四十八話「進化」
「……よく分かった。 貴方たちが絶対に滅ぼさなきゃいけない存在なのが」
メルダーに向かって、シリスはそう宣言した。
「まぁ、良いとしよう。 これで明確にキミとは戦う理由が出来た事だし……では、その時まで」
彼は無懺へと帰って行ってしまった。
「………」
アルゴスの方へと視線を向ける。先ほどより人形どもの数が増えている。
「へいへーい! なーにやってるの? 仕事なんだから早く何かしなよ、ホラ!」
イラつくアイツの間違ってはいない一言に結果的に従う事になるが仕方がない。現状は相原さんがシンと交戦中、アルゴスが人形の内、100体中60体を破壊。その後、メルダーによる増援のおかげで残り40体から、推定で500体へと増えた……アルゴスと半分の250体の割合か。
エストックにより濃い白のエネルギーをチャージ、鎖も数を増やし各所に出現させる。
「アルゴス……! 2分で終わらせるぞ!!!」
「おー。 少し本気を出すんだね? 分かったよ! 僕もそれに応えなきゃね!」
アルゴスは持っていた剣と斧に黄色のエネルギーを溜め意識を集中させ、自分の能力の一部を発動。空中には黄色で巨大な剣と斧の形をしたエネルギーの塊が浮いていた。
「無双しちゃうぞ~!」
狂い顔で生き生きと彼は武器を振り回した。スピンしながらまるでコマのように攻撃したり、野菜を切る感覚で振り下ろしたりと、戦場でありながらアルゴスは楽しそうに駆けまわっていた。
対して、シリスは無双状態ではあるが一方的な戦いでとても感情の入る余地がなかった。
右のエストックで素早い刺突をしながらも、腰に収めていたもう一つのエストックを持ち、右のエストックで刺して左のエストックで切り刻んでいくという隙のない連撃を彼は決めて行く。
だが、大半は鎖が倒してしまっていた。縦横無尽に人形たちを襲い、先に付いた刃や鉄球で人形は粉々になる。そうしていくうちに数は50程度に減っていた。残り30秒と言ったところか。
「……決めるぞ」
「はいはーい。 ドーンと行こう!」
エストックをしまい、鎖を一本出現させそれを引き抜く。
その先には鉄球が付いていた。だが、サイズは5メートル。それを彼は宙に振り回し、限界までエネルギーを注入する。
アルゴスは、二つのエネルギーの塊を一つにし変形、弾丸型のエネルギーの塊を作り出した。
人形たちは身動きを取ろうにも、既にシリスの鎖によって拘束されており、もう何も出来ない状態であった。
剣と斧で弾丸を叩く形で発射、大きな鉄球は超特急で前方の群れへと突進。二つの巨大で一方的な力は激突し、人形たちを一瞬にして消し炭にし。周囲には何も残っていなかった。
「ほほぉ。 終わったねぇ」
しみじみとアルゴスは呟いた。
「いや、相原を援護に行くぞ」
「その必要はないんじゃないかな? 彼だって強いんだし」
アルゴスの言うとおりに戦闘は柳の優勢だった。
格闘戦に持ち込まれながらも、その優勢を崩すことなく続ける。
短刀で斬り付けようとする爪を防ぎ、膝蹴りを喰らわすも寸前で止められ張り手で後ろへ押されるもハンドガンを自身の目の前へと投げ付け、柳自身とシンの目線を防ぐ位置まで飛んだ。
そして、左足でそのハンドガンを叩き蹴り、そのままシンの顔面へとぶつかる。
突然の奇策に対応できず、シンは後退る。逆手に持った短刀に紫のエネルギーを込め、ワープで跳んでいるいるかのように瞬間的に移動し、シンの脇腹に当て、エネルギーを送り込みそのまま爆発的に解放し身体を切断した。
「……ひとまず、終了か」
「ん……?」
「あれは……何だ」
三人はシンの死体を見た。次元エネルギーが一切漏れていない……変だ。殺したと思ったがまだ密かに生きており、次の時にはその場から死体が消え、直ぐ近くの薬品売場でその身体は復活していた。
薬品売場の薬品を以前のように飲み込み事はせず、幾つかを鷲掴みして無懺を伝って移動してしまった。
