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黒絶草   作者: Outsider
第一章 「虚憎」篇
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六十一話「壊滅」

 その日、街から人が居なくなった。いや、街に居た者、全員が殺されたと言った方が正しいだろう。


 その人たちは何か凶悪な犯罪を起こしたわけでもない。明日を生きるために必死に働いて、小さな幸せを噛み締める人ばかりだ。


 その命が1時間もしないうちに奴等に奪われた。黒を身に纏った化物……それもたった二匹にだ。抵抗も虚しく、その虚無のエネルギーにより消滅させられる。それだけでない。死を楽しむかのようにあえて、即死にさせずにじっくりとその悲鳴を愉悦とする。


 父親が子どもを逃がし、その身を犠牲にするが創無が許す訳がなく、最終的に悲惨な最後を親子は迎えた。


「……ふぅ、ただ殺すのも何かねぇ」


 ヘルシャーは悩んだ。新しいゲームをだ。死を題材にして、人間に突きつけ限界までに追い込む……それにはもっと人類を観察する必要がある。彼等は多くの出来事を要因に恐怖を己に植え付ける。奇抜過ぎるのも良いが……最初はオーソドックスで決めよう。


 すると遠くの方から何かが戦い合う音がした。ケンプファーが恐らくここ等辺の能力者と接触したのだろう。









「ハァ……ハァ……」


 荒い息遣いの中、その能力者はただひたすらに目の前の強敵に食らいついていた。いくら、攻撃を仕掛けて隙を突こうとも、いとも簡単に防がれ剣による猛攻が彼を襲う。


 左腕は剣の攻撃によって使い物にならない。左手に持っていたナイフを捨て、右手に握った鉈を構える。


「………」


 一定の距離を取って警戒する。ほんの一瞬でも隙を見せれば、こちらの終わりだ。本当に全てを守れなくなる。


「助けて……! 助け――――――」


 遠くから聞こえる助けを求める声は掻き消された……自分が情けない。こんな力を持っていながら、守るべき者すら守れない。悔しいなんてものじゃない。自身を呪うくらいの後悔だ。何度味わっても変わらない。応援が来るまでの時間は待ってられない。この身に宿った命を燃やす尽くしてまで辛うじて逃がした人たちを守り抜く。


 その能力者は先に動いた。鉈で真正面から仕掛ける。


 ケンプファーは剣を受け止めようとするも、フェイントを掛けられた。鉈を攻撃するような動作を見せながらも、彼は空を切り身体を回転させ、姿勢が低い状態で足を掛ける。


 ケンプファーは体勢を崩されるも、それを利用してエルボードロップへと変えた。そして、あまりの対応に彼は対処しきれずにその胸板に一撃。


「ゲホォッ……!!!」


 口から垂れた血液が最高に嫌だった。自分が負けている証明だからだ。しかし、彼は足掻く。


 自身の歯に次元エネルギーを収束させ、ケンプファーのこてに噛みつく。


「………」


 振り払おうとするが、噛みついたあとから黒い糸のようなものが出ていた。その糸は瞬く間にケンプファーを拘束した。


「……しゃあっ!」


 自身の能力“誕生”を発動した彼は、すぐさま離脱し、鉈に茶のエネルギーを溜める。少しの静寂、止めを刺そうとするも……。


「………!」


 ケンプファーは自身の近くに無懺を出現させて、そこへ逃げ込む。


「……!?」 


 姿を探すも見当たらない。だが。


「―――――グアッ……!?」


 背中から刺されたその剣は心臓ではなく腹部を貫いていた。


「………」


 無懺の中で拘束を解いて、そのまま彼の後ろで出現して貫いたのだ。


「ハァ……ハァ……」


 力尽き彼は倒れる。まだ……まだこの後ろには多くの人たちが居るんだ。ここで敗れる訳にはいかない。負けたら……負けたら、人類は終わりなんだ……!!!


