本当の約束
『お前の望みを叶えてやるよ。』
そう言われた。
望みのはずだった。
「説明してちょうだい…」
怒りで我を忘れそうな半面、何故か冷静な自分がいる。
目の前には、婚約者と知らない女性。
もうすでに、元婚約者はテンプレのような美形で、連れている女性もモデル並みに美人…
なんだか私の方がいたたまれなくなるのは気のせいと思いたい。
「お前には、本当に申し訳ないと思うけど、デキたんだから仕方ないだろ…」
「あんた、浮気だけじゃなくて生でしてたの⁉」
我を忘れた言い回しを止める人はどこにもいない。
ふーと息を吐く。
「…良いわ。これは返す。親の顔合わせ前で良かったわ。」
そう言って、薬指から抜き取るとコトリと指輪を置いた。
「じゃあね。」
そう言って店を出る。
私の望みは『結婚』。
文字通りそのまま。
ゴールじゃないことはわかってる。でも、私は結婚がしたい。
出来ることならより幸せに。
だから、幼なじみで気の知れた相手で手をうったつけなんだろうか…
「っ!おい!キミッ‼」
誰かの声が聞こえた。
いつの間にか赤信号だったようで私は気付かなかった。
遠くのような近くでキキッー!というブレーキ音が聞こえ、衝撃が走った。
「…で?お金持ちでイケメンの優しい男の人が運転手で?病院に運び込まれて?症状は軽くて?お見舞いに毎日来てもらってそこから恋愛に発展。で、ゴールイン…と。厄介な能力よね。」
「…うるせーよ。」
「そんなに好きなら離さなきゃよかったのに。」
「望みを叶えるって約束したからな。」
さっきと違い向かい側に座り直したかと思うと、待ってましたとばかりにパフェを注文し味わいながら俺にむかって傷をえぐる。美人だとは思うが行動が台無しだ。
俺は、絶賛ふて腐れて机に突っ伏していた。
好きだった。
本当に好きだったんだ。
望み通り結婚して幸せにするつもりだった。
ちいさな時から、未来に起こる事が見える能力があった。
そうして見えた、本当の相手。
だから血を吐く思いで手放した。
浮気相手役をしてくれたのはその能力を知っているし、同じような力を持っているため、協力者としては適役だった。
勿論デキてはいない。
やることやらず、どうやって出来るというのだ。そんな責任のないことはしない。
「そういう、真面目なとこわりとすきだよ。」
「なぐさめは、いいや。」
「自分の未来も見えるといいのにね。」
「…ああ」
ゆっくりと顔をあげると、パフェに乗っていたブラウニーをフォークにさしずいっと差し出してきた。それをためらいなくパクリと食べる。
「甘いな、、、?」
疑問系になったのは差し出してきた相手が金魚のようにパクパクと口をあけ、顔を真っ赤にしていたから。
「おい?」
「っつ!!なんでッ、、、食べちゃうのよぉ‼」
「いや。差し出してきたら食べるだろ?」
「奢ってよね。」
「そのつもりだけど?」
もういいよ。と呟きが聞こえた気もするがブラウニーは甘くて、なんだか心がとけていった。