異世界にやってまいりました
目を覚ますとログハウス風の家の床の上だった。
私は錬金術師の少女となっている。
神くんに異世界で生活することを伝えたのが30分ほど前、からかいすぎたせいか神くんにすねられてしまいその後お菓子やジュースでご機嫌取りをしなければいけなかった。
その間神くんにいかにも私は異世界の生活が楽しみなんですと言わんばかりに神くんに様々なことを聞いた。それに調子に乗った神くんは色々なことを教えてくれた。
ちょろいと思いそれを心の中でも言語化しないようにするのはなかなか大変だったがおかげでわかったことがある。
まずこの錬金術師の少女は引きこもりの知識オタクで基本的には人と関わらないように生きているらしい。
これは私にとってはかなりの朗報だ。その生活をまねれば私でも生きていけるはずだ。
少女は村の人に魔女として扱われており、時々やってくる人に薬を渡してはその代わりに生活に必要なものを受け取るらしい、時々少女の知識を頼りに相談や予言をもらいに来るものもいるようで少女は村の人たちとはつかずはなれずやっていたようだ。
それから私の魂が異世界にいっている間の私の体には少女の魂がいることになる。
その間少女は私の記憶を見ることで地球についてを知る。
だいぶ魂のエネルギーの消費が激しいらしく、しばらくは少女は体を動かすことはできないので私の知らないところで私が何かするということはないとのことだ。
少女が私の体を動かせるようになるころには少女の魂の入る体は完成するそうだ。
とりあえず私は神くんが言っていたステータスを確認することにする。
学校に行かなくなってから引きこもっている間、私は数々のゲームをやったのでそんな私にあわせてゲームっぽくできるようにと神くんが配慮してくれたのだ。
ステータスというと画面が出てきた。
どれどれ……
名前 椎名 蓮 (ルーリアル・マティア)
Lv. 182
体力 92
魔力 ∞
攻撃力 120
魔法攻撃力 500
防御力 300
魔法防御力 400
称号 賢者
錬金術の巨匠
異世界の渡り人
どうやらこの体の名前はルーリアル・マティアというようだ。
それからルーちゃん(ルーリアル・マティア)はかなりすごい子のようだ神くんは人間の平均値を100にするって言っていたので体力と攻撃力以外はやばいことになっている。
加えて称号も名前だけですごいものだとわかる。
ルーちゃん君の年齢がいくつなのか私知りたいよ。
「その子の年齢は18歳君と同い年だよ」
神くんの声が聞こえてきた。
「神くん!?」
「さっきぶりだね、そうか僕ちょろいって思われてたのか、傷つくな~」
神くんのくすんくすんというわざとらしい泣きまねの声が頭に直接聞こえてくる。
またすねられるかなと思ったら僕もそこまで子供じゃないよと言われた。
「ところでなんで頭に直接話しかけるの?」
「この世界には魔力とか精霊の概念があるから、僕を遠くからでも知覚することのできる人間がいるんだよね。んで僕がこの世界に来るとそんな人たちがここは神様が顕現した場所だってことで大変なさわぎになるよ」
なるほど神くんのありがたい配慮ということのようだ。
「確かにそれは嫌だね、ありがと。ところでさっきルーちゃんが18歳って言ってたけどほんとに?」
ルーちゃんは魔法の力とかで若く見えるようにしているだけで実は年上と思っていたのでカルチャーショックだ。18歳で世界のすべてを知り、世界に飽きるって……
「それには理由があるんだよ。もう一度ステータスの称号を見てもらえるかい」
私は神くんに言われた通り称号に目を向けた。
「でそこの賢者を触ってみて」
触ると画面がポップアップしてきた。
賢者
世界のすべてを知り尽くすもの。
スキル
知恵の泉
この世のすべての情報にアクセスすることができる。
頭の中で知りたいことを思い浮かぶとそのことを知ることができる。
なるほどこれは飽きるだろう、それにルーちゃんは知識オタクらしいのでこれではきっと新しいことを知る楽しみを奪われるようなものだ。
