四十話 「羨望」
今回と次回は回想です。
雪が舞うこの街に彼、西幸弘太は来ていた。
大事な友のはずだった二人を失い、ただ復讐を求める彼は親同然である相原柳に連れられテスペアという街に訪れた。
柳や大人たちの話によればこの街に潜伏しているクレットの構成員である男を殺す任務を現在受けているそうだ。
そこで僕より明らかに背の高い大人の内の一人が声を掛けてきた。
「やぁ、坊主。 柳に連れられて色んな国を回ってるんだって?」
少年は無言のままコクりと頷く。
「そうか。 大変だなぁ、その年で世界を回るだなんて。 もっと遊びたいし友達も作りたいだろ?」
「……必要ないです」
そうだ。今の僕には必要ない。失うぐらいならいらない。みんなすぐに死んじゃうし。それに今はそんなのよりあのクラウディラーって殺人鬼を殺すのが先だ。
「いやいや、友達も遊びも大事だぞ? 坊主、年はいくつだっけ?」
「……七歳です」
「そうか~! 七歳か、好きな食べ物とかあるだろ?」
「特にな――――――」
そこで少年はこの男が懐から取り出したキャンディーに目を惹かれた。男はキャンディーを左右に少しであるが大きく振った。
少年は移動するキャンディーを目で追いかけた。徐々に大袈裟に振り始めると少年もそれに応じ目で追う速度を早める。
そして、キャンディーの包みを外し男はキャンディーを少年の目の前にやった。
甘そう……と、少年は思いながらも目の前の全ての人を虜にする欲望に情熱的な目線を注いでいた。
そのキャンディーを男が口元へ持って行くと少年はうっかり声を出しながら羨ましいという感情が見事にバレてしまった。
「は~い。 口開けて」
すんなりと少年は口を開けた。そして、中に入ったキャンディーが唾液で少しずつ溶け凄く甘く確信的なおいしさを身体中で感じた。
「実は牛の糞」
「……え?」
男を見つめながら涙目で何てことしてくれたんだ!って事を言ってそうな目で訴えた。
「悪い悪い。 冗談だよ、ただのいちご味だよ」
少年は若干怒りを露わにしながらキャンディーをひたすら口の中で舐め回した。
「ほら、今幸せそうな顔してるぞ? ホントに戦いだけをしたいのか?」
「それは……」
男に頭を撫でられた。髪がくしゃくしゃになりながらも気持ちいい事に変わりなくただじっと目を瞑りながらなでなでを受け続けた。
「ハハッ。 坊主もまだ可愛らしい子どもなんだからもっと子どもらしく生きなさい。 こういう仕事は俺達大人に任せておけば良いんだよ。 良いか?」
キャンディーで餌付けされた少年は迷いなく首を縦に振った。
「よーし。 なら遊んで来い。 仕事の事は気にしなくて良いから」
「……うん!」
大人の人がそう言うならそうなのかもしれない……でも、僕があのクラウディラーを殺らなくちゃいけない。じゃなきゃエミルとユーリが報われない。僕が……僕が殺らないと……。
「子どもらしく遊んでればキャンディー5個……おまけにチョコレートを上げちゃおっかな~」
卑怯だ。この男は何としても僕を戦いから遠ざけようとしている……いや、ある意味これも戦いかもしれない。砂糖が放つ魅惑的な甘さが少年の脳と舌を直撃、多大なる被害を僕は受けた……それも重傷だ。だが、まだ負けた訳ではない。お菓子の誘惑に打ち勝って見せる!!!
