表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
黒絶草   作者: Outsider
第一章 「虚憎」篇
59/95

五十八話「相対」

「きっついな、これ……」


 背中全体に突き刺さったナイフと自身の次元エネルギーで無理矢理に消滅させてひとまずの体勢を整える。


「なんで……」


「君が危険にさらされてるからだ。 さっきも結構、大きな声で叫んでたでしょ」


「……あ」


「……とっとと、ここを出よう」


 ゾンビと化したガードマンとメルダーによるナイフの雨を掻い潜り、北瑞を抱きかかえながら外へと出た。


「ファイ。 頼む」


「ええ」


 後から追い付いた、ファイはそっと降ろされた北瑞に肩を貸してそのまま弘太から離れて行った。


「……ふぅ」


 ナイフを二本取り出して、逆手で構えた。


「に、西幸様。 あんなことを言ったのに、まだ私を守ってくれるんですか?」


「ああ、仕事でもある。 それに……それが俺がやりたくてやらなきゃいけないことだから」


 一人の女性を愛し抜くのが普通かもしれない。でも、俺の現状はそんなものではない。今は三人の女性を愛さなければならない。


「弘太君ー!」


 零華と眞太郎たちも来た。俺は今までの間、とんだ勘違いをしていたかもしれない。自分がどんな罪を被ろうと、どんな犠牲を被ろうと人類を守らなければならない。必要な事かもしれない。けれど、俺にとってそれは必要なのか?


 ずっと考えてきた。幸せの意味を。復讐の行き先を。憎しみを戦う理由にしていた。でも、それが目的となることはなかった。俺はこの長く続く戦いに何の目的もなかった。


 今は違う。明確にそれが分かってきた。みんな、小さな幸せを願っている。何としても守りたい今の生活を。家族や恋人と会話したりして笑う日々。苦労もあるけど、そのどこかに喜びもある。そんな暮らしが大切なんだ。あんな奴等にそれが踏みにじられようとしている。


 やらせない。多くの人たちの死を前に僕は復讐を誓ってきた。でも、それじゃダメだった。復讐で挑んでも結局は勝てなかった。また挑めば勝つかもしれない。しかし、奴等は待ってくれない。その間にたくさんの人々の笑顔が奪われていく。彼の脳裏には確かな“怒り”を覚えていた。その怒りは彼を着実に成長させていた。


 能力者がそれを何とかしなくてはならない。僕にはその力がある。人類を守り切れる力はないけれど、目の前の、手の届く人たちを守れる力なんだ。


 この力でやる事は一つだ。そう、たった一つ。


「……ふーん、一人で来るんだね。 今度はマシな戦いになるかな?」


 人形たちを召喚し、メルダーもナイフを一本持った。あの黒のピエロをまずは倒す。8年前の無念を晴らす。憎しみで我を忘れるのは最終手段だ。今の僕は……怒りで戦える。


「ああ! 当たり前だ、俺一人で倒せる相手だからな……!」


 わざとらしい声量で言った。それは零華たちの耳元にも嫌にでも聞こえた。


「へぇ~……にしても、いつまでその憎しみで自分を強くできるかな?」


「……憎しみと怒りでお前を殺す」


 けど、彼の戦いはここからだ。 創無を一匹残らず仕留めなければいけない。


 ナイフに黒のエネルギーを溜めて、構える。


「まぁ、良いけどさ。 どうせ、碌な戦いしかしないし」


 別に滑稽な戦いでも良いさ。ただ、この戦いの戦う“目的”を忘れてはならない。それは奴を倒す事ではない。もっと大事な事だ。


 ただただ彼は走り出した。音速でもなく、光速でもない。普通の速度で走る。数多のナイフの雨を斬り弾き、メルダーを目指す。


 この手は武器を握ってきた。その武器はたくさんの命を奪ってきた。だがその武器は同時にいくつもの命を救ってきた。創無との戦いはその繰り返しだった。これからもそうかもしれない。


 連鎖を少しでも断ち切るには今を頑張るしかない。精神こころが死んでしまうかもしれない、生身の身体が消えて完全に機械になる可能性もある。


 でも、仮にそうなっても「守りたい人」が居るんだ。絶望をこの身に味わって、悲しみに暮れて、憎悪を剥き出しても……それでも僕を守ってくれて、救ってくれる人が居たんだ。


