八十九話「幻想」
次の話も書き始めてますがバレンタインで新しいエピソードを思い付いたので、そちらを先に書こうかと思います。早めに投稿できると良いですね(白目)
と言うことで八十九話、ヴィオのお話です。
何があったか揺れている、小刻みに身体が揺れている。心地いい感覚だ。
目を開けようにもどうにも眠い。薄っすらと開いた瞼で外を見る。
広大な砂漠が眼前を通り過ぎる。何かに乗って移動しているらしい。
意識もハッキリしない中、ただただ時間が流れていく。
まるで別の世界に居るみたいだ。本当に。
さっきまでどこに居たんだっけか、確か誰かを助けようとしていた筈だが。
そこで自分の置かれた状況に気付いたヴィオの意識は目覚める。
どこだ、ここは。街は?住民は?みんなは無事なのか?
自分はここで何をしている。何故こんなところで寝ていた。
乗り物であろう何かの中に居る。自分の座っていた椅子のすぐそばにある窓から景色をもう一度覗く。
本当に砂漠の上に自分は居る。降りようにもこの乗り物が速く移動するもので下手に降りれば怪我は免れない。
何なんだ、一体何がどうなっている。あの時、逃げ遅れた住民を助けようと炎の街へと飛び込んだ筈だ。なのに何故こんな砂漠に飛ばされている?
衝動的に走る。乗り物の進行方向とは逆へ向かい、扉を何度も開けては最後尾を目指す。
そして彼はあまりの光景に言葉を失う。砂漠から目を離し宇宙を見る。
怪人への変貌、遥か未来であろう夢の光景、いずれも驚くべきものではあったが受け入れられる事柄であった。だがアレはなんだ。人の想定するスケールでは到底ありえない代物が宇宙にある。
気が狂いそうになる。思考が理解に追い付こうにも体験したことのない現象に心を奪われるばかりだ。
(なんで太陽が三つもあるんだよ!!!)
訳が分からない。大体この状況もなんだ。炎の街から突然見知らぬ砂漠に飛ばされる?ふざけるのも大概にしろよ!?
誰へ届く訳でもない罵倒を心に投げかけてはまた駆け出す。今度は先頭へと、“これ”を動かしている誰かが居るはずだと。
少なくとも生き物ではない、そう信じるしかない。中に椅子や窓がいくつもあるのがその証左だ。これで何かの生物なら、犬が皿回しをしながら川下りをする方がまだ現実的……これもおかしくないか?
疲れが一気に身体に降りかかる。余計なことを考え過ぎたせいか。この状況に身体が追い付いていないのかは分からないが、奇妙な事に先ほどから身体全体が重く感じる。当然、理由が分かる筈もない。
(なんか意識が……)
何てことだろうか、この男はまた意識を失いかけている。現実かどうかでさえ定かでないこの場所でだ。
あの少年を見た夢や幻覚の類でもない、はっきりと己がここに居る。だからこそ誰かに問いたい。
(どこだよ、ここ)
尽きかけた体力を振り絞って次の車両のドアを開ける。
何もない。また同じだろう、変わらないと。漠然とそんな事を意識している。
そんな中で車両へ一歩を踏み出した時だ、気付いたのは。
(……?)
目の前には少年が二人居る。旅人のような衣服を着たバイオリンに似た楽器を持つ少年に、剣を腰に納め全身を黒い戦闘用の服を着たあの少年だ。
「………」
僅かで空虚のような時間を少年二人と目が合いながら答えを出す。
「あっ、あんた「貴方は!お久しぶりですっ!」
結論を述べる前にあの夢の少年がこちらへ手を差し伸べる。
(握手?)
「あの時以来になりますね……行方をくらましてたので本当に心配したんですよ!」
「お、おう」
何のことだ?この少年と面識はない。ない筈である。
あの石のせいでこの少年が出る夢を見た。これは確かである。だが、こちらからは一切手を出していないし干渉する手段もない。不可能だ。
だからこそ余計に困惑するばかりである。気のせいか、性格も明るくなってないか?
「ところで今までどこに居たんですか?」
「いや、そのだな。俺はあんたと会ったことなくてだな」
「え?いやいや、僕を忘れたんですか?西幸弘太ですよ、ご先祖様!」
「へぇ、そんな名前なんだ……今なんて?」
「ですからご先祖様ですよ。もしかして忘れちゃったんですか?」
「?????」
今まで歩んできた人生の中で一番の謎に出くわしているかもしれない。こちらが一方的に知ってる筈の少年がこちらを知っていて、それに俺と会っている。加えてご先祖らしい。
ああ、俺の知らないところできっと色んな出来事があったんだろう。そうなんだろうな。なんか大人っぽく見えるし。
「ご先祖様?」
この男、あまりの処理しきれない情報量により頭がループしている、当然かもしれないが。それにしてもこれが未知の領域に放り込まれた戦士の姿で良いのだろうか。非常に緩んだ空気が場を支配している。
(大丈夫かな?)
