その1
「星宮社高校文芸部のあれこれ」
志田海斗…星宮社高校三年文芸部副部長。和歌山綾乃とは小学生からの幼なじみ。
和歌山綾乃…星宮社高校文芸部部長。通称「詫助先輩を見守る会」のメンバー。幼なじみの海斗にはとても厳しい。主にツッコミ役。
「う~ん。悪くはない」
綾乃は眉間に皺を寄せながら唸った。
「悪くはないんだけど、パンチがない。何より華がない」
僕が一ヶ月を掛けて書いた短編を綾乃は痛烈にこき下ろした。
華がないのは自覚してるけど、パンチがないってなんだよ。高校生のありふれた日常を描いた短編にどんなパンチが必要なんだよ。
そんな僕の気持ちなんて無視するように綾乃は続けた。
「なんかこう、美少女の幼なじみが出てくるとかないの?」
「周りにそんな子いないし」
「いやいや、いるじゃん! 目の前に」
「ごめん。ちょっと言ってる意味が分からないんだけど?」
バシッ
綾乃が僕の頭を軽く叩いた。
「いい加減にしないと叩くよ!!」
いやもう叩いてるし。ほんと綾乃は僕に対しては容赦がない。まあこれでも綾乃は学校ではモテる方だし、他の人には愛想はいい。でもなぜか僕にだけは厳しく当たる。こんなやりとりをクラスメートは夫婦漫才とからかうけど、ほんと僕にとっては迷惑以外の何物でもない。まあ幼なじみだから気を許してるからなんだろうけど、叩かれてる方の気持ちにもなってほしいものだ。
「あんたが詫助先輩みたいな人だったら……」
ふと、綾乃はひとりごちた。
詫助先輩。フルネームは武者小路詫助。僕たちの二こ上で、名前は厳めしいけど、実際は爽やかイケメンでサッカー部のキャプテンで短いながらも生徒会長を務めてた。今の三年女子の憧れの王子様だった。
「爽やかイケメンで優しくて一途で。。。今頃大学でなにしてるんだろう……」
「……」
僕は何も答えることはなかった。というよりそもそも詫助先輩と面識ないし興味もなかった。
「そういえば、綾乃は明応受けるんだっけ?」
ふと思い出したように綾乃に質問した。
「もちろん!第一希望だよ!受かったら絶対明応行くよ」
やっぱり。明応大学は詫助先輩の通う大学である。
「他の子も大体明応受けるみたいだよ」
「そうなんだ。ほんと女子は詫助先輩好きだよね」
「そりゃそうだよ!みんな詫助先輩と同じ大学に通いたいもん」
綾乃はさもそれが当たり前のように言った。
「でも、明応に行ったとしてどうするの?また例の告白大会でも開くの?」
「何あんた?うちらの事バカにしてるの?ケンカ売ってるの?」
綾乃は凄い剣幕でまくし立てたので僕は少し焦ってしまった。
「いや、そうじゃなくて……」
「あのさ、うちらだって詫助先輩が振り向かないことくらい分かってるよ。分かった上で詫助先輩の気持ちを見届けたいの」
「多分あんたには一生かけても分からないよ。この気持ちは」
綾乃は少し遠い目で語った。
一生かけても分からない気持ち。
その言葉に僕の胸のあたりがチクリと痛んだ。
多分僕は綾乃たち女子の気持ちは一生かけても分からないと思う。
そして、綾乃も一生かけても分からないと思う。そんな幼なじみを想う僕の気持ちを。