカルシウムの持つ神経を落ち着かせる作用を狙っての神くんの気遣いなのだということはわかる。
神くんの気遣いを無駄にはしたくなくて、マグカップに口をつけ一気に飲み干そうとした。
しかし少し飲んだところで神くんに横からマグカップを取り上げられる。
「そういう風に僕に気を遣う必要はないよ」
神くんは少し怒っているようだ。
私は神くんに謝りたいと思うもけれどもそれどころではない、少し体に入った牛乳が胃の中で暴れまわっているような感覚が私の体を襲う。
気持ち悪い、吐きたい
そう思った矢先に胃の中のものが逆流してきた。
ゲボ
とりあえず牛乳は出たが気持ち悪さは収まるどころが自分の胃液のにおいで余計気持ち悪くなって、吐くものもないのにえずくのを止められない。
目の前に水の入ったコップを差し出されてそれをゆっくりと飲むことで少し落ち着く。
「ごめん僕の気遣いが足らなかった」
私はゆるゆると首を振る。
神くんのせいではないそれにいつもだったらにおいに気持ち悪いと思った時点で飲まないのだが、今はリコルちゃんと会話ができたからか気が大きくなって飲めると思ってしまっただけだ。
本当にそれだけで神くんに悪いことなんて何一つない。
神くんは何か言いたそうに口を開いたが結局何も言わなかった。
落ち着いてきて冷静になると吐しゃ物がないことに気が付いた。
「ああ、転移魔法で下水に流しといたよ」
「ありがと」
神くんのを前にした私情けなさすぎる。
それにしても今思えば神くんと初めてあった時、私は自然体でいた気がする。
私の作った幻覚かもというのと、声にださずとも思ったことに答えてくれることとがあったがそれでも鬱になるよりもっと前の私で話せていた。
そしてそれは現在進行形だ。
自分でもなぜそうなっているのか謎だが正直とてもうれしい。
「そうでしょ、そうでしょ、も~と僕を崇め奉るといい」
訂正する、うざい。
「え~」
口に空気をいれて膨らますその様子もまたうざいのだが。
「ごめんなさい、調子に乗りました」
神くんとのやり取りで、牛乳いっぱいすら飲めない自分へのふがいなさと、神くんへの申し訳なさが私の中からは消えていた。
「蓮ちゃん、もう寝るといいよ疲れたでしょ。異世界には魂を飛ばさないから、ゆっくりお休み」
そういった神くんに手を肩にかけられて半ば強引にベットに寝かされた。
神くんが私の目の上に手をかざすとすぐにウトウトしてきた。
その間神くんがどこか懐かしい歌を鼻歌で歌っていたけれど眠い私はそのことを深く考えなかった。