七十一話「強奪」
「どうなっている……!? 相手は本当に人間なんだろうな!!?」
研究所長はそう言いながら、監視カメラに映る三人の姿を確認しながら機動隊を総動員させているが、全ての攻撃が完全に防がれていた。
(……ここの防衛に付けていた、アルゴス・フューリーは外の人間と交戦中か……)
「へへーん、中々やるねー。 お医者さん!」
白衣を着た若い男は、アルゴスの剣と斧の攻撃で躱しながら手刀で軽い反撃を仕掛ける。
「――――――私も伊達にここの襲撃している訳ではないですからね」
男は白衣の内側から本を取り出す。そして、本を捲り適当に開いたページの文字を全て抜き取っていき自身の身体へと取り込んでいく。
「……ふぅ。 もう少し遊ぼうか」
男は右手を撫でる様に上へ振り上げると、字面の土が鎖の様にアルゴスを襲いゆく。それと同時に物凄い重圧が彼にのしかかる。
「――――――ッ!!! 重い……! 重いよ! 凄い能力だね!!!!!」
しかし、彼はそれを力を振り絞って拘束から抜け出した。
「ふーん。 重力操作を使ってみたけど、やっぱり能力者最強の君だと効果は薄いか」
「そうだよ! 僕は最強だからねッ! 知ってるってことは僕も有名になったもんだね~」
悠々と喋りながらも二人の攻防は熾烈を極めていた。振り回す様に斬っていくアルゴスに白衣の男は変わらずに、手刀で捌いていく。
(……そろそろ着いてるかな)
「侵入者を迎撃しろッ!」
隔壁で閉鎖するも、平手による一撃がその壁を発泡スチロールであるかのように破壊していく。
「―――――――これが、人間……か」
茶色のトレンチコートを着る男は表情を変える事なく、突き進んでいく。
(あの男……! 銃弾を受け付けない!?)
隊員たちを指揮する隊長は研究所長へと連絡を取った。
「どうした……!?」
「その三人は人間なのですか? 新手の創無ではなくて?」
「――――――—その考えも分からなくないが、とりあえず応戦してくれ。 能力者の応援を要請しておいてある」
通信を切る。守り切れる状況とは思えんが、やり切るしかないのだ。全身が黒ではなく人の姿をしている、断定は出来ないが奴等の目的がこの研究所の物を狙っているとしたら……。
「ッ―――――――――――――」
通信が一瞬入るが、それはすぐ向こうから切られてしまった。しかも極めて強引みたいだ。
「……おい、俺は所長室へと向かう。 下手したら、三人の内の一人が潜んでいる。 気を付けろ」
彼はそれだけを言い残して向かう。言いようのない不安が身体の中を駆け巡る。もう出遅れかもしれない。しかし、行かなければ。安否の確認が先決だ。
「――――――何用かね?」
研究所長はナイフで切り裂かれた通信機を捨てて、目の前の男に問いかける。
「……簡単な話だよ。 ディレイドライバーを貰いに来たよ」
ポンチョを着込み、ニヤリと笑う彼は研究所長の頭部を掴む。
「な――――――――」
「場所は?」
「地下の保管庫の真下だ。 保管庫自体が囮になっている」
「情報、どうも。 代わりに殺してあげるよ」
彼は人では絶対に出せないその力で、掴んだ頭部をそのまま握りつぶしてしまった。
「さて―――――――「動くな!」
彼はわざと両手を上げて、後ろへとゆっくり振り向く。
「……襲撃理由を述べろ」
「もちろん、答えますよ。 もっと、人類と遊ぶためです。 その玩具を取りに来ました」
―――――――そんな風な答えが返って来ることは分かっていた。これで奴等は創無であることは明白になった。なら、躊躇う理由はない。
「全員、相手は創無で間違いない。 接近戦を一切禁ずる、良いな?」
部下に命令を伝えたその隊長はライフルを静かに構え、一歩ずつ後ずさる。
「それで良い。 貴方方の足掻きを見せてくれると嬉しいよ。 殺意をそそられる」
男はナイフを片手に持ち、余裕綽綽に接近してくる。震えを抑えながらも、彼はその弾丸を撃ち放つ。
