六十三話「空白」
「は~い! お帰り、西幸君! お茶でもどうかな? 幸雪君も北瑞君も穂乃﨑君に風烈君も!」
気持ち悪いほどに急に態度を変えてきた白神主任に弘太は戸惑う。
「……何かあったのですか?」
「あー、言いたいような言いたくないようなぁ~」
「言ってください」
「分かった、分かった。 単刀直入に言おう、相原がもうすぐ帰って来るぞ」
「―――――!?」
予定よりしていた時期よりもかなり早い帰国で驚いてしまった。後、二カ月ぐらいの予定の筈だったが本当に何かあったのか。
「まぁ、何があるか聞きたいよね~。 聞きたいんだよねぇ。 どっちでも聞かせるけどね」
結局は聞かせるつもりじゃないか。本当にいつものことだ。事あるごとに問いかけをしておきながら、答えを聞かずに強硬的に物事を進めてしまう。そういう人物だ、もう慣れたつもりだ。という事で、白神典幸は話し出した。
「はてさて、君に関係している事だよ。 と言うか君を中心に今、我が組織は動いている。 そして、裏切り者が居るかの調査をしつつも私の要望を優先させて、とある物を入手したので帰って来るんだよ」
「その物とは……?」
「……ルリーブって聞いたことないよね」
―――――今初めて知ったワードだ。それが僕に関係している? ルリーヴ、ルリーヴ……だが何故だろうか。妙にしっくりと来るワードだ。
「お初です。 ですが私の中ではどこかで引っ掛かりを感じています」
「ほー、そうきましたか。 流石に血族とあるね」
「血族……?」
「そう、血族。 相原が回収したそのルリーヴは君の祖先が使用していたんだよ。 ルリーヴの力を用いた新しいシステムの開発を進めているのさ。 その計画の要が君なのさ」
両手で弘太を交互に人差し指で指しながら彼は言う。つまり、また実験台にされるのか……。
「して。 どんな計画で?」
「よくぞ聞いてくれた! その名もディレイブ計画……!!! 能力者の戦力増強及び多方面においての対応に対しての効率と展開性の強化。 ここからが一番重要だよ? この計画において蓄積されたデータを基に“人間”でも扱える代物としての量産を目的とした計画であり、創無に対する有効手段を確立し次第にそれを組み込んだ物としてこちらからの反撃を目論見としたものだ」
自分の知らないところでこんな壮大な計画が始動していた。全ては自分の祖先から始まった事。それが今後の人類の行く末を決めるかもしれない。そんな計画の中心人物と言われた僕にはかなりの重荷が背負わされている。責任重大だ。
「……とりあえず、私がまた試験運用するのは確定しているのですね」
「うん。 あと、相原と賀霧君もだよ」
柳と……賀霧雅哉か、この際良いだろう。
「どのような物ですか、そのシステムは?」
「ちょっと待ってください。 弘太君は今怪我してるんですよ……!!!」
そこで零華が割って入った。他のみんなもその疑問を口にした。
「ふむ、分かってるよ。 だから、それも兼ねて新しい玩具を上げよう!」
玩具……今度はどうなるんだ。
「はーい。 こっちに来て、来て」
と支部長室から退出し、一同は実験室へと向かった。室内には布がかぶさった一つの物体を視認できた。
「………」
「さあ、見たまえ! ディレイブ計画の第一段階がこれだ……!!!」
布が捲られ、そこには真っ白なオートバイと銀のアタッシュケースがあった。
「―――――流石に慣れました。 で、このケースの中は……」
開けてみるとそこに腕時計があった。デジタルで一見、薄くてコンパクトそうな見た目をしているが、時計自体がデカいような気がする。
「……?」
「……着けてみてくれ」
少しの戸惑いもあれど、彼は装着した。すると……。
『装着を確認。 装着者のデータ確認を行っています――――――エネルギーの照会を完了、西幸弘太様ですね。 私はD-06、ディレイブ計画の中枢であり、これからあなたのサポートを務めさせていただきます』
デジタル画面には二つの四角形があり、その下に横棒線があると言った顔が形成されていた。この電子音声……D-00とD-02と同じタイプだ。
「……貴方のその音声は……」
『はい、既にご存知の通りです。 私はディレイブ計画において最初期から開発されていた存在で西幸様が所持されている二つの武器は私も少しばかりではありますがサポートをさせていただきました。 あと、貴方と言わなくても結構です。 気軽にD-06と』
