四十一話「幸福」
今回でギリギリ回想終わりました。次回からは敵サイドも本格的に動くと思います。
「………」
弘太よ、君は何故俺に向けてそんな羨望の眼差しを向ける?
「……どうした弘太? 何かあったのか?」
「……パ――――――柳。 欲しい物、あるの」
「……!?」
あの弘太が珍しくおねだりをしているだと……!?
……ジャニルが弘太と話してたって昨日言ってたっけか。 だからか、だから俺のデスクにあんな大量にキャンディとチョコレートがあるのは!?
これは……聞いてあげないとな。
「何が欲しいんだ?」
「……おもちゃ! だからお金ちょうだい!」
「……いや。 一緒に行こうか。 その方が楽だろ? それに好きなだけ買えるぞ」
「色々買って良いの……!?」
目をキラキラと輝かせる。本当に彼のこんな姿を見るのは初めてだ……ジャニルに感謝しなくちゃな。後で、ビールでも奢るか。
「ああ、良いぞ~。 でも、限度はちゃんと考えて買うように……オーケー?」
「……オーケー!!!」
久々の弘太とのまともなプライベートな時間を過ごせている……ハァ、こんなに嬉しいと感じる事はホントに久しぶりだ。弘太を引き取ってもう5年も経っている。もう少しで6年目になるなぁ……小さい頃は甘える事はしなかったがよく外で一人遊びはしてたから少しでも時間を空けて一緒に遊んでたりしてたな……本当に幸せな時間だった。
戦う事が仕事で結婚の予定もない俺にとって弘太は本当に心の支えだった。ホントに楽しんでいる時に見せる愛くるしい笑顔は戦いの傷を癒してくれるのには丁度良かった。だが、洋館事件が彼を変えてしまった。
それ以降の彼は感情を押し殺したかのように生気のない瞳が続いていた。俺はどう接したらいいか分からず、時々アプローチを掛けてはいるがあまり効果はなかった。それからは彼の笑顔を見ることがなく戦いの中で時間は経過していった。
日に日にストレスは溜まり、弘太を元気付けようとしたところでクラウディラーに全てを奪われた……あの時はただ弘太を助けるのに精一杯だったが、今度はそうはいかない。
……次に弘太を傷つける奴がいたら容赦はしない。地の果てまで追いかけて死んだ方がマシだと思わせるぐらいまでそいつを痛めつける。限度は要らない。もう弘太は傷つけさせない。
ジャニルが弘太に笑顔を取り戻してくれた……この笑顔を消させない。この笑顔が消えることは俺が弘太を守れなかったって事だ。俺と……弘太の幸せは終わらない。とっとと創無を滅ぼして普通に暮らすんだ。普通に弘太が学校に通って笑顔で帰ってきて、俺は恐らくずっと支部で事務処理やら何やらになるが仕事をこなして二人で夕食を食べて寝る。当たり前の生活が今の俺達には必要だ。その為にも今は……。
「柳……! これ欲しい!」
「よしよーし。 お、前やってたあのヒーローものの玩具か。 ふむ、割と前だからか新品でも安いな。 これだけで良いのか?」
「もっと欲しい!」
とりあえず決まった玩具である変身ベルトを持ちながら店内をグルグル回る弘太。同じシリーズの武器や小物道具を持ってきたりなど今まで抑えていたかのように欲望のままに燥いでいた。
「おっと。 それ以上は俺達だけじゃ持てないぞ?」
「はーい」と流石に懲りて会計を済ませ、車に載せた。
「さて、まだ時間あるし外でもっと遊ぶか?」
「……うん!」
どこで遊ぼうか悩んでいる二人。ジッとしててもどうにもならなかったのでとりあえず散歩という選択肢を取ることにした。何か良いもの見つけられるかもしれないし。
二人で手を繋ぎながら雪の降る歩道を歩く。これがパ……柳のおててなのか。
……人間の肌は温かいのが普通だけど柳のは違う。なんて言えばいいだろうか。実際に感じているのはそれだけじゃなく……保護者、なのだからか。不思議な温もりを感じた。まるで本当の親子みたいに。
「柳。 何か食べたいよ」
「そうだな~。 あそこにレストランあるしもうお昼か。 あの店で大丈夫か?」
「うん」っと、百点満点の返事で返してくれた弘太と共にレストランへ入店した。
席へと座りメニューを読む二人。柳は直ぐに決めたが弘太はまだ迷っているようだった。
「そんなに悩んでるのか?」
「う、うん……」
「まぁ、ここはそこまで高級じゃないけどカジュアルだし弘太にはピッタリじゃないかな」
弘太の一瞬の目の動作を柳は見逃さなかった。あれは……。
「さてはステーキだな?」
「え!? ……実はそうなんだけど量が凄くて……」
まぁ、子どもでこの量はな……うわ、500グラムかぁ……俺もそこまで大食いじゃないがやるか!
「そこの店員! 注文を取りたいッ!」
少し張り切っている柳は空振り過ぎながらもステーキを“2個”とポテト1個を注文した。本気かこの男、出かける前にサンドイッチを3つも食べたんだぞ……果たして喰い切れるのか……?
