七十六話「暗薬」
戦慄がその戦場を支配した。創無たちは一斉に攻撃を止め、静かに歩むにその少年を警戒するように地に伏した。
「……あの少年は……」
「人の指を……食べてる?」
周囲を見渡し、戦況を把握したのか。人の指を捨て口を腕で拭いた。
(……やっぱり“彼”か)
メルダーは震えた。そう、己の認識を超えて奴は進化していた。訂正しなければならない。最初は奴が人間と手を組んでいたと思っていた。しかし、違った。
人間の姿を得た今なら分かる。この感覚が本当に奴に感じた物と同じなら……。
「……4人とも、改めて気を付けて。 その少年は……完璧な敵だ」
「ヴェルズ、それは分かるわよ……あの少年の対処を優先?」
「そうなる。 アルゴスは放置、ファイと弘太で相手して。 シリスも前でて、メルダー達の相手を」
「……ああ」
「聞いた、弘太?」
「……了解」
「………」
その無表情は変わらない。ボロボロの少年は溜息をつくように深呼吸をし、ポケットから注射器のようなものを取り出した。
やっぱりだ。ああ、ようやく確信を持てる。これは……。
「僕らより先に進化していたようだね……」
「………」
「……!」
注射器を少年の自身の腕に突き刺し、中の透明の液体を注入する。
「……フン、ヒャッ。 ニヒャッヒャヒャ……」
興奮する少年の全身から血管が浮かび上がり、充血した瞳から赤く染まった黒の血を流す少年は人の皮を剥いでいき、その姿を現す。
「うっ……!」
巻き起こる熱風に耐え、弘太の目の前に立っていたのは少年ではなく、一匹の蜥蜴の怪人であった。
「ヴォォォォォォォォォォォォォォォォォォォ!!!!!!!!!!」
高らかに吼える怪人は以前のような真っ黒ではなく、茶と緑を基本としたとても暗い色をしていた。
『シン……我々の知らない間にあれほどの進化を……』
「ホワイト、無駄口は後だ」
弘太はそう言い、アモリの中へと一旦引き返した。
「何をするかと――――――!」
次の瞬間にマシンディノープを颯爽と駆る弘太の姿があった。
『事前準備の方も不備なく、完了済みでした。 システムも依然問題ありません』
「そうか」
シンに躱されるも、そのまま爆走。創無たちに対してのひき逃げアタックが行われていく。旋回し、再びシンへと迫り行く。
「……!」
シンは避ける様子も防ぐ素振りも見せず、その右手でマシンディノープのカウルに拳を喰らわす。
「ハアッ……!?」
宙に飛ばされるも、その間にマシンディノープはフェニックスモードへと変形し、弘太はその車体の上に乗っかる。
(以前よりも……)
(はい、戦闘能力が飛躍的に上昇したと見るべきでしょう……気になる点はありますが)
そうだ、奴は何度もあらゆる施設を襲撃し、あらゆる薬品を貪ってきた。そして、今回の襲撃も同様だ。それを用いて、パワーアップしたにせよそれだけでは終わらないはず。あまりにも莫大な被害を受けたほどの量を摂取したのだ。奴はこれ以上の進化を果たす可能性もある筈だ。
「……!」
シンは跳躍し、あっという間に差を詰めて弘太に攻撃を仕掛ける。
その速度に反応が遅れるも一歩後ろへ引き、掠るもハンドガンを発射。二撃目を防ぎ、さらに弾丸を放って優位性を取り、そこに突撃するファイのストレートをかます。
「クゥ……!」
「……ハァ」
D-02とハンドガンを構え、彼は交互に撃ち続けた。シンは皮膚を硬化させ、横に移動しながら地に伏している創無を無理矢理立たせて、肉盾にしていく。
(面倒ね……!)
『―――――――やってることが我々と似てきましたね』
(……俺は稀にしかやらん、特に最近はやらん)
『メルダーからの攻撃、避けます』
フェニックスモードのマシンディノープはその車輪の翼を羽ばたかせ、ナイフの大群をまるで海の魚の群れから逃げるように高速で回避してしまった。
「……!!!」
そのナイフの攻撃はシンにも行われ、守り切れていない部位に切り傷を負わせた。
「キシャァァァァァァァァァァ!!!!!」
生物とは思えない咆哮を出しながら、シンの身体の傷口からは次元エネルギーが漏れ出る。しかし、痛みを抑えながらもその身体は興奮を抑えきれていない。
(……まだ戦うか)
メルダーは取り出したディレイドライバーを腰に巻き、手に持ったナイフのグリップのトリガーを引いた。
『We hunt the sky』
「なら、僕たちも」
「………」
後ろの方で周囲を観察していたヘルシャー、ケンプファーも同じくディレイドライバーを巻き付け、ナイフのトリガーを押し、ディレイドライバーの挿入口に差し込んだ。
『Beyond perfection』
『We surpass desperation』
「「「――――――変身」」」
ブラッター、パラドネス、ヴェリパーへと変身を遂げた三体はシンに攻撃を仕掛ける。
「……!!!」
シンはさらに興奮し、その高鳴りは最高潮まで達した。そう、彼の本当の進化は“ここから”だ。
「バァ……バァ……ヴォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォ!!!!!!!」
雄叫びを上げたシンの身体はさらに変貌を開始する。
「な……!?」
メルダーたちはその熱風に圧倒され、迂闊に近づくことが出来なかった。
周辺はドロドロに溶け、白い蒸気が舞い上がる。ふつふつと鳴るその音はシンから聞こえてきた。
「随分と……アレね」
「……なんだ、あの姿は……」
『―――――――アレは危険です、常軌を逸しています』
そこには先ほどまでいた蜥蜴の怪人はそこに存在していなかった。そこには……全身が“試験管”で覆われ、繋がっている身体から怪しいドロドロとした様々な色のした液体が試験管に注ぎ込まれ、顔はガスマスクを装着してるようにも見えるが、そこにも試験管が接続されていた。
「……なるほど、そういう進化を“好んだ”訳ですか……面倒くさい」
「んー、あの手のは簡単に片づけられそうもないね~」
「………」
ケンプファーは逆手に持つ二つのコンバットナイフで果敢に攻める。が、シンは創無の中に紛れ込み、“姿を消してしまった”。
「……!?」
あの明らかな目立ちやすい格好であるなら、本来は一目瞭然で隠れることなど不可能である。本来なら――――――。
「……!」
「……ハァ、めんど」
と呟きながらも、ヴェルズは内心焦っていた。ジープを運転しながら、戦場の前線へと向かう。
(……ドンパチでも起こして、少しでも場を乱すか。 場合によっては……)
これから始まるのは生存を掛けた戦いは勿論であり、同時に戦う者たちの闘争、進化、それらをまとめ混沌とする新たなステージへの開幕であった。
最近、寝落ち多くて書くのに忙しいですがブックマークが増えて何より嬉しいです。
モチベーションも上がり、執筆意欲も増してきましたこの頃。自分のやりたいことを書くのも良いですが、同時にそれをどうやって物語に挟んで破綻させないかも考えてます。
突然、変な要素を加えるのもアレですが、私の場合は事前に準備して匂わせてから投下するので、自分なりに違和感を軽減している筈ですね。
最近、創無サイドの強さも目立ちますがシナリオ通りです。
ディレイブの解説もまだしていないので、八十話辺りで本格的に本編で触れ込み、後書きで解説しようと思います。
外伝Ⅰが完結したら、しばらくこちらに集中します。では、次回も楽しみにしていただけたら幸いです。




