四十五話「始動」
「……こちら、ファガル。 異常はなし、引き続き巡回を続ける」
この地区を担当する“ファガル・スミス”は8年前から変わらず同じこの地区を担当していた。そう、弘太が訪れエミルとユーリと出会ったこの街を……。
あの後、洋館は消えた。相原柳が西幸弘太を抱え急いで脱出した後に応援が駆け付けたころには見事に更地であり、残されたのはクラウディラーによって殺された子ども達の死体の山であった。
本当ならあんな光景を作らない為に俺達、能力者が居る筈なのだが……それでも出来てしまう。言い訳に聞こえてしまうかもしれない。だが、彼等は、創無はそれ以上に狡猾で恐ろしく強い……。
俺も大層に二つも剣を持って戦っているがその結果は決して良いものとは言えない。ナンバー持ちは俺達が戦っているレベルの創無をいとも簡単に殺してしまうだろう。
だが、俺達はそういうわけにはいかなかった。上位の能力者に比べ、俺達は戦闘力が劣っている。彼らがさほど強敵では相手と戦えば敵が滑稽に思えるかもしれない。けれど、それは彼らの能力、戦闘技術が極めて高いからこそ成り立つモノだ。
今の俺があのクラウディラーと戦ったとしても自身の身を守ることが手一杯で攻撃すらできないし、その状態では近くに民間人が居た時に対処できるかすら怪しい。
だからこそ月日を重ね、着実に力を付けている。少なくとも目の前の人々を助けられない事はない。
巡回を継続中だが……反応はあった。洋館のあったあの場所から真逆の方向だ。この場所だと……洞窟があったか?
なるべく早く移動したファガルは数分で洞窟の手前までに着いた。
「………」
「………」
今、俺の目の前には黒の鎧を着た創無がいる、恐らく相原柳がいる地区で存在が確認されたダバーソンで間違いないだろう。
だが、ダバーソン……もといケンプファーは剣を構える様子はなくこちらを睨みながら洞窟の中へ入って行った。
(誘っているのか……?)
罠の可能性もあるがこんなに露骨にすることはないだろう。
警戒を怠らずにケンプファーに付いて行くファガル。進むにつれ、洞窟自体が少しずつ明るくなっていった。
最終的に着いた場所は洞窟の中にしては妙に人工的に見える……いや、本当に人工物か!?
松明に火が付き、目の前に台座がありそれを守るかのようにケンプファーは凛として立っていた。
(……どうしたものか。 こいつは何がしたいんだ?)
奴は何の為に俺をこんな洞窟の奥に連れてきた? さらにこの広場の真ん中で立ったまま動こうとしない……。
恐る恐るケンプファーへと近付く。2メートルぐらいの距離まで来たとこでケンプファーは動いた。
その大きな剣を軽々と持ち上げ、こちらへ勢いへ付けて振る。
二つの剣で防ぐがあまりのパワーに終始押される。
(やっぱり、このクラス相手にキツイか……!)
一度、後ろへ退くがケンプファーは動きを止める事無く連撃を続ける。
片方の剣を地面へと刺し、一瞬の戸惑いの時間を作りそれと同時に刺した剣を軸に勢い付けてケンプファーへと蹴りを喰らわす。
もろに受けたが効果は薄かったようでその体勢が崩れることはなかった。
半端な攻撃ではダメと判断したファガルは、剣を引き抜き二つとも逆手で持ってこちらも連続で攻撃する。
己の力の限りに剣を振るう。相手が自分より圧倒的に格上ならこれしか方法はない。周りの環境を利用できずほぼ何もない場所でなら尚更だ。
だが、ケンプファーはそれを全て防ぎ切った。やはり、自分では厳しいが……。
賭けに出よう。そう決めた、彼は即座にそれを開始した。
ファガルは一旦距離を取り、二つの剣をそこで捨てた。
「………」
そこでケンプファーは一瞬ではあるが動きを停止した。だが、直ぐに動き出す。
「……ふぅ」
呼吸を整える。自身にも一応、能力はあるが使いこなせる自信がなかった。けれど、もうそんな余裕はない、やるしかない……!
