星宮社高校文芸部のあれこれ3
星宮社高校文芸部のあれこれ3
「結局、青藤真理さんてTwitterもFacebookもやってないみたいだった」
放課後、ここは文芸部の部室。
そんなの調べてどうするつもりなの?て質問はしないことにした。どうせ鉄拳制裁しか待ってないから。
「ずっと気になってたんだけど、その真理さんて詫助先輩の事どう思ってるんだろうね?」
綾乃は眉間に皺を寄せながら
「うーん。あんまり考えたこと無かったから分からないけど、嫌いではないと思うな」
「その理由は?」
「ほんとに嫌いだったら、拒否るでしょ。普通に考えたら」
「確かに。もしかしたら、恋の駆け引きを楽しむタイプとか?」
「それは考えづらいかな。先輩がそういうタイプが好みとは思えないし」
僕は何となく意地悪な質問をしてみた。
「てか、なんで皆そんなに詫助先輩に拘るの?」
「それは人それぞれだと思うけど、わたしは軽すぎる男子が好きになれないから」
「それは大塚先輩と関係ある?」
ちなみに大塚先輩とは綾乃が中学の時の元カレである。
はぁーと綾乃はため息をついて
「そうだね。あんまり元カレのこと悪く言うのは嫌だけど、それはあると思うよ」
と下を向いて答えた。
大塚先輩はあろう事か、綾乃と付き合ってるときに他校の女子と二股していた。そしてその女子がTwitterに大塚先輩とのペア画をアップして、巡り巡って綾乃の耳に入り破局した。綾乃にとっては苦い記憶である。
何となく空気が淀んできたので、別の話を振ってみた。
「例えばさ、綾乃に幼なじみがいるとするじゃん」
「うん」
「で、その幼なじみが綾乃を追って、同じ高校に来たとする」
「キモ!」
「で、その幼なじみが同じ部活に入ってきたとする」
「わ、ちょっと、海斗キモい! 半径5メートに入らないでくれる?」
綾乃が露骨に嫌な顔をするので
「まてまて。部活は綾乃が無理矢理入れたんだよね?」
「あはっ!そうだった。すっかり」
綾乃がへたくそな口笛を吹いたので、僕は苦笑しながら
「つまり、その真理さんて、今こういう状況なんじゃないかと」
なるほどーと綾乃は言って関心していた。
「嫌いではないけど、好きでもない」
「多分。そんなところではないかと」
ふーん。
そう言いながら、綾乃は僕をまじまじと見つめていた。
「実は前々から気になってはいたんだけど、海斗はうちのことどう思ってるの?」
綾乃が、小悪魔のような目で僕を見ていた。
「べ、別に。ただの幼なじみとしてしか思ってないよ」
えー!と声を上げて
「ほんとは好きなんじゃないの?」
「違うし!好きじゃないしっ!」
僕はこんな虚勢を張るのが精一杯だった。
時々、綾乃はびっくりするほど鋭い所を付いてくる。
「怪しいーなー。クラスでもうちの事見てない?たまに変な視線感じるんだけど」
今の綾乃は小悪魔からクラスアップした悪魔だった。
が、ここで本当の事を言ってはいけない。それも絶対にだ。
「てか、ちょっと自意識過剰なんじゃないの?」
そっかーと笑いながら
「どっちにしても、海斗に目はないよ。期待させたくないから言うけど」
ああ、良かった、言わなくて。
「知ってるよ。綾乃は詫助先輩一筋だもんね」
「そそ。よくわかってるじゃん!」
そう言うと、綾乃は僕の肩をポンと叩いて
「海斗も好きな子早く見つけなよ! 応援するから!」
無邪気に笑う綾乃を見たら、何かやるせない気になった。
無自覚なんだろうけど、それが人を傷つけるなんて考えたことないんだろうと思う。
勿論、綾乃に悪気は全くない。それは分かっている。
が、それは時として人を傷つけると事も。
「その時は頼むよ」
僕は力なく答えるのが精一杯だった。
「うちはその子に、海斗の良いところも悪いところも全部話すよ!幼稚園の時の話も!(笑)」
その時、もう綾乃は悪魔ではなかった。
天使のように純真に、それは幼なじみを思う気持ちでいっぱいだったと思う。
「で、こんなだけど是非付き合ってあげて!て頼む。どうかな?」
僕は力なく笑うしかなった。
「いいと思う。凄く頼もしいと思うよ」
「でしょ?でしょ?」
うれしそうに笑う綾乃がとても眩しかった。そして、僕は想いを新たにした。このとき初めて、詫助先輩の気持ちが分かったような気がした。
その日僕は家に帰ってから、進路調査票の第一志望を「明応大学」に書き換えた。心は決まった。