異世界生活始めます
目を覚ましたらそこは見慣れた自室だった。
さっきのは夢だったのだろうか、それにしてはリアルすぎる。
「お、おはよう早かったね」
その声に私は振り向くと自称神くんがいた。
「いや、自称じゃないから」
(自称)神くんは笑っていて気色が悪い。
「気色悪いってひどくない!それに自称じゃないってば」
どうやらそこにこだわりがあるらしいまったくもってわがままな奴だ。
「わがままとかそういうんじゃないんだけど……まあいいやところでどうだった君の新しい体は」
新しい体と自称神くんは言った。
もしやそれは夢の中で私の意識が入っていた少女のことではないだろうか。
「その通り!いや~話が早くて助かるよ。でも一つ訂正、夢ではないよ。君が夢といっている場所は一つの世界なんだよ。いうなれば異世界とでもいえばいいかな。ここ地球、もっと言えば宇宙とも異なる世界さ」
あまりにも突拍子のない話だ。けれど私があの少女の中にいたときのリアルさを思えば納得できてしまう。
「その調子で僕が神ってことも認めてくれないかな」
この神くん(とりあえず神と認めることにした)が話をしていた錬金術師の彼女はもしかしてこの少女のことではないだろうか。
「またまた正解!じゃここからは話してなかったし僕から話すよ」
無駄話の多い神くんの話をまとめるとこうだ。
・異世界に行こうとした錬金術師の少女の魂だけがこの世界つまりは地球に来てしまった。
・新しい体を探さないと彼女の魂は消えてしまう。
・異世界転移のことを伝えていなかった神様の不手際が原因のためなんとかしないといけない
・彼女の魂に適合する体を一から作るとなると間に合わないのですでに生きている人間の体にねじ込 むことにした。
・その適合者の中の一人に私が選ばれた。
「話は分かったんだけどなんで私が異世界に行ってるわけ?」
「それは君の体を借りるお礼のようなものだと思ってほしい、これから一つの世界で寝ている間にもう一つの世界に魂が来ることになる」
私は愕然となった。
「なんでそれがお礼なわけ」
ふざけるな、私はこの世界で生きるだけでも精いっぱいだ。寝ている間のわずかな安らぎの時間を奪わないでほしい。
「ごめんよ、けれど君はこのまま何もしなければ後1年後に死んでしまうんだよ。だから異世界でどうか新しい自分になったつもりでさ……」
「ふざけんな!!」
金切り声が私の口からあふれ出してくる。
「あと一年後に死ねる?本望だよ、ほっといてよ、あんた神様なんでしょうだったら私にかかわらないでよ、お空の上から眺めてなさいよ、死なせてよ」
パチン
頬を叩かれた。痛いと思って彼が私の作り出した幻覚ではないことをはっきりと自覚した。
「僕は今まで何人も自殺する人を眺めてきたよ、そのたびにどうすればいいのか考えてでも手を出すことが許されなかったんだ。だけど君は錬金術師の少女のことがあって、手を出すことができるんだ。このままだと君は一年後に自殺してしまうんだよ、僕は悲しくて苦しくてししょうがなかった。だから君が適合者に選ばれたときはどんなに嬉しかったか、僕に君を守らせてよ」
神くんの顔は真剣でさっきまでの笑みは消えていた。神妙な表情で私の目をそらさずに見てくる。
頭に上がった血が一気に冷めた。途端に目頭に熱いものがこみあげてくる。
毎日意味もなく悲しくなって泣いていたが、この涙はそれとは違うももだ。それだけは分かるが何に泣いているのかよくわからなかった。
「おちついた?」
私がしゃくりあげながら泣いているときに神くんは何もせずにただ座っていた。
目の前にティッシュを差出されてそれで鼻をかむ。
すっきりとした気持ちで私決意する。
「ありがとうございます、私異世界での生活してみようと思います」
その言葉に神くんはうれしそうに笑って手を一回たたいた。
「さてと、話がまとまったことだし君はこれから異世界での生活も始めるわけだ、いや~助かったよ実はその少女ってさ持ってる魔力が膨大でさ、体に魂が入てないまま置いとくと精霊や悪霊になにされるかわかんなかったからこれで一安心だ」
「え?」
神くんの言葉に一気に彼への信頼の感情と私の熱い決意は吹き飛んだ。
「いやいや、もちろん君に新しい世界で生活してもらうことで君の抱えてる問題がどうにかなればいいな~って思いもあるよ、僕個人の感情はそうだけどやっぱり異世界に魂を送るってそれ相応の理由が必要だからそれも解決されて一石二鳥だな~て思ったりもするんだよ」
やっぱり彼は自称(神)くんでいい気がする。
「さっきよりひどくないかい!」
彼の叫びを笑って聞き流す。笑ったのはいつぶりだったか思い出せないくらいひさしぶりだった。