 その時、“鎖”は彼を助けた。


「―――――!!」


「大丈夫か……!?」


 ナンバーⅡ……シリス・グラットは彼に駆け寄った。


「―――――ちょっと……」


「分かったから……! 確か“スバリヤ”くんで良いんだよね?」


 と言いながらも両手にエストックを持ち、ケンプファーと対峙する。


「あらあら、やっとまともなお客さんが来たようで」


 全身に穴が空いた少女をまるで見せしめのように引き摺りながら、ヘルシャーは不敵な笑みを浮かべた。


「……貴様ら、自分たちが何をやっているのか分かってるのか……?」


「もちろん、道楽ですよ。 私たちにとって命と死は遊戯ですからね」


 価値観や生きてる世界においての文化の違い? これはそんなものでは済まされない。そのせいで、人類は明日が消えるかもしれない崖っぷちに立たされている。


「散々、人類を襲って……その上に二度も滅亡の危機に瀕した。 償い切れない罪を犯した理由がそれなのか……?」


「えぇ、そうですよ。 至ってシンプルでしょ? 楽しいから人殺しを行うんです。 と言っても、能力者は正確には人間ではなく我々に近いですからね~。 人ならざる者同士の戦いになってますが……良いお遊びになってますので、問題ない―――――」


 咄嗟に多方向からの鎖の攻撃を避けるも、右手に持ったエストックの突きがさらにヘルシャーを襲う。


「クッ……何をそんなに怒っているのです」


「あんたらみたいな奴が居るから、誰も幸せになれないんだよ! この世界から消えろ……!」


「先ほどまでの丁寧口調が乱れてますよ……?」


「お前に丁寧になる必要はない。 ムカつくんだよ。 そうやって、全てが自分たちの思うように動いてる事が。 全部が全部、最悪だ。 お前らだけだよ、こんなに何かを見下してるのは……!!!」


 左のエストックで切り刻みに行き、軽いターンを決め、右のエストックで刺突していく。


「へぇ~、中々に中身が荒れてますね」


「誰のせいだと……!」


 ケンプファーの剣戟が容赦なく振られるも、空に出現させた鎖で防ぐ。


「ハァ……………あああああああああああああ!!!!!!!!!!!」


 シリスの叫び声は周辺に響いていた。それは心からの叫びだ。いつもこいつらには逃げられている。それは自分の力のなさを表しているのが本当に情けなかった。ナンバーⅡの名を持っていても勝てないのだ。だが、何が何でもこいつらをぶっ殺すしかない。負の感情を力に変えて、憎しみと怒りで創無を滅ぼす。


 エストックの刺突と斬撃の交互の連撃をしつつ、刃や鉄球の付いた鎖で攻撃していく。


「ふぅ……ま、気分転換になりましたし帰りますか」


「ハァ……!? ふざけるな……!」


 が、ケンプファーは無言のまま。ヘルシャーはこちらを嘲笑いながら、あちらの世界、無懺へと帰ってしまった。


「……スバリヤ!?」


 スバリヤに駆け寄る。


「もう少しで救護班が来る。 安心していい」


「……もう出来ないよ」


 彼は目の前の……街の方へと視線を向ける。


「……少し街を見てきていいか?」


 スバリヤの許しを得て、シリスは街へと向かった。近付いて行くたびに、人々の死体は増えていく。


「………」


 街に着いた頃には地獄絵図が広がっていた。


 数え切れない人が住んでいたここはもう死体の山だ。引き裂かれたり内臓が飛び出ていたりと、見るも悍ましい光景だ。


 激しい怒りと悲しみが身体を支配した。やるせない思いが駆け巡る。


 シリスは無線をとり、プロテと連絡を取った。


「創無との会話記録の保存も完了です……シリス様?」


「プロテ、僕は……僕は結局、何も守れてないんだよな」


 頬を伝う涙は計り知れない後悔の表れだった。同時に現実を突き付けられた。


「敵が……強すぎるんだよ。 奴等は本気すら出してくれない。 僕たちが必死に守ろうとしても守り切れなかった。 こんな結末、誰も望んでないよ」


「……シリス様。 私も同じ気持ちでございます。 妻を奪われた私としても彼等は許せません……今夜のお食事はどうしますか?」


「……食べるよ、もちろん。 気遣いさせてすまない」


「いえ、当然のことですから」


 死んでしまった人々に創無を滅ぼすと誓い、シリスは街から立ち去った。















 

 

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