三十二話「対隙」
「よっとッ! これでひとまずの第一段階の任務は完了か……」
ボスからの依頼を受けたヴィオはもうここ何年も誰も立ち寄っていない遺跡の中に居た。中に潜んでいたネズミ型のディーストを一掃していた。
「……ハァ、まだ来んのか。 懲りないねぇ」
これから第二段階の任務へ突入しようとしていたが、ネズミディーストは底を知らないかのように沸いて出る。クソ面倒だし割と強い。まぁ、だからこそ俺が指名されたわけだが。
今見えてるだけでも20体……見えていないが隠れているのを含めると25体、恐らくこれからどんどん出てくるあろう創無に比べれば些細な物だった。
(あー、腹減った。 アリーの手料理を早く食べたいなぁ。 早く消えてくれないかな、こいつ等)
消すのはヴィオ自身なのだが、そんな理由なしにとりあえず嫁の手料理を食べたい。それだけの為に今頑張っている。いや、十分な理由か。
レイピアを構え、まずは一番近いネズミディーストに向かって正確に、早く突いた。
最初の一体を仕留めたヴィオはレイピアを死骸から抜き、残りの群れに思いっきり死骸を蹴飛ばす。それを利用し、後ろへ下がりマスケット銃を取り出す。
マスケット銃を構え、二発、三発と撃ち放つ。
決定打とならなかったが、それでも傷を負わせる事に成功した。
それを確認したヴィオは左手でレイピアを握り、ネズミディースト達の懐に飛び込む。
そして、中心に着いた瞬間にレイピアは二体のネズミディーストを貫いた。
串刺しにされた二体はそのままレイピアに刺されたまま、遺跡の壁の小さい隙間に切っ先を挟み込み、身動きを取れなくさせた。二体は苦しむが絶命はしない。まだ投擲武器、肉壁としての仕事が残っているからだ。
レイピアから手を放し、マスケット銃で俺を囲っているネズミディーストに容赦なしに撃ち続けた。
100パーセント正確に撃っている訳ではないが、それでも精度は完璧に近いつもりで撃っていたので、七発の内、端のネズミディーストの前右足に二発が命中していた。
残りの五発は、目の前にいるネズミディーストに全てヒット、それは猶予を与える間もなく、ネズミディーストの身体に五つの穴を開けていた。
同時に、ネズミディースト達が興奮してこちらに総攻撃を仕掛ける前に、レイピアを壁の隙間から引っこ抜き、右足に第二段階の紺のエネルギーを溜め、レイピアから二体の蠢く身体を宙で引き抜き、エネルギーを溜めた右足で回し蹴りをするかのように二体を蹴飛ばしネズミディーストの群れへ蹴り返した。
突然、肉の塊が自分たちへ激突した。あまりの驚きの連続で、あまり良い動きを彼らは取れていなかった。
その隙を見逃す理由はなく、他の一体を踵落としで頭を直撃、欠片も残るわけもなく、その場で首から上が完全に消されていた。この時、彼の足は第四段階の青のエネルギーを既にチャージしていた。
まだまだ一方的な攻撃は続く。ヴィオは次にレイピアで一気に決着を付けようとしていた。
ネズミディーストからの牙と爪による猛攻が来るも慣れた物で軽々と躱し次々と正確に刺突する。その突きはプロの業と呼ぶに相応しい物であった。
次々と敵を殺していき残りは四体、余裕だ。
右足で顔面を蹴り、その次は左足で蹴るの連続した蹴りで四体を弱らせていく。
残った四体は死に際のせいか、先ほどまでバラバラだったはずの四体は連携を取り此方を翻弄しようとしていた。
四体の息の合ったコンビネーションは強力だ。いくら彼でも、これを倒すには時間が掛かる。土壇場で本気を出してくるのは止めてほしかった。早く家に帰れなくなってしまう。アリー、待っててくれ。帰りに何かお土産買うから遅くなってるのごめんな……怒ってないと良いけど。
四体は二組のチームに分け、四方向に綺麗に向かい合った二組は一組が二体同時に敵に爪か牙で攻撃し、その後即座に後退、もう一つの組がもう一回攻撃し、このサイクルを繰り返す。こいつ等ホントこの戦法好きだな。何回見ただろうか、この光景を……。
