八十六話「失望」
2か月に1回の更新になってますが、失踪だけはしません。
「大丈夫か……!?」
「は、はい……」
襲われていた女性を救い出し、逃げていく姿を背に柳は視線を向けた先の創無に左手に持ったハンドガンの銃口を向ける。
「………」
右手で短刀の鞘に触れて少しずつ創無へと近づく。人型タイプのダバーソンであるが全身が歯車で構成され、さらに宙に浮いたそれぞれ大きさの異なる歯車は明らかに柳ではなく女性を……いや、“一般人”か。
正確な目的が分からないにせよ、これ以上被害を出す訳にもいかない。
「――――――ふぅ」
短刀を構える素振りを見せた刹那、構えると見せかけた短刀を歯車のダバーソンへと投げつけるが、周囲の歯車は彼奴の放った短刀を囲うように無力化していく。
柳は迷うことなくハンドガンの引き金を引き、ダバーソン本体の歯車の間を潜り抜けて中へと直撃する。
「!!!」
歯車で身を隠しながら、身体のギアは回転し全身の隙間を埋めていく。一回り小さくなったが、その分の防御に関しては先ほどより向上しており下手に手を出せなくなっている。確実な攻撃手段こそ消えたが、逆に取るべき行動が明確に絞られたと見ていいだろう。
スリングバッグに入っている予備の短刀を取り出して相手の動きを窺い、静かに紺まで引き上げた次元エネルギーを注ぐ。
「………」
「………」
回るようにお互いを見つめ、大きな動作を見せることなく攻撃態勢に両者は入った。
「――――――――!!!!!」
先手を打ったのは歯車のダバーソンであった。宙に浮く歯車を柳に突撃させると同時にいくつかを地中に潜り込ませて自身も身体の歯車を回しながら突っ込んでいく。
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「で、僕を呼び出した訳は?」
パトリックは細目でこちらを睨んできた。
「普通に仕事と言うか……まぁ、重大な仕事だ」
「その仕事の内容は?」
「創無との対話だ」
「……ボス、頭溶けました?」
「溶けてないぞ」
「うわぁ……」
明らかなオーバーリアクションで対応してくるそれは興味のなさを表している。相も変わらずだな、この男は。
「強制参加らしいぞ、パトリック」
ヴィオの言葉に嫌々ながらもパトリックは反応した。
「うーん……まぁ、良いよ。 休暇も終わって暇だし」
「それで?」
「ん?」
「子どもはどうだったんだ?」
「そりゃあ最高だろ。 僕の娘だぞ」
アミールと言う名前にしたらしい。理由は尋ねたが見事に断られた。楽しそうに話していることから充実した休暇だったろうな。
少しの間、全くの関係のない雑談が続いた。確かに大事な会議をしなければならないが偶には良いだろう。それを黙認するかの如くボスもティータイムに入っている。そして、促すようにティーカップも人数分用意されている。ついでにケーキもだ。
「詰まっていたところだし休憩するか」
ヴィオはティーポットを持って人数分のティーカップ全てに紅茶を注いだ。それもご丁寧に均等に注ぎ、皆に配っているときた。
「……いただく」
「ここまで来るのに疲れたし……僕も貰うよ」
部屋に居た全員がティーカップを取り、ボスと同様のティータイムに入ってしまった。再び会議が始まるのはしばらくした後だ。
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「――――――ここか」
十字軍の残党が残ってる場所が確かなら……ここに居る筈だ。創無の相手で忙しいところだが、未だ宗教にしがみ付いて能力者を受け入れず人類の敵となった奴等を逃がす訳にはいかない。
時は―――――――――――――
―――――――――時は11世紀初頭。創無がこの星へと踏み入り、初めて人類が滅亡を迎えようとした年代。能力者を悪魔の力とし、自らの手で生き残ろうとサゥムに対して抵抗を続け暴走する十字軍を各国は敵と認定し、サゥムと同じく殲滅を命じていた。
十字軍が力を持たない民を兵として消費すれば人が減るばかりで、それでは先にこちらが自滅してしまう。
回避すべく先に壊滅させる任務を引き受けたそのガタイの良い大男は、大剣を背負った背中から引き抜き戦闘態勢に入る。
また街から人が連れ去られた。戦力として補おうにも、サゥム相手では無意味に等しい。奴等は神を信じる心があれば、人類は救われるとほざいてやがる。その為に戦えと。
もう今までのような時代は終わった。我々の世界は神に頼る時間すら許されない。そんな時間があれば、まだジャガイモの皮むきをするのが有益というものだ。
「ハァ――――――」
ラヴァから与えられたこの力、十字軍の言う悪魔の力にはさせない。人を守るために受け入れたものだ。
ああ、だから……生存の妨げになるものは全て消す。
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嗚呼……そうだよ! 僕が……僕が全部! 全部悪いんだ……!
エミルとユーリが死んだのだって! ○○と○○と……○○が死んだのだって!!!!!
僕は、ボクは―――――――――——
(西幸様! 西幸様……!)
「―――――――!?」
気付けば通路の真ん中に立っていた。支部長室を出た直後までは記憶は確かにある。しかし、その瞬間からは一切覚えておらず、記憶データも存在していない。
(……俺は何をしていた?)
(この状態で応答がなく、こうして直接的な回線で試みていましたが……別の要因で覚醒されたと推測いたします)
(そうか……)
自身の病とは違うまた別の何かが起こっている……? だが、それはにしては妙な感覚を覚える。それにざわついた何かが心を支配する。隠しきれないそれが大災害を起こす。そんな予感でさえ感じてしまう。自分に、僕に何が起きた?
ふと近くのトイレへと向かい、鏡で自分と向かい合う。何の問題はない。黒の瞳はしっかりと鏡を睨み、人工皮膚も肌とのズレはなく健康体そのものであり、バイタルにも異常は見当たらない。
『―――――――こちらでも異常は感じられません。 白神所長にも後で報告します。 しばらくは経過観察かと』
「……ああ」
弘太は一回深く呼吸し整えた上で零華達の元へ歩みを進めた。動揺を隠すように堂々と歩き、パッチリと開いたその“紫の瞳”は先の行く末を惑わすように怪しく光る。
なんでよ なんで私ばかり 酷いよ 助けてよ
ねぇ なんで私だけこんな目に合わなきゃいけないの
怖いよ もう一人は嫌なの あんな怪物に会いたくない
死ぬところなんか見たくない みんなだけ みんなだけ
(………)
扉に鍵を掛け箪笥で通行を防ぎ、部屋中の鏡は段ボールや新聞紙で全て覆い隠されている。
彼女は部屋で一人布団の中に閉じこもっていた。分かっている、分かっているつもりだ。こんなことをしても意味はない。アイツはどこにでも現れる。施設の人でも不可能だ。
幸せだったあの日々は帰って来ない。全てを失った。残ったのは絶望と苦しみだけ。
(―――――――――死にたい)
今回も解説は用意できておりません。
すいません。
突然の1000年前の話ですが、いずれ入れる予定だったので今回の展開をやる上で必要と考えたので入れた感じです。
宗教の扱いを慎重に扱わないと考えましたが設定と物語を踏まえるとこの結果で出さざるを得ませんでした。
それと今までとは別に新作を書こうと思ってます。
まずは外伝Ⅰを完結させるのが先ですが……w
では次回でまたお会いしましょう。