次に錬金術の巨匠を触る。
錬金術の巨匠
錬金術を極めたもの
スキル
無限の創造
魔力が枯渇しなくなる。
これはすごいが思ったよりは大したことがなかった。
異世界の渡り人
異世界の魂を持つもの
スキル
神託
神との会話が可能になる。
鑑定眼
人や魔物のステタースを確認することができる。
マッピング
いった場所の地図が自動的に頭に書かれる。
「その異世界の渡り人は僕からのプレゼントさ、君がこの世界で過ごしやすいようにと思ってね。それからスキルのオンオフはステタース画面でできるからこれから僕と話したいときは神託スキルをオンにしてね。それ以外の時にオンにしてると君が考えていることが僕に常に筒抜けになるから気をつけてね」
神託の横にある青くなっているボタンを押すと赤くなったどうやらこれでオフになったようだ。神くんの声は聞こえなくなった。
私はとりあえずこの家を見て回ろうとした。
すると頭に突然声が流れ込んできた。
(ルーリアル・マティアの家は二部屋に分かれている。一つは居住スペース、一つは村人の応対用の部屋である、応対用の部屋では村人と顔を合わせないためにルーリアル・マティアの作った、一方からは顔が見えるが反対からは顔の見えない素材でできた壁がある。また家具は)
なんだこれ、頭に神くんとは違う声が聞こえる。
(解答、スキル知恵の泉によるものです)
私は知恵の泉をオフにした。
知恵の泉、思っていたより高性能すぎる。
このスキルならばルーちゃんが世界に飽きるのも道理だ。
頭にいきなり流れ込んできた情報にどっと疲れたのでとりあえず寝ることにした。
見慣れた自室で覚醒した。
さっきまで疲れていたはずだが、この肉体(脳というべきだろうか)にはその疲れは全くない。
むしろすっきりと目覚めた気分だ。いつも不眠だったのでこの感覚はとてもひさしぶりだ。
私、椎名蓮の疲れは取れている。
とてもおかしな感覚だがそういうものなんだろうとあまり気に留めないことにした。
「おはよう」
神くんは変わらず私の部屋にいた。
「おはよう、ところで今何時?」
「朝の8時だよ、よく寝てたね。それと向こうの世界で何時間起きていようと、こっちの世界では8時間以上は寝ていることにならないからそこは安心してね。ちなみに8時間より前に戻ってくるとそのタイミングで起きるからね」
「ずいぶん無茶苦茶な話だね」
「まあそこは僕は神様だから」
神くんはどや顔だが私はあ~はいはいそうですねと流す。
今更だが神くんの扱いがだいぶひどいが許してほしい、はじめ私は彼を頭のおかしい子か幻覚かと思っていたのだから。
そんな風に考えていたら別に気にしなくていいよと言われた。
「僕としても君とは長い付き合いになるから、うやうやしくされるとこまるよ」
「神くん、気になってたんだけど私を君っていうのはなにか理由があるの?」
「一応神様は一人の人間に肩入れしちゃいけないから、形式上そうしてるけど嫌かい?」
嫌なわけではないが、ある程度親しくなった人に名前を呼ばれないというのは違和感がある。親しくなったというのは私の思い込みかもしれないが……
「いやそういうことなら蓮ちゃんってよばせてもらうよ」
これも今更だが心を読まれるというのは私にとってはすごくありがたい。
はじめは嫌だったが相手を傷つけないかとか考えすぎて言葉が詰まったり、なかなか話しだせない私にとっては思っていることが誤解なく伝わる安心感はうれしい。
そして今思っていることも話をしなくとも伝わっているんだよなと思うと、神くんは私を見て微笑みながらうなずいた。
こういうところは神様っぽいよなと思ったことは内緒にしたいが伝わっているんだろう。
それは少し癪だと思ったら神くんはさっきとまったく同じように微笑みながらうなずいた。
私はすねたふりをして神くんを困らせてやった。
ふりだとわかっているはずなのに神くんは私にお菓子をもってきて機嫌を取ろうとする姿が少しおかしかった。