三十六話「秘密」
「ヴィ、ヴィオ! 本当にヴィオなの!?」
異形の怪物へと変貌を遂げたヴィオの耳には彼女の声は入らなかった。
「ウオオオオオオオオオオオオオオ!!!!!」
大きな赤い瞳でヴィズダムを睨みつける。鷹のような顔は本当に彼が変わってしまっている事を分からせてくれた。
爪が肥大化し、鳥の爪のサイズから大幅に巨大化しヴィズダムへと襲い掛かる。
「……キ……ミ……カ……」
「!?……嘘でしょ……?」
それは絶対にありえない事が目の前で起こった。そう、創無が“音”、それも“言葉”を発したのだ。彼らがこの世界に現れたその日から彼らは音を一度も出すことなくその真っ黒な身体で人類を襲った。だが、状況はこれで大きく変わってしまう。問題となるのは彼らがこちらの言語を学習できる知能が人類と同等またはそれ以上だと確認されてしまったからだ。
ヴィオ……レビト・シギンスという名の怪物の攻撃をヴィズダムは剣で受け流し全て躱しきった。
「ニン……ゲン、キミタチ……モ……ボクタチト……オナジニ……ナルノカイ?」
「同じ……?」
能力者は確かに力の源は彼らと同じ次元エネルギーだ。だがそれだけであり物理的干渉に必要なこと以外は性質は大きく変わってしまっている。それ故に能力者は彼等とは全く別の方向へと突き進んでしまっている。創無が進化し存在を獲得しようとするように能力者は進化する、そして得る物は虚無の力……自分たちの存在を否定するかのように有から無へと進んで行く……。
「ヴァァッ……ヴァァァッ……!!!」
すると怪物は手を自ら地面へと突き刺した。そして、掘り返した手には多量の土が掴まれていた。次の瞬間、その全てが“変質”し、何か武器の形を形成し始めた。
それは金属質の“鎖鎌”だった。鎖鎌を使いヴィオは柄尻の鎖分銅を持ち、鞭のように鎌をヴィズダムへと打ち付けていく。
それをもヴィズダムは防ごうとしたが人外へとその身を変えたヴィオならではの荒っぷりで一瞬の隙を作る。
その隙を突きジャンプ、荒々しくヴィズダムの左肩へと踵蹴りを喰らわせた。
「……コレガ……ニンゲンカ……?」
そう言い放ったヴィズダムは何もない空間を鏡のように割り、自分たちの世界である無懺へと帰って行った。
「ウウ……」
身体中の化物のような皮膚は徐々に溶け始め、最終的に蒸発してしまった。そして、蒸発し終わった頃には元の人間の姿であるヴィオが見えた。
「ヴィオ……!!!」
急いで彼の元へと駆け寄った。
「ヴィオ! 大丈夫!?」
「あ、ああ……ぼんやりとだが覚えてる……俺は今どんな姿をしてた……?」
アリーは一旦深呼吸をして事の顛末を打ち明けた。
「……あの石、持って来るんじゃなかったな……」
「何言ってるの? そのおかげで助かってるのに」
「いや、でも自力でも……」
「喋ったのに?」
「!? アイツ喋ったのか!?」
「え、ええ……」
それは大変だ。下手すればまた変な仕事に駆り出されることになるぞ……それだけは何としても阻止しなきゃならない。
「ところで何で帰ってきたの? 仕事はどうしたの?」
ああ、そういえばそうだった。アリーの手料理を食べようと先に帰ってきたんだった……とりあえず直ぐに料理を食べて街へと戻ってボスへと報告するかな。喋った件は報告しない。絶対に余計な事になる。だからと言って何もしないわけではない。少なくともエラマには伝える。学者だしもう少し創無についての研究で何か分かってくれれば結構楽だ。対抗策と一緒に報告すれば余計な任務も恐らく来ないだろう。
「……アリーの料理食べたくて……」
「……ハァ、仕方ないわね。 食べたら早く仕事終えてよ?」
「分かってる!」そう言った彼は食事を終え、直ぐに街へと向かった。ボスに会う前にエラマに会おう。ボスには手こずったと言っておけばなんとかなるでしょ。実際、あの鎧着た奴強かったし。
