五十九話「敵対」
今回と次回は創無サイドの話です。
「随分とまぁ、負傷して帰ってきたねぇ」
腹部を抱えたメルダーを一瞥し、ヘルシャーは失笑した。
「それほど強くなっていると考えても良いのかな?」
「……フッ、ああ。 西幸 弘太は憎しみ以外の感情で強化を果たした。 奴はいずれは我々を倒す、その時が……」
「分かっているさ、作戦の結構だ。 ケンプファーもね?」
ケンプファーは無言を維持しつつも、立ち上がり自身の砕けた剣をじっと見つめた。
「ふーん……その剣を新しくするのかい。 君が何で人間の武器を使うのかは知らないけど、失敗は止めてよ?」
最初から分かっているような素振りを見せながらもケンプファーは無懺から消えた。
「じゃ、僕も行って来るよ。 適当に誰か殺すか、上位の能力者を襲って来るよ」
ヘルシャーも消えて行き、メルダーだけとなってしまった。
「……ハッ、ハッハッハハハハハハハハハッッッ!!! そうだよ、あの力だよ……! あの力で早く私たちを倒せ! 私はもっと高みを目指す! ハハハッ……ハッ!!」
彼はそう言いながら、地面を蹴った。これで全てが上手く、そう思った。彼がこんな傷を負うのは二度目だ。今度はない。この一族には終止符を打つ。シギンスを身に纏うなら尚更だ。
「クッ……! な、なんだよ!? この化け物!??」
男は逃げながらも全身が真っ黒な奴から逃げていた。だがどこへ逃げても奴は追って来る。まるで男の行き先を知っているかのように追跡してくる。
「ハァ……ハァ……何なんだよアレ―――――!?」
先に回り込まれ胸には奴の手があり、あっさりと貫かれていた。
「アッ……アッ……」
男は手に持っていた“石”を手放し、その場で生命を終了した。
「………」
ケンプファーは男が落とした石を拾い上げ、次元エネルギーを込めていく。すると石にヒビが入り、それは姿を現した。
「うわぁ、相変わらず眩しいな~、ルリーヴは。 とりあえず、これの封印は解いて能力者の所持している物を除くと……あと13個か」
その言葉に同意するようにルリーヴをヘルシャーに渡した。
「……僕たちの秘密、明かさないとね。 いつまでも虚無と隣り合わせではいられないさ」
全てを合わせると15個。彼等が何の目的でルリーヴを集めているのかは不明だ。だが、ルリーヴの秘密を紐解くことが自身の知りたい事を教えてくれるのは、創無も人類も分かり切っている事だ。人類は創無を滅ぶ方法の模索、創無……メルダーたちはルリーブを用いての自分たちの正体を探る事。自分たちが虚無に似ていて、それを超える存在だって事は理解している。
しかし、メルダーたちは気付かない内にその事実を受け入れていた。仮に生み出した存在が居るなら、是非ともこんな不確かな物を作ったか聞いてみたいものだ。
「……近くに人間が居るね。 感づかれたみたい、武装はしてるでしょ……ヤッとく?」
頷くまでもなく、ケンプファーは素手のままに向かった。
「……!? 居たぞー!!!」
テロリストたちは銃を構えて警戒する。
「………」
ケンプファーは構える事もなく、ただ前進をした。
「……!!!」
テロリストは躊躇う事無く、その銃弾の嵐を喰らわせてやった。
「………」
その黒の鎧に傷が付くことはなかった。騎士のような風貌は異形の存在であることを嫌にでも分からせてくれる。
相手の行動よりも早くケンプファーは動いた。距離を一気に詰め、テロリストは対応する間も与えらずに張り手の一撃を受ける。首は見事に折れ曲げられた。
「ヒッ……」
猛攻はこれからだ。殺したテロリストを蹴飛ばし、相手にくれてやりその死体ごと手刀で後ろのテロリストを貫通する。
そこから腕を引き抜いて跳躍、完璧なドロップキックをヒットさせた。
「本部! 本部! おうと――――――」
無線機は目の前の剣によって破壊されていた。
「うーん、今は僕たちの事は知られて欲しくないかな。 またね……もう会わないけど」
ヘルシャーは剣を突き刺し、グリグリと抉っていた。
「……さてと、ルリーヴを持ってた男はただ運ばされてたみたいだけど……クレットだっけ? 彼等も知っているものは知っているみたいだね……」
目の前にはクレットの支部があり、ただの廃墟に見せているが存在していない存在である矛盾した彼等にとっては簡単に見破ることが出来た。動く存在がたくさん沸いているのだ、細かい調査をしなくても直ぐに分かる事だ。
この時、その支部で爆発があった。それも出入り口と思われるところからだ。
「あれは……シン、か」
支部の希少な薬品を狙っての行動だった。先ほどの爆発は尻尾を切り離した事による攻撃であった。
「表へ出ろ……!! アレを撃つぞ!」
「あ、アレって……あんな奴の対処法なんて――――――」
まともな接触をする前にテロリストたちは殺されてしまった。距離はそれなりにあるはずだった。それがいきなり、まるで“最初”からそこに居たかのように彼等を殺した。
「………」
支部の中へ入ろうとするが、ケンプファーとヘルシャーが立ちはだかった。
「……ケンプファー、あなたは適当にこの基地の人間でも殺しててください。 私は彼とお話でもしますので」
「………」
ケンプファーはそのまま支部の中へと侵入して行った。すぐ振り返り、ヘルシャーはシンと向き合う。
「……まぁ話す事はないか。 今の君は邪魔だしね」
剣と魔導書を取り出し、魔導書から詠唱の文字を抜き出して身体の中に取り込む。
「ふぅ……さて、実験でも始めるかな」
ヘルシャーは手を軽く振り上げ、シンの周り空間が割れそこからいくつかの穴ができ、穴から一瞬の“プラズマ”がシンを襲った。
「……!!!」
直撃を受けた部分は焼き焦げていた。
「まだまだ行くからねぇ~」
さらにプラズマの猛攻は続き、シンは派手に燃え上がった。燃え上がりつつも抵抗を試みるもシンはその場で燃え尽きてしまった。
「うーん、もっと手ごたえのある――――――!?」
咄嗟の爪の攻撃を避けた。そこには“シン”の姿があった。あの場所から奴の死体はない。あの一瞬で奴は“復活”したのか……?
敵味方関わらずに本当に全てが謎でいっぱいだった。ヘルシャーはお遊びから若干の本気を出しつつ、この戦いに臨んだ。
「………」
前述の基地から少し離れた街でその少年は歩いていた。以前のゴキブリを食う奇行を繰り返しながらも、その手には林檎が握られていた。その林檎をかじりながら、この街を散歩していく。
決して裕福ではなく、農業が盛んな街だ。都会よりこういうところの方が彼にとって行きやすい場所であった。
少年が何を考えているのかは誰も分からない。ただ、少年が何かの目的を元に動いているのは確かな事だ。その目的が何をもたらすのか。それが少年にとってどんな物なのか。その答えは少年しか知らない。
「………」
少年はふとして瞬間にこの街から去ってしまった。
ルリーヴに関してですが、15個と言っていますがこの作品では恐らく三分の一も揃いません。残りはどこかって言うと外伝で出します。というか、今書いてる外伝が出発点になりますね。
このルリーヴが同じ世界でありながらも、別々のシナリオを進んでいる人物たちを繋ぐ鍵になりますね。それとまた話数が長引きそうですねぇ。61話で予定していたことも2~3話ほど遅れそうです。