両手と両足に紺のエネルギーを溜め始める。これを使ったらまともに戦えなくなるが仕方がない。
ケンプファーがこちらへ攻撃を仕掛けるのと同時に彼も動く。
襲い掛かる大剣をファガルは拳をそのまま向ける。だが、拳へ直撃する直前に剣は止まった。いや、跳ね返ったと言うべきか。
「……!」
この力を目の当たりにしたケンプファーは驚いた様子だがまるでこれを待っていたかのように先ほどよりキレのよい動きで攻めてくる。
全てを攻撃を受け、それを全部跳ね返す。ケンプファーへ放つパンチやキックは反発の力により威力が増し、ケンプファーは吹っ飛ばされる。
そして、右手へと全てのエネルギーを集中させる。これで決めるつもりだ。
ケンプファーも大剣を構える。
二人は同時に走り出す。あの剣ごとぶっ倒してしまうしかない。
拳と大剣は激突する。
結果は……拳は大剣を砕きケンプファーに直撃、だが倒されてはくれなかった。
「……!!!」
ファガルを蹴り飛ばす。もう戦う余裕はない。死ぬ可能性が高い……どうにかして連絡を取り応援を呼ぶしか……。
予想外の展開が彼を待ち受けた。なんとケンプファーは戦いを止めたのだ。砕けた大剣を捨て、何もない台座へと向かう。
その台座の上に手を乗せる。エネルギーを掌に送り、暫くするとそこに紫色の球体が出来ていた。
その後、ケンプファーはまるで満足……認めたかのようにこちらを見つめ、無懺へと帰って行く。
「……ハァ、クソ……」
勝てなかった。結局、負けたのだ。
敗北感を味わったファガルだが、直ぐに考えを別の方向へ向ける。
奴はなぜこの場所へと誘って戦わせた? その疑問だけが脳の中を巡るがどうにもピントと来る答えが出なかった。
(奴は……あの台座に何かしたよな)
ボロボロの身体をゆっくりと動かす。引き摺りながらも台座へと着き、そのひっそりと輝く紫色の球体である何かを手に取る。
すると、その球体は解除され徐々に中の物が姿を現す。
「“コンパス”……」
黄金色に輝くそれはある方角だけを指していた。
「……こちら、ファガル。 急を要する要件につき応答を願う」
始まってしまった。始めてしまった。このコンパスの行きつく先に更なる戦いが待っている。そして、この世界と向き合わなければならない。創無と……いや、それ以上の“何か”に……。
「………」
「人間に“ルリーヴ”の在処をばらしたのか……?」
ケンプファーは無言のまま何も返答することはなかった。どうやら肯定のようだ。
「今の人間にルリーヴが渡るのか……更なる遊びが期待できそうだな。 それにそれを能力者どもが制御し俺たち以上の力を得れば、我々の目的は達成されたも同然だ……“死”を獲得するために……!!!」
その時、ふとケンプファーは微笑んで見せた。そこでヘルシャーは帰ってきた。宙に水色で電子のような画面を展開させながら。
「結果は?」
「まぁ、それなりにはね。 人間もまだ僕たちの侵入すら気付いていないみたいだし、君の幻惑のおかげもあるけどね」
宙に浮かんだディスプレイに資料を映しながら、淡々と彼は報告した。ディレイブ計画なる物が始動している事、その計画によって生み出される兵器が6基という事。その内の候補に我々が交戦した“西幸弘太” “賀霧雅哉” “相原柳”が含まれている事。
6基の内の3基が試作型で様々なタイプがあり、それらを用い研究した上で“能力者じゃない者”でも次元エネルギーを扱えるようにするのを目的として掲げる……ふむ、面白いね。どこまで足掻いてくれるか見物だ。
「んー、後は些細な事かな。 で、シンの動向の事なんだけど……彼が今面倒くさいかもね」
「……俺が行ってくる」
と、言いメルダーは出て行った。場所は丁度……柳とシリスが任務中であった。
やっぱり、複数視点は面倒くさいけどこの物語は複数視点での進行じゃないと成立しない部分もあってさらに面倒くさいなぁ
ぶっちゃけるとかなり今後の章で重要になる伏線みたいな物をもう入れてる感はある。言っちゃうと全14章のうち最後の14章で一番重要というか弘太にとって全ての鍵となる物も入ってて捌ききれるか心配ですね……。
前の回かその前くらいに外伝は6作品と言いましたけど訂正します。それに加え、もう二作品追加です。追加の作品に関しては新キャラは出ません。外伝のキャラや最後等辺で弘太たちを出す予定。本編と話から切り離すので読んでも読まなくても本編に支障はないです。
長文失礼しました。




