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その2



 星宮社高校文芸部のあれこれ2


 「海斗!ちょっと手伝って!」

 部室に入ると綾乃が脚立に乗って棚の段ボール箱を引っ張り出そうとしていた。 が、どうにも成らないみたいで、脚立の上で固まっていた。

 「とりあえず、代わるからその箱押し込んで」

 そう言うと僕は上着を脱いで、鞄と脱いだ上着を机に置いた。

 「やっぱ背と力がないと無理だわ。頼んだぞ、海斗君!」

 やれやれと思いながらも、僕は脚立に乗って段ボール引っ張ってみた。

 「……重い」

 「男の子でしょ!ほら頑張って!」

 内心ため息をつきながら、僕は力を込めて段ボール箱を引っ張った。

 ズルズル、ズルズル。

 少しづつだが箱は動き出した。

 「ほらほら、もっと力入れて!」

 ……なんでこんな事やらなきゃならないんだよ!と、心の中で叫んだが、口にはしなかった。

 「この!!!」

 不安定な脚立の上だったが、有らん限りの力で引っ張ると

 スルスルスルーーーー

 と箱が動いて、そのままきれいに床に強行着陸した。

 「おー!パチパチパチ!」

 綾乃はまるで飛行機の着陸を喜ぶ乗客のようにニコニコしながら拍手した。

 

 「で、こんなもの何に使うのさ?」

 脇目も振らずに段ボール箱を漁っている綾乃に僕は質問した。

 「武田先輩覚えてる?」

 綾乃は箱から取り出した冊子に目を走らせながら質問してきた。

 「前の部長だろ?去年卒業した」

 「そうそう。その武田先輩が昔文芸部に青藤て先輩がいたって言ったの思い出してさ。

 「……綾乃さん、全然話が見えてこないんですけど?」

 「察しの悪い子は嫌いだよ! ……あ、あった!」

 僕の言葉を完全に無視しながら、綾乃はその冊子を読みふけっていた。

 「……何これ?『暗い土曜日』? 何か聞いてたイメージと全然違うんだけど」

 「綾乃さん?、そろそろ僕の質問に答えて頂けますか?」

 「あ、まだ居たの?」

 ……正直グーパンしたい衝動を抑えながら

 「で、その青藤て先輩の文集が綾乃とどんな関係があるの?」

 綾乃は少しめんどくさそうな顔をしながら

 「明応に行った先輩から詫助先輩の片思いの相手が青藤真理て人で、その人のお父さんが明応の教授でうちの高校のOBだって話しを昨日聞いた」

 「それで武田先輩の話を思い出した訳だ」

 「そそ。そういうこと」

 「で、イメージが違うってのは?」

 「その先輩の話だと青藤先生て気さくで優しい人だって話しだったのに、文集読んだらイメージとかけ離れてた。て事」

 やっと事情を飲み込んだ僕はパイプ椅子に座った。

 鞄からペットボトルを取り出し一口飲んで

 「まあそういうこともあるんじゃない。高校卒業したあとで何か性格とか人生観が変わるような事があったとか」

 「何か海斗が言うと腹立つな」

 とりあえず綾乃の怒気を逸らすため、僕はスマホを操作しながら、青藤先生について調べてみた。それはすぐに見つかった。

 「wikiにプロフが載ってるよ」

 

 青藤直樹 47才 明応大学教授 哲学者 主著『小学生からのてつがく』


 僕はスマホを見せると綾乃は渋い顔をしながら

 「この本、図書室にあるかな?」

 と僕に聞いてきた。

 「あるかもよ。行ってみる?」

 「めんどい!海斗行ってきて!!」

 

 体よく使い走りにでた僕は図書室に来ていた。

 まだ、16時なので開いていたので、図書委員に調べてもらうと、なんとその本はそこにあった。

 「この棚のはずなんだけど。。。あ、あった!」

 なんとなくページをめくると、最初のページに


 『愛する妻と娘たちに捧げる』

 と、書いてあった。 僕はその言葉の意味を考えながら部室に戻った。

 部室では綾乃が文集を熱心に読みふけっていた。


 「綾乃、本借りてきたよ」

 「……」

 「綾乃?」

 「……」

 僕は黙って椅子に座って待つことにした。

 

 20分ほど待ってると、突然綾乃が立ち上がって

 「そろそろ帰ろう」

 と言って鞄を持って部室を出ようとしていた。

 「本借りてきたよ!」

 僕も慌てて鞄を掴んで後を追うように部室をでると

 「あ、まだ居たの?」

 ……惚れたら負け。その名言が僕の全身を駆けめぐっていた。

 

 

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