そして、攻撃してくる一組のネズミディーストにヴィオは反撃した。
牙で攻撃する範囲50センチメートル前ぐらいに、下へ下がり透かさずマスケット銃でネズミディーストの腹部に当て二発を撃ち、殺した。
その後、その死体を足で急いでこの組で残った片方のネズミディーストに蹴り、激突しその隙でマスケット銃で間髪撃ち殺した。
残り二体、お馴染みの戦術を破られてはもう今までのは通用しない。今の陣を維持している場合ではなかった。
ネズミディーストの二体は此方に手段を問わず、無差別に攻撃してきた。少し前までの統率の取れた行動はどうした?……所詮、創無はこんなものか、我々のような意思は存在しないのだろう。知能がある人型でさえ、殺人の内容を少しだけ変え、愉悦に浸っているだけだ。それも何百年も変わってない。彼らはここまでの存在だ……単純な力と次元障壁の存在を除けば。
ヴィオは狭い来る攻撃を全て、足で捌いて見せた。この家系は何かと足技を使う事が多い、それが現代になっても子孫も似て足技を使い遺伝している。
前足に足払いを掛け、態勢を崩しマスケット銃で射殺、直ぐに最後のネズミディーストが悪足掻きをするがヴィオは咄嗟にマスケット銃を鈍器のように頭部に殴りつけ、手刀の型を取りエネルギーを溜め身体を真っ二つに切断した。
「……ふぅ。 またウジャウジャ沸く前に先に進むか」
そう言い、彼は遺跡の最深部へと足を運んだ。すると、どうだろう。さっきまで暗闇だった空間には壁に掛けられた松明に火が灯る。彼の存在を分かった上で、此方を迎え入れるつもりだ。相当な強者と捉えた方が良いだろう。
奥に着くとそれは居た。じっとこの広間の真ん中で静かに佇んでいる。剣を持ち、全身には兵士が身に着ける真っ黒の鎧、露出している肌の部分からはやはり黒しか見えない、そこからは幾つかの角が出ており、人の形を取っていながら異形である事を知らせてくれている。創無……ダバーソンタイプだ。
ヴィオは構える。これが依頼内容を聞いた時に数多の冒険者や能力者を葬って来た存在。なるほど、奴は創無の中でも人間に対しての近接戦闘、剣を用いての戦闘に特化している。ある程度、創無と戦っていればこれくらいは分かる。分からないと寧ろそれが命取りとなる……先ほどの言葉を少し訂正した方が良いかもしれない、奴等は今も確実に進化している。
ゆっくりではあるが此方に対応してきている、仮に1000年経っても人類が生存しているならそれで良い。ただ、その時代に創無が居るとしたら……戦場は熾烈を極めるどころの話ではない。最悪なのは創無が人類と同等、それ以上の知能を手に入れた時だ。一方的な力を持つ彼らに知恵が入ってしまえばそれは人類の終焉を意味する。彼らの世界、生息環境、正体の一切が500年以上経った今でも判明していない我々には。
映す物でしか普通の人は存在を認識できない事、通常の武器では彼らに太刀打ち出来ない事、そして同じ存在でなければ奴等を倒せない事、以上の事しか分かっていない。
常々思う。俺は創無に立ち向かう為に能力を与えられた先代の子孫だ。 だが、能力者は血縁者に能力が受け継がれるが血によって受け継がれているわけではない。 そこが不思議だ。 そして、創無と同様、能力者も「存在してない」らしい。 意味は分からないが、概念としても曖昧、世界から認識されてないとかなんとか、なら何で今こうなっている? アイツらは化物で俺達は人間じゃないのか?
エラマが言うには、仮に魔法があったとしても戦況は変わらないとか。 この次元エネルギーってのはどのぐらい凄いんだ? もしかして、世界を滅ぼすぐらい容易な力を秘めてるとか……考えすぎだ、切り替えよう。
依然にして鎧のダバーソンは動かない……奴等が寝ている習性は報告されてないが……。
試しに近付いてみると……。
「……!」
奴は動いた。範囲内に物体が居ると動く仕組みか。あちゃー、もっと練れたのに。
愚痴は言いたいところだが、マスケット銃を構え、ヴィオは鎧のダバーソンとの戦いを臨んだ。