どうにかして面倒ごとを回避しようとするが最終的に失敗に終わってしまった。
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「どう? これがディレイブ計画の発端となった出来事だけど?」
「いや……まだこれが元というのは納得できる。 だが典幸は何をどうしたらあんな形で作ろうとするんだ……」
とても残念そうな表情で語った。余程、特殊な仕様にでもしたのであろうかあの男は。
『うわ……風邪ひいたかな? とりあえず、新しい武器作らないとね~……何故だか知らないが無性に残念な目で見られている気がする……別に良いかな……いや、これは柳が誰かと噂してるな……任務追加しとこっと』
「まぁ、自然と自分の癖が入っちゃうんだろうねぇ」
「……特にヴェルズと典幸はな」
と、武装の準備を始めた。
「ハイハイ……で、ヴィオ・バロックは改めて西幸 弘太の先祖で間違いはないんだよね?」
彼もスナイパーライフルの整備を終え、各種の爆破兵器を装備し終えた。
「ああ、間違いない」
「……なら君は彼に全ての真実を伝えたのかい? 特に彼の家族の事を」
そこで柳は黙ってしまった。どうやらまだ話していないらしい……こんな事を引き摺っていればいずれ取り返しの付かない事態になってしまうぞ……この男は正気か?
「……今の段階ではダメだ。 弘太が……弘太がエミルとユーリ……今ある過去を受け止めなければダメなんだ、じゃなければ恐らく弘太は絶望と憎悪に囚われてエネルギーを暴走させるかもしれない……その時が来るのを阻止しなければならないんだ」
「でも、タイミングを間違えたらとんでもないことになるよ? だから傷が浅い今のうちに……って言っても無駄かな。 ま、弘太を救ってよね。 柳はあいつの“父親”みたいなもんなんだからさ」
スナイパーライフルに弾丸を装填し、細かい部品の不備がないか再確認したうえで敵基地の周辺を警護しているテロリストどもに照準を定める。
「……そうかもしれないな。 検討してみる……色々ありがとう」
「いーのいーの。 さて、任務を開始するよ」
狙撃位置と基地の間は約4,500メートル。通常なら明らかに離れすぎているが能力者には全く以て問題なかった。次元エネルギーを込めて撃てば無理矢理にでもある程度は弾丸を長く飛ばすことで出来る。流石、虚無に近い存在のエネルギーだ。風などの影響を気にしなくても良いのは凄い楽だ。
と、柳は敵基地の近くへと高速で移動していた。僕が警備兵を2~3人を狙撃したら柳が正面突破。僕が狙撃しつつ徐々に近づいていき最終的に僕も突入する。目標物を回収後、速やかにこの基地を爆破、生存者は捕まえる。抵抗するようならその場で射殺という流れだ。基地を爆破するのは予定にないが僕が必要と判断した。だって爆発する瞬間が見たいんだもん。テロリストだし問題ないしね。仕方ないね。
しばらく経ち、柳の準備完了の合図を確認した。後は僕が撃つだけだ。
4,500メートルという距離からして移動しなくても3人ぐらいは行けるはずだ。これが終われば支部へ帰ってコーラとハンバーガーのコンビで3日間の新しい兵器の開発だ。そういえば過去に戦争になりそうになった時に変な爆雷作ってたところがあったなぁ、何だっけ……パンジャンドラムだ! 結局戦争に発展しなくて完成してなかったらしいけど……試しに作ってみようかな。
また余計な事を考えつつターゲットに狙いを定め、次の時には任務の開始が告げられた。
外伝1弾の方にて少し創無関係で本編とリンクしている描写を入れました。時間があれば是非読んでいただけると嬉しいです。むしろ外伝なのに今まで関係性が一つも見られなかった不思議。外伝は少なくとも4弾までやる予定です。2弾まで70話前後、それ以降は100話ぐらいですかね。黒絶草の1章はとりあえず200話で終われば良いなと思います。物語の序盤の章なのに長い・・・w




