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ファーストコンタクト

 ルーちゃんの体で生活することになった私だが、ルーちゃんは今後この体に戻ることはないそうなので自由に行動していいと神くんに言われた。

 仮にルーちゃんの体が死んでも椎名蓮とルーちゃんの魂が死ぬことはないそうだ。


 それからルーちゃんは誰にも名前を教えていなければ、顔も見せたことがないとのことだ。

 外に出るときは必ず顔を布で覆って、村人との会話も必要最低限。


 親から捨てられ、育ての親兼師匠はすでに他界している。


 ルーちゃんとして生きずに蓮として生きることに何一つとして問題がない。

 なので私はこれから椎名蓮を名乗り私として生きていくことにした。


 そんな決意を異世界生活1日めにしていたところに、すみませんと声が聞こえてきた。


 心拍数が一気に上がる。

 この声が私が初めてこの世界に来た時の人のものだということはすぐにわかった。

 たしか薬が欲しいと言っていた。

 私が今ここで動かなければ、人の生死に関わるかもしれない。

 動かなければと焦燥感がつのるが体は動かすことはおろか声を出すこともできない。


 私は必至に自分に言い聞かせる。相手から自分が見られることはない、例えうまくいかなくてもこの体はルーちゃんのものだから私の失敗は私がしたことにならない。


 つい先ほど自分として生きようと決意したのに何とも身勝手な話だと自分でも思う。

 けれどそう思って落ち着かないとどうにもできない自分がいる。


 体の震えが抑えきれず、私は震える声でこんにちはと言った。


「こんにちは、魔女さん、入ってもいいですか」

「どうぞ」


 キー

 扉の開く音がして中に人が入ってきたのがわかる。

 私も隣の部屋への扉を開ける。

 応対用の部屋は事前に知恵の泉でわかっていた通り、マジックミラーのようなガラスが部屋を分けている。


 小柄な女の子がガラス越しに座っているが、彼女は私が来たことには気がついていないようだった。


 私は彼女の座っている向かいにある椅子に腰を掛ける。

 なんだか囚人の面会のようだと関係ないことを考えて現実逃避をしてしまう。


「こんにちは、今日はどうしたの」


 女の子は私の声に一瞬驚いたがすぐに笑顔になった。


「魔女さん!よかったこの前来た時、変だったから心配だったの、風邪を引いたんですか?」

「そうなの、ごめんねこの前はくるなっていちゃって」


 女の子は少し首を傾げた。


「魔女さん、どうしたの何だかいつもと雰囲気が違う気がしますけど……」


 私はどきりと心臓が跳ね上がる音を聞いた。とっさに口から流れるように嘘が出てきた。


「これからみんなと仲良くしたいなって思ったからなんだけど、変かな?」


 女の子はとんでもないというかのように首がもげそうな勢いで激しく首をふった。


「そんなんことないよ、私は魔女さんと仲良くなれるのとっても嬉しいから、今の魔女さんの話し方だとすごく話しやすいてす」


 私の嘘にこんなにも優しい解答をしてもらえると私の良心が痛んだ。しかし異世界から来たなんて言えるわけもないのでこの嘘しかないよなと思いなおす。


 それにしてもルーちゃんよ、コミュ障の私の話し方で話しやすいって今までどんなだったんだい。


「あの、魔女さんところでお薬もらえますか?」


 いっしゅん意識がどこかに行ってしまったがその声ではっとした。

 鑑定眼を使って彼女のことを見る。


 リコル (11)

   LV.21

   固有状態異常 喘息


 神くんがどうやら年齢の表示もするようにしてくれたようだ。

 女の子改めリコルちゃんは生まれつき喘息を患っているらしい。


「咳を止める薬でいいかな」

「はい、お願いします」


 リコルちゃんは見えていない私にお辞儀をする。

 いい子だ、とてもかわいい。


 私は少し待ってねというと自室に戻る。


 薬のストックでも置いておいてくれると嬉しいのだが……


 薬棚らしきものがあったのでそこを鑑定眼で見ると咳止めという表示のある木箱があった。

 中を見ると大量のコロコロした黒い粒が入っている。


 とりあえずその木箱をもってリコルちゃんのところに戻る。


「これであってる?」


 受け渡し用に空いていると思われる場所からリコルちゃんに木箱ごと手渡す。


「はい、これです。いつもありがとうございます」


 リコルちゃんは木箱から粒を数個取り出すと竹筒の中に移し替えた。


「それしかもっていかないの」


 喘息についてあまり詳しくはないが、小学生のころ喘息持ちの子は常に薬で咳を抑えていた覚えがある。

 その薬を飲んでおかないとちょっとしたことで咳が止まらなくなるといっていた。


「私は雨が降らない限りほぼ毎日来ているので……魔女さん、大丈夫ですか。なんだか別人みたいですし、いつものことなのに確認をとったり、どうしたんですか」


 この子はなかなか鋭い、いやまあ私もばれるようなことをやっている自覚はあるが薬なので下手なものを渡すわけにもいかないので必要なことだ。

 私は話を変えてごまかすことにした。


「ところで魔女さんって呼んでいるけど良かったら名前で呼んでくれる?」


 リコルちゃんは大きな目を瞬かせた。


「いいんですか!」


 嬉しそうに前のめりに乗り出してきた、その勢いで少し咳こんでいる。


「すみ、ま、せん」

「落ち着くまでゆっくり呼吸して」


 だいぶして呼吸が落ち着いてきたリコルちゃんは名前を教えてくれませんかと言ってきた。


 どうやらルーちゃんがだれにも名前を教えていないのは本当のようだ。

 ほぼ毎日来ている子が知らないなら、知っている人はいないと考えていいだろう。


「レンだよ、リコルちゃん」


 リコルちゃんは大きくした目をさらに大きくして私の名前しってたの!と興奮する。


 ルーちゃんは今までお前やおいと呼んでいたらしくリコルちゃんにはとんでもない衝撃だと教えてくれた。


「レンさん、レンさん」


 リコルちゃんは嬉しそうに私の名前を呼ぶ。

 何だか妹ができたようでうれしかい。

 いつの間にか震えは止まっていたのに今更になって気が付いた。

 私はよほど緊張していたようだ。


 うまく話せたことにほっとした私はリコルちゃんから今日のご飯(薬代)を受け取って自室に戻った。


 少し自分に自信がついた、けれどとても疲れたのでとりあえず寝ることにした。

読んでくださってありがとうございます。

なかなか異世界らしい生活が始まらなくてすみません…


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