「言いづらい」
『ニックネームをお願いします。 それと機械部の身体検査を行いました、損傷が激しいようです。 早急に修理と交換をお願いします』
そんな機能まであるのか……身体の修復はまだ大丈夫として名前か……そのままのロクやシックスは安直だ。なら……と、その前に。
「……何でみんな、さっきから何も喋らないんだ?」
「えっ、だって何か勝手に話が進んでるし……」
「わたくしは知ってますし、言う事はないわ」
「うーん、私はちゃんと先輩たちの話を聞いてますけど。 話す空気ではないですし」
「………」
「……こういう場に慣れてるのはこの中で支部長と西幸様、あとは辛うじて私ぐらいよ」
思えば確かにそうかもしれないと弘太は感じた。自分自身が大体こんな感じの雰囲気……特に機械的なやりとりを数え切れない程にやってきた。この世界のどこに明るく陽気な戦場があるだろうか。そうでなくても創無と……人間との戦いにおいて、能力者に笑う、癒し、幸せ、というワードとは程遠い場所にある。
中でもクレットをはじめとするテロリストたちが酷かった。我々、能力者と創無の模造品を作ろうとした。その為に多くの人たちを犠牲にした。酷い時は駆け付けた時には死んではいないが改造されてる途中で人の部分を保ちながらも大半が人でない怪物と化していた。
零華と会う前のあの任務もそうだ。二十人の助からない子どもたちを僕は殺した。目に映ったのは殺人鬼から逃げ惑う被害者の姿だ。この戦いに正義なんてない、あるのは必死に生にしがみつく者と何も知らずに粋がる者。そして、殺しを愉悦としそれ以上の快楽を求める怪物どもだ。
けど、これだけは断言できる。創無から人類を守っている僕たちは間違っていない。これだけはハッキリと言えた。何でも言おう、正義の為に戦っているのではない。ただ生きたい、目の前の人を殺させるわけにはいかない。これは正義がぶつかり合う戦争ではない、殺戮を繰り返す化け物から罪のない命を守り抜く戦いだ。
だから……僕は今を信じて戦えば良いんだ。迷う必要はない。
今の自分の気持ちを改めて認識した弘太は心を切り替えた。
「まぁ、そうかもな。 話を終わらせて、ゆっくりするか」
と、D-06に目を合わせる。
「……何か良い候補ない?」
『それを私に聞くのですか?―――――――出ました。 アル、ジャービス、G5-Xなどの検索結果がございますが、如何いたしましょうか?」
「何だその結果……検索?」
『はい、インターネット接続です。 西幸様の機械脳と私自身が接続できますので、いつでも快適にネット環境を試すことが出来ますよ』
何だその無駄に便利な機能。確かに任務の上で何かの役に立ちそうな感じはあるが……。
「ああ、そうか。 他に機能は?」
『演算処理などの補助。 情報をくだされば、作戦を立てることも可能です。 その他、機械等の遠隔操作。 などの多数の機能を搭載しております』
「……一つ、聞く。 その知能の元は何だったんだ?」
『白神典幸所長です』
なるほど、本当に主任仕様なんだな。途端に落胆と言うワードが脳の中を駆け巡った。
「えー、何その残念そうな顔。 いつでもどこでも私の頭脳があるのと同じなんだよ!? こんなに喜ばしい事はないんだよ!」
「つまり、お荷物を増やすと?」
「いやぁ、そうではなくてね―――――」
色々な事情にせよ、この男と同等の頭脳があると言う事はありがたいと言えばありがたい事だ。人工知能だから性格も同じとは言えないし。
「キミの名前は……ホワイトで良いか?」
「単純に主任の漢字から取りましたね……悪くない名前でないのは確かです。 西幸様の決断に異論はありません」
「……これからよろしく頼む。 ホワイト」
「こちらこそ、長い付き合いになりそうですね。 あらゆる面においてのサポートをお任せください」
相手は機械だがそんなことは関係ない。どんな存在であれ、ホワイトはこれからのパートナーと言っても良いかもしれない。新たな友を得て、心機一転と言った感じだ。まだまだたくさんの障害があるがそれを乗り越えて行こう。大切な人々を守り抜くために。
「――――――背中いたっ」
「こ、弘太君! もう無理しすぎだって!!」
『巨大なシップでも張りますか?』
「お前、やっぱ白神だろ」
それでも“変わりない”日々を送る彼等であった。