「はい、アイス」
負けてしまった。少年は棒アイスを舐めながら満足してそうに見えなくもないがやはり無表情な顔をしていた。
「おじさん。 名前を……教えてくだちゃ――――――」
噛んでしまった。恥ずかしい……。
「噛むって……まだまだ可愛いなぁ。 俺の名前はジャニルだ。 坊主は……コウタだっけ? 君は柳に聞いた通りに純粋だな~」
「純粋……?」
「ああ。 話してみて本当に純粋で将来心配になっちゃうなぁ。 何かあったときは誰でも良い。 とりあえず組織の人間に話してくれ。 悪者だったら組織が総出を挙げて解決するから。 良いね?」
ジャニルと話した事でリラックスできた弘太は元気よく良い返事をしてくれた。ふむ、やはり少年には笑顔が似合う……少年を戦場に出す前に創無を殲滅出来るかなぁ……いや! やってやらないとな。
例えどんな事があっても目の前の事に真剣に立ち向かうこの少年の眼差しは殺し合いで使われるべき物ではない。創無の具体的な数が把握できていないのがまだこの戦いが続くのを表しているが……。
(……ともかく! 少なくとも今よりちょっとでも楽な環境にしてあげなきゃな……それが俺に出来る事だ)
「おじさんは仕事があるからもう行くね。 遊んできな。 でも、柳に言われてると思うけど遅くまではダメだぞ?」
「……はい! ありがとう、おじさん!」
気持ちを和らいでもらったジャニルに精一杯のの笑顔で応え、少年は嬉しい事が分かるぐらいには大きくスキップをしながら街の中を散歩する。
「……ハァ。 仕事か……柳にちょっかい出すか」
弘太に上げる予定のお菓子を準備し、それを柳に渡すジャニルであった。
少し散策してみた結果。おもちゃ屋を発見してしまった……。
今、流行りのヒーローの人形や変身道具と使用用途がよく分からないおもちゃがあった。
……そういえば、僕はあまりテレビを見たことがない。 世の中にはアニメってのがあるらしいけどそれも見たことがない。 何かの時に辛うじて特撮……だっけ? とにかく少しだけだが実写のヒーロー番組を見たことがある。
妙にデザインとアクションが好きだった記憶がある……確か海外に行く前に柳がテレビをつけて偶然その番組でそのまま視聴していた。子ども向けにしては話が重いし人がよく死んでたしヒーロー自身も死んでたような……そのせいか僕の中ではヒーローは怖いイメージがある。
あの番組の結末はどうなったのだろうか。少し気になってしまった。時間があるなら見てみたい。ヒーローがどういう物なのか。それが非常に気になる。果たしてヒーローのいないこの世界と何が違うのか。何故僕はそのヒーローに恐怖を持ちながらも憧れを持っているのか。
……少し欲しいな。
少年は値札を見るが……。
た、高い……これじゃ買ってもらえないな……。
お店を出て帰ろうとしたその時。
「やぁ、坊や。 ご機嫌は如何かな?」
突然の接触は少年の心臓をドキッとさせた。
「は、はい! な、何ですか!?(知らない人だ)」
任務などで関係している人なら割と普通に話せるのだが全く関係ない見知らぬ人……それも大人となると別だ。
黒い正装とハットを着こなしているその老人は次にこう答えた。
「突然、驚かせてごめんね。 実はこの先の教会に行きたいんだけど細かい道を忘れちゃったんだ。 もし分かるんだったら教えてもらっても良いかな?」
あ! 色んなところぶらぶら散歩してたから確か教会も見た気がする。 デカかったなぁ……でも何で協会に用があるんだろう。 もしかして、数少ない宗教が風化した中での信者なのかな。 もしかしたら、普通にイベントか何か使うだけかもだし……良いかな。
少年は記憶を辿り事細かく伝えた。
「まずあの信号を左に曲がって……で最後にそのまま真っ直ぐ歩けば着きます!」
「ありがとう、坊や。 助かったよ。 はい、これ。 お礼に飴を上げるよ」
「……!!! ありがとうございます!」
キャンディーをもらった少年はこれまたおいしそうに頬張っている。
「それで喜んでもらえるなら私は嬉しいよ。 ありがとうね。 では私はこれで……」
男は別れを告げ、信号へ向かいそのまま右へ曲がった。
(……優しいおじいさんだったなぁ。 もう帰ろうかな)
少年は満足した笑顔で今日は過ごした。
任務は明日実行らしいしまだ時間あるよね。なら柳に何か買ってもらおう。
明日が待ちきれない弘太であった。