「ふふっ、もっと遊びましょう。 恐怖を抱いている人間ほど退屈しないものはない……!」
銃弾を無視し、ナイフを投げて霞ませるも逃げ出したので男はあの兵士を追い掛けた。兵士は全く別の方向に放った銃弾に気付かずに牽制しつつも手榴弾で辺りを吹っ飛ばす。しかし、手ごたえは全く以て掴めなかった。
(……幻覚に掛かりやすいねぇ)
ナイフで傷を負ったことにより、発現した幻覚は男の正確な位置を特定できなくなっていた。故にこの隊長は虚空に男が見え、無意味な攻撃ばかりを仕掛けていた。
「さて……」
地下の保管庫へと次元エネルギーで床に穴を開けて入って来た男はさらにその下を確認する。
(――――――僅かなエネルギーの痕、触れないとはいえ管理が甘いね)
男はそこで姿が変貌した。赤と緑の身体に茶と黒の線が入り混じった仮面のような顔をした道化師へと。
その長い腕は地面の鋼鉄を貫き、奥底のアルミケースへと届かせた。
「――――――ッ」
彼は再びニヤリと笑った。これから起こる人間達の断末魔を聞けると思うと、興奮して仕方ないからだ。
「――――――姿を変えた……!?」
兵士たちの首を的確に張り手で突き、絶命寸前までに追い込んでいるトレンチコートを着ていた男は銀の鎧を纏う騎士へと変わってしまった。
その大剣は瞬く間に兵士たちの武器を切り裂き、その拳、足は身動きできなくさせるには十分な一撃を誇っている。
「………」
目的を終えたのか、彼は襲うのを止め研究所内から外へと出てしまった。
「――――――もう隠す必要はありませんか」
白衣の男は一変して黒を基調とした薄紫と緑のローブを羽織る怪人に変わっていた。
「キミ……色以外はどっかの地域で出てるよね!」
「そうだね、最近だと街一つ壊滅させたけど記録に残ってるよね? あんな殺戮やったんだから当然だけどね」
「――――――そう」
アルゴスの表情は笑っていた。いや、その顔に決して楽しいなんて言う感情はない。
「殺さなきゃいけない理由があるなら、仕方ないけどね。 それなら僕は許すよ。 でも―――――――愉しむために命を奪うんなら、僕は許さないよ」
その顔には先ほどまでの笑みはなくなり、殺意を向けた無表情へと変わり心の判断よりも先に身体が動いていた。
「っと!?」
突然の連撃にローブの内側にある剣で対応する。しかし、それ以上にアルゴスのパワーが凄まじかった。
「これは楽しくなりそうで――――――――」
その一声はアモリから現れた刀を持つ少年とガントレットを装備する少女の攻撃で掻き消された。
「ファイ! それにコウタ!!! ひっさしぶり~。 今ねぇ、凄く大変なんだよ」
「分かってる。 こっちにも連絡が来た」
「私も弘太を応援するつもりで向かってたら、今度はこっちにね……その試作機は!?」
「多分、盗られたんじゃないの」
無邪気にアホと言う文字が相応しいような気の抜けた表情で彼は言った。
「――――――あのヘルシャーの強さは?」
「僕が足止めされた。 僕、守るの嫌いなんだけど。 苦手だし」
しかし、彼が世界最強の能力者である事に変わりない。問題は能力者不足と今回の創無が役割を分けた作戦を立てた事だ。今までの脳のない怪物が勢いを増して、戦略を立て襲撃した。この事実だけで驚くべきことだが、事前に弘太の担当地区での潜伏情報があったために。連続した遠い地での襲撃を想定していなかったのが原因だ。
「丁度だね。 メルダー、ケンプファー」
銀の騎士は静かに佇み。道化師はアルミケースから三本のディレイドライバーのプロトタイプとナイフ型のそれぞれ色合いの違うアイテムを取り出して、ヘルシャーとケンプファーに渡した。
「ふーん、これがねぇ。 どうなるかはお楽しみって感じですか」
「………」
「――――――では、行きますか」
三人はドライバーを身に着け、そのナイフのグリップのトリガーを引いた。それはこれから起こる波乱を巻き起こす合図であった―――――――――。