「待てっ!……ハァ。 プロテ、聞こえるか? 周辺に巨大な反応は?」
連絡相手のプロテは調べるもそれらしい反応はなかった。それどころか、世界中のどこにもそれらしい巨大なエネルギー反応は見つからなかった。
「……おかしいねぇ。 さっき、おじさんがやっつけたはずなのにぃ」
「俺が聞きたい位だ……奴は前まであんな行動を取っていなかったんだろう?」
「はい。 蜥蜴のダバーソン……先ほど入った情報だと名前はシンと言うそうです。 シンはその場で薬品を飲み込み事しかしていない筈でした。 学習した可能性もありますが、それよりも不可解なのはあの……仮に再生能力でしょうか。 胴体を真っ二つに切断されて生きているのは異常な事態かと、まぁ、あれほどの再生なら何度も逃走されているのも分かりますが」
「……ちょっと良いかなぁ?」
アルゴスが何か言うそうだ。私があえて言わなかった事を言うつもりだ。そう、最悪な展開を……。
「あのトカゲさんは実は死んでいるんじゃないかな? あれが再生ってのも少し違和感を感じるよ」
「結論をどうぞ」
こいつの長ったらしい過程はホントに長いので催促した。
「つまり……あれは再生じゃなくて……生き返ったんじゃないかな?」
三人はなんとなくであるが、あの光景を見た瞬間に真っ先に浮かんだのがそれだった。考えたくなかった、奴だけの能力にしろいずれは進化し、それを会得する。
“死”を克服した。その事実だけで全てを揺らぎかねない事態だ。全てを把握できてはいないが仮に復活能力が制限なし。それもあのメルダーや同等の創無も得てしまったら……。
それ以上先の事は考えなかった。それは能力者の……人類の敗北を意味していた。全体的な数も分かっていないが、少なくともそれなりには居るだろう。問題は……この星を滅ぼせる奴が居るかどうかだ。
進化すればそこまでいずれは行くだろう。だが、その前に倒す。けれど、既にその力を持っていたら。“まだ”、出現していないだけだったら。あちらの世界には実はそんな奴等がありえない程に居るとしたら?
――――――能力者は感情で身体の限界が許す限りどこまでも強くなれる。だが、創無は限界を超えて我々を殺そうとする。余裕を持って人類を守っているように見えるがそれは間違いだ。私たちは常に警戒をして、創無を倒さなければならない。少しでも油断して突破されたらどうだ。大量の死者が出る。いつどこで出るか分からない。どれだけの強さを持っているかもわからない。もしかしたら、一瞬で世界を終焉へと導く存在もいるかもしれない。
私たちの世界は創無が現れたその日から絶望と一緒だ。それは今も変わらない。いつでも壊れるその一つの線を壊れないようにじっとしているだけだ。一歩、間違えればそこは地獄と化す。
(……だからこそ。 私たちが己を犠牲にしてでも、皆を守らなければ。 能力者の向かう先が戦いしかなくても、戦えない人たちの幸せを防衛し続ける。 それが能力者に課せられた昔からの使命だ)
「ママー、チョコ買ってー」
母親と娘の買い物だ。決して裕福という訳ではない。ただ、その中でも幸福を手にして生きている。その親子を眺める“少年”が一人、興味ありげに見ていた。
衣服はボロボロでとても清潔な印象を持てず、表情もなく喜怒哀楽と言った感情がないと思われても仕方のない。そんな少年だ。
「ママ、あの子なんであんなに汚いの?」
「スラム街から来たのかしら……? ともかく、近付いちゃダメよ?」
親子は買い物を済ませ、家へと帰り去る。少年はじっと見つめる。だが、その眼には羨望などを感じられなかった。
少年はその場から去った。歩いている途中の路地で虫を見つけた。ゴキブリだった。
「………」
少年はそのゴキブリを躊躇う事無く掴んだ。あの素早さを狂うことなくだ。
そして、少年は喰った。やはり躊躇いはない。腹が減っているからだ。空腹で喰っている最中でさえその表情は変わらない。
誰も見ないその少年は静かに街の中へ溶け込んで行った……。