 僕は自分が思っていたほどより、愛されているんだ。相容れない奴もいる。そいつとは恐らく、この先で上手くやっていけない。


 仲間……何だ、アイツも一応。これから共に戦うチームのメンバーだ。そんな人たちにどんな形であれ支えられてる。


 左のナイフを投擲。手前の人形に命中、跳躍し群れの中へと着地、アモリを出現させそこから槍を取り出す。


 弘太は槍に次元エネルギーを溜め、メルダー目掛けて投げだし、それを利用して人形を一掃しての一本道を作り出す。


「……キック」


『RELEASE』


 右足のD-00に青のエネルギーがチャージされ始める。


「君もあの時と比べると格段に強くなってるねぇ。 それでみんなを守れるのかな?」


 もう奴に耳を貸さない。そう決めた弘太は再度、ナイフにエネルギーを溜め。糸を縫うように開いた一本道で近くの人形たちを壊していく。


 「あらら、だんまりですか。 つまらないなー」


 メルダーは地面に手を置き、エネルギーを送り込む。すると、ものの数秒で弘太を中心とした黒のエネルギーが放出。数本の柱が彼を邪魔した。


「クッ……」


 それだけではなかった。柱はさらに側面から次々と鋭利な針を突き出し、弘太を襲った。


 身体中に深々と突き刺さるも、弘太は身構えた状態を崩さずにその態勢からマリヤを発生させた。


「!?……なんとまぁ、立派になった事で」


 マリヤと言う紫の空間をモロに受けながらもメルダーの嘲笑う顔は歪むことはなかった。しかし、確かな弱体化はした。それだけは事実だ。


 マリヤに居る事で身体が楽になり、一時的に強化された弘太は針を砕き、柱を茶のエネルギーを溜めた回し蹴りで粉砕。突き刺さった針たちを抜いていき、血液と擬似血液が噴き出していった。


(左腕の損傷が酷いな……)


 決断した弘太は機械の左腕を少しの強引もあったが、身体から引き剥がした。


「……キミ。 やっぱり、面白いね。 あの時に君の友達を殺した甲斐があったよ」


 そのワードだけには流石に弘太はキレてしまった。親から子を奪う行為をしておきながら、子ども達を惨殺しておきながら……こいつはそれをまた行うつもりだ。


 右手のナイフを構えて、突進。そのまま斬りに行きも回避され、その勢いを利用して地面を蹴り、真上からのかかと落とし。メルダーはそれを受け止めて横へと捻り曲げようとするも再度のナイフの投擲により、距離を取る。


『CHARGE END』


「フィニッシュ」


『FINAL STRIKE』


 青い光は目映さを増して、空へと跳躍。そのままキックへと移行した。メルダーはナイフたちを宙に展開、いくつかで攻撃するが……。


「……!?」


 彼の読みとは違う答えを弘太は示した。その必殺キックはメルダーの目の前の地面へと激突。地響きと煙の中、弘太は一秒の隙もなくメルダーへと接近する。


 メルダーの展開されたナイフが刺さるも、怯むことなく彼はその拳を振り殴る。メルダーは咄嗟の事で反応できず、ナイフも効果が出ずに腹部にその拳の一撃を受ける。


「ゔっ……!!?」


「……ふっ。 初めての一撃はどうかな?」


「………」


 メルダーは無言のまま、無懺へと帰ってしまった。


「ハァ……」


 倒せなかった。だが、初勝利だ。奴にまともな攻撃をくれてやった。感情の高まりは止まってない、能力者であることに感謝している。この感情がさらに強くしてくれる。創無からみんなを守り抜く力を解放できる。


「もう良い?」


 ファイが出てきた。それに続いて、北瑞も。


「西幸様……その腕」


「大丈夫だ。 主任に怒られるくらいかな」


「そうではなくて……!」


 弘太に抱きしめられた。


「!? に、西幸様……!?」


「すまない、本来なら俺が気付くべきはずだったんだ。 言い訳になるかもしれないけど……そんな思いとはかけ離れた環境で育ってきた。 俺が誰かを殺さなきゃ、大事な人が殺されてきた。 でも……今は変わらない事もあるけど、前まで見えなかったものも見えてきたんだ」


「愛……ですか?」


「ああ……みんなが気付かせてくれた」


「……その愛が三人との愛ってのが少しモヤモヤしますけどね」


「かもね……誓います。 私はこの身体と精神を以て、零華と北瑞、ファイを守り抜いて愛し抜くことを誓います」


「当然の事よ……あと、名前で呼んで」


「ああ……かなめ


「……私はどちらかと言うと守る側なんだけど?」


 ファイも能力者である事には変わりない。それでもだ。


「それでも、守るさ。 君に何かあったら、俺も悲しいし仲間も悲しむだろ」


「……ふふっ、ありがと」


「弘太君~!」


 零華も来た。いい加減に身体の傷を癒さなければ、人外ではあるが治癒能力が遅いのは今更、嘆いても仕方ない。


(刀……持って来るの忘れたな)


 新しい素材の刀の存在をすっかり忘れていた。早くそちらも回収しなければ。弘太はひとまずの休息を味わおうとしていた。















―――――――――――


―――――――――――――――――


―――――――――――――――――――――


―――――――最終調整に入ります。


 腕時計型のAIはそう告げた。それと白い“バイク”を見つめる白神主任の姿があった。


「……これ見たら弘太は驚くだろうなぁ~!」


 雰囲気に似合わぬ、高い声で彼は言った。この二つの存在が西幸 弘太と言う物語を加速させ、中心となる重要物である事は誰にも分からなかった。 




 







 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