「りゅ、柳……?」
「……大丈夫。 俺に任せておけば良い。 食い切れない分は全部俺が食べる」
「で、でも! これから仕事でしょ!?」
だが、弘太に無理させるわけにもいかなかった。洋館事件のおかげで彼の臓器の一部が機械化しなければいけない事態に陥った。クラウディラーの次元エネルギーに侵されている部分を治すにはそう簡単な事ではない。
次元エネルギー自体、未だに未知の部分が多く、そこまで深く迂闊に治療出来ないのだ。だから、次元エネルギーに耐えうるヘルブメタルという金属を用いて模した臓器で代用している。金属の中は臓器としての役目を果たす為に一部機械化している。従来の医療では治せないのがどうにもならないのがアレではあるが。
このために弘太の胃は食事をするには不便を感じる物であり、あまり多くの食べ物を摂取出来ないのである。弘太の願いを叶えて無理をさせない方法……それは俺が無理することだ!
頭の悪そうな方法で解決する柳、結果は……。
「はわわ……」
「よし……! よし……! 食べきったぞ弘太!」
弘太は唖然としていた……もしかして、引かれたか?
「……柳、凄いよ! 僕じゃ出来ないから……とにかく凄いよ!!!」
……ああ。 やってよかった。 大量に食べてこんなに幸せに感じたことは人生で初めてだ……。
弘太と柳。 二人は過ごしているうちに互いに幸福を実感していた。 お互いがお互いに必要……一緒に居る当たり前がさらに二人を心地良くさせた。
楽しんだ二人は店を出た。
「いやぁ……俺はもう仕事に行かなきゃいけないから、まだ遊ぶなら気を付けろよー」
「うん! 分かった、何かあったら直ぐに連絡するよ!」
そこで二人は別れた。柳も落ち着いたみたいで任務に支障が出ないレベルらしい。という事で弘太はまた街の中をグルグル見回る事にした。
本格的に雪も降り始め、これぞ冬の街と言った感じだ。このテスペアという街に機会があればまた来たいものだ。
「あれ? 昨日も会いましたよね?」
ふと後ろから声が聞こえ、振り向くとそこには昨日見た黒の正装とハットを着た老人が居た。
「は、はい。 昨日は飴をありがとうございました」
「どういたしまして。 無事に教会に着けて私も助かったよ。 さて、少し良い事を教えてあげよう」
すると、彼は野菜の詰まった箱を渡してきた。
「それをあそこの八百屋さんに持っててごらん。 お菓子とではいかないけどいっぱい果物をくれるよ」
「!!!!!」
それを聞いた弘太はすぐさま向かった。
「あの……これ、あのおじいさんが渡してって」
それを聞いた店員さんは理解したようで受け取ってくれて別の箱にたくさんの果物を詰めて渡してくれた。
「あ、ありがとうございます!」
ああ、運が良い。本当にラッキーだ。こんな日が続けばいいのに。
目の前の果物に夢中でおじいさんの事をすっかり忘れてしまっていた。そのおじいさんもその場から消えていたが。
その後、八百屋にとある女性がやってきた。
「すいません。 いつもの野菜をください」
店員はさっきの野菜を受け渡した。
「実は今日は子どもが何故か届けてくれたんですよ」
「へぇ~。 孫でも居たのかねぇ。 いつも野菜を提供してくれてありがとうって伝えておいて」
「分かりました」
その女性は帰った後、店に連絡が入る。
「はい、こちら――――――え?」
「ふんふふーん。 ふんふふーん。 きょうはーカレーをたべたいなー」
と歌いながら散歩する弘太。もう晩飯の時間か。早く帰ろう。
帰り道、一つの家の窓をふと見る。
(……家族か)
お母さんにお父さん、姉さんに弟さんの家庭……ん? あの箱って僕が運んだ……あー! あの家に届ける予定の野菜だったんだ!
どうやらシチューを作るようだ。ずっと見ててもアレなので早く帰らなきゃいけないがつい見てしまう。
家族……家族……あれ?
なんで なんで なんでこんなにこころがさびしいの ねぇ なんで なんでなの?
4人の家族をじっと見つめる。何でだろうか。意識が薄れていく。まるで自分が消えていくみたいに……。
目の前が騒がしいな……。
「弘太君! 弘太君!!!!!」
そこで彼は過去から呼び戻された。
自分なりにこの作品を思い返すと展開の盛り上がりが少し欠けているなと思っています。自己分析してみると私は作品を作るうえで序盤は伏線を張り続けて中盤以降で回収するという流れの構成になっています。
ですので、今のところ伏線を張り続けている状態です。今回は割と重要だったりします。
そして、まだ一章。全体の一割もまだ進んでいません。なんでこんな長期スケジュールが必要なシナリオにしたんだろう。
ここで次回予告。
過去を思い出すたびに自身について疑問が浮かぶ弘太。その弘太を支援しようとするみんな。
そして、創無にも新たな動きが!?
次回「咆哮」