西幸弘太と名乗る青年は彼を心配そうに見つめる。その目に嘘偽りを感じることはない。だからこそ今の状況は不可解に過ぎる。
「ご先祖様!」
「うおっ!?お、おう……何だ?」
「返事がないもので。ところで僕、何か変な事とか言ってますかね?」
「いやーねぇ。全部分からん」
「全部ですか」
「俺は君と会った覚えもないし、この場所もどこか分からない。逆に西……幸くんは知ってるのか?」
「ああ、なるほど。そういうことですか」
「どういうことだ?」
「つまりそういうことです!と言うことで軽い説明しますね」
聞いた。聞いた。ひたすらに聞いた。答えとしては単純……とは行かなかった。
俺が過去の存在で未来の弘太の先祖、これは分かった。夢のお告げを聞いたとか抜かす人間が世の中に存在しているんだ、まだ理解できる事柄だ。
ああ、ここからだ。理解できないのは。
どういう理屈は分からないが時間や時空とかそういう物を超越して、別の世界とかそういうところに連れてこられたらしい。一体何を話してるんだろうな。よく分からん。
「そこら辺の説明も必要ですよね。恐らく後一回はこういう事に遭遇するでしょうし」
「え?これがまたあるのか?と言うかもう一回ってことは一度戻って「今のは忘れてください」」
えぇ、今のはダメなのか……なんだっけな、アレだ。さっきの話であった未来の予定が狂うとかそういう感じで言ってたやつ。まぁこれから起きる出来事知ってたら、行動が変わって予定していたのと別のものになるかもだしな。この認識で大丈夫だろうか。多分、大丈夫。これ以上の事は正直理解できる気がしない。
「それと、着いたみたいですね」
そこは窓の底からハッキリと見えた。あぁ、なんてことだ。ここは本当に理屈の分からない世界だ。見える通りの広がる景色が砂漠であることに変わりない。空に佇む水の島を除いて。
水が空に“浮いている”。御伽噺の世界に居るような錯覚を思わせるそれは確かに俺の眼前に見える。全てが水だけだと確信できるほどに空色に澄んだ島の形を成したアレに向かって、この蒸気機関車なるものは向かい続ける。
そう思ったのも束の間、車両は大きい揺れを起こし弘太とヴィオは膝をつき、楽器を持った少年は動じることなくただ外の景色を眺めている。
「ここでお別れですね」
「えっ、そうなの?ここで居なくなられたら何するべきか分からんしすっごく困る。あの子も喋らないし」
「大丈夫ですよ、この蒸気機関車は乗客の行くべき場所へと向かいますから。僕の目的地があそこなだけですね」
「へ、へぇ~」
水の島に隣接する駅で蒸気機関車は止まった。すると車内アナウンスが流れる。
『終点、命。命です。お忘れ物のございませんようご注意ください』
女性の声で淡々と流れるその声に弘太はどこか納得したような表情をしている。そして決心するようにヴィオへと別れを告げる。
「では、また」
ドアを開け、弘太は駅へと降りる。しきりに心臓に手を当ててはその鼓動を何回も確認していた。
止めることなく歩き続ける彼の姿が見えなくなってきたところで蒸気機関車は動き出す。また車内アナウンスが流れてくる。
『西幸弘太の路線をご利用いただきありがとうございます。次は、ヴィオ・バロックの路線。次の駅は分岐点、分岐点です』
そのアナウンスと共に窓から見えた先ほどまでの砂漠の風景は黒一色の暗黒面が覆う。されど車内から灯りが消えることはなかった。光を灯すものは一切見受けられないというのに。
そして、一切喋る気配のないウクレレを持った少年はおもむろにウクレレで演奏を開始した。
なんとも陽気な演奏をするものだ。少年はこの状況を楽しんでいるらしい。ここにバイオリンがあればセッションの一つでもしてみたいものだ。
『分岐点、分岐点です。お忘れ物のございませんようご注意ください』
そうこうしている内に次の駅に着くらしい。果たしてどんな場所なのだろうか。
「一体どこに着くのやらねぇ」
私も降りる気はないが、この少年も降りないらしい。ではここでは何があるのだろうか。
それっぽく考えてみるも当然ながら正解なぞに辿り着けてないのがこの男だ。そう思考を凝らしている内に車内へと誰かが入ってきた。今丁度この車両のドアが開いたかと思えば、意外な人物が目に飛び込む。
「……え?」
黒の戦闘用の服を身に纏い、あの弘太が使用していた剣が折れた状態で三本も左腕の外へ出る形で突き刺さり、所々人とは思えない灰色の何かが傷付いた肌から露出している。そして、間違いなくその少年は先ほど出会った西幸弘太と瓜二つの顔をしている。どこか幼さを感じる部分はあれど、もはや本人でないとおかしいくらいに雰囲気や佇まいも同じだ。
「あんたはさっき降りてなかったか?」
その言葉に異様な様相の少年は驚愕の顔を浮かべる。まるでありえないものに出会ったかのように。
幾ばくかの沈黙が訪れるが程なくして少年は口を開く。
「何で、何でだよ。何で貴方が居るんだ……あの時、確かに貴方は死んだ筈だ!」
「はぁ?」
ほぉ、ここまで来たか。今度は俺が死んだと言ってくる西幸弘太が現れた訳か。全く訳分からんな。一周回って笑いがこみ上げる。
「まだ生きていると言うなら、今度こそ殺す!」
無口の少年が弾くウクレレの場に合わない明るい演奏を背に、左手の拳を握りしめ突き刺さった三本の刃を武器に構え弘太に限りなく似ているその少年は確かな怨念を以てヴィオを襲う。どこへ向かうか分からない列車の中、静かに殺し合いは始まるのであった。
最近は専らTRPGにハマっている毎日を送ってますが、そこでもオリジナルシナリオを書こうとしているので小説に上手く活かせるか悩んでたり悩んでなかったりしてますね。
早く更新したいと思ってますが、自身の技量に疑問を持ってることが多いので読書や他の創作活動をするなどして、少しでも高めたいと考えてたり。
創作に関してはこれくらいですかね。後は他の趣味に没頭したり、只管数独してますが失踪しない程度に執筆していきたいと思います。
最後に、今回でだいぶシナリオの内容が変わりましたがテコ入れではなく全て予定調和です。結構考えてる設定とかあるので、最後まで完走できるよう精進するつもりです。
ではまた、次回にお会いしましょう。




