三十話 「牽制」
「用事ってのは何だ?」
と、エラマに問いかける。
「うん。 それなんだけど、君から借りた手記なんだけど。 大きな変化が起きたんだよ」
「ほう……で?」
「言ってしまえば偶然だよ」
「偶然?」っと、聞き返した。
「そう。 偶然。 起因はまだ分かっていないけど、ある一定の条件下で白紙か文章が途切れたページに文字が浮かび上がる……いや、書き込まれていると言った方が良いだろうか?」
「書き込まれてる?」
「ああ、あくまで僕の感覚だけど、どうにも当時に書かれた物とは思えないんだよ。 この書き込まれる仕掛けにしてもだよ。 仮にこの仕掛けが君の先祖が仕込んだにしてもピンポイント過ぎるんだよ」
「……そうなのか?」
少し理解に苦しみ、説明を求めた。
「そうだよ。 だって、出てくる文章全てが一つの事に対してだよ? 君の過去の世代の人たちがわざわざ同じ内容を書く必要性を感じないよ僕は。 それに、異なる言語同士を組み合わせて暗号化してるのも謎だ。 これは手記のはずだ。 本来ならこんな使い方はされない。 だから言える。 この手記には明らかに第三者が現在進行で何らかの方法で書き込んでいる」
―――――――—何者かが今もあの本からこちらを観察していて、何らかの条件を満たすと情報を少しずつ開示するって事になるよな……少なくとも普通の人間じゃ出来ない芸当だ。 創無にしてもこんな芸当をする奴は確認されていない……異常な進化を遂げた創無が存在していれば別だが……人の皮を被った怪物、まさかこいつの事を指しているのか?
「……あの怪物の事じゃないのか?」
「違う」
エラマははっきりと否定した。
「創無にしても、急速な進化を遂げたと言えど、わざわざ自分の存在を人間に知らせる必要がない。 それに何故創無が君の家系の手記を書かなきゃいけない」
「ああー……なるほど、そう判断すれば良いのか?」
と、ヴィオはまた質問をした。
「……この件について君は真面目に考えてるの?」
「ああ、そのつもりだが……?」
「なら少しでも良いから、自分で考えてくれ……君の意見があれば、少しは参考になるんだ。 頼む」
「……仕方ないなぁ」
が、その時、ドアからノックの音が聞こえた。
「……入って構わないよ」
「はい! では、失礼します」
全身に銀に輝く鎧を身に纏い、左胸辺りには、鷹が特徴のエンブレムが彫り込まれていた……自警団だ。
「仕事か?」
「ハッ! 今度も厳しい物になるとボスは仰っております!」
「……分かった。 今行く」ヴィオはそう告げ、エラマに別れの挨拶を軽く済ませ、自警員に付いて行く。
(さて……次はどんな依頼かなぁ)
「……パド。 コーヒー豆を買って来い」
「はいぃ……!!!」
先ほどまで近くで本を読みながらこちらをチラチラ見ていたパドは、お使いを頼まれると、元気な声でそう叫び、街へと出かけて行った。
「……ハァ~」
彼の心労は今日も少しずつ溜まっていくのであった。
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「……随分と挑発的だったな、さっきは」
「……そちらは歓迎がなってないみたいで?」
「……歓迎する。 賀霧 雅哉」
全く心の籠っていない歓迎していない歓迎を雅哉は受けた。
そして、支部長室へ入室する。
「やぁ。 随分と早かったねぇ」
「二人とも来たか」
そしてここで本題に入ろうとした時に、皆が一斉に喋らず入室した時の状態のまま1分以上経過した。空気は茨のようにギスギスしていて、とてもじゃないが重く、普通では耐えられるものではなかった。原因は分かっている。弘太と雅哉だ。
(……こいつら、あってそうそうこれか)
二人とも何故だかは分からないが直感的に好きにはなれなかった。むしろ、嫌がる方向に行ってしまった……しばらくこの二人で働くというのに最悪な事態になってしまったかもしれない。
そこで白神主任が一呼吸付き、直ぐに本題を話し始めた。
「さて、まずは任務ご苦労。 そして、賀霧 雅哉君。 戦闘に加わるのは構わないがせめて連絡入れてからにしてくれないか? 想定外の事態が起きたときにこちらも状況を把握しにくくなるのでね」
「……以後、気を付けます」
「ふむ。 では、改めて今後の事を説明するよ」
この地区に、新たな戦力として賀霧 雅哉が配属。それと入れ替わる形で相原 柳は一時的に担当を離れ、世界各国の支部を巡り、組織内部を捜査、不審火の疑いがあれば事前に阻止、スパイなどの潜伏が判明した場合はそのスパイを捕らえ、手段を問わず所属組織を割り出し、敵対戦力であれば壊滅に追い込む、そして、最後に本部へ赴き報告書をまとめて提出。その後、この地区に戻り三人体制での仕事となる。
「何か質問はあるかな?」
答えは返って来ない。
「ふむ。 では、この事以外で質問は?」
「……この支部では、試験的に兵器の開発を行っていると伺いましたが、実際にはどのような兵器を?」
それを聞いた主任は弘太のいる方角へと目を移し、雅哉も弘太へと目を移す。黒いラインが引かれ、銀が目立つシューズ、『D-00』。いくつものジョイント部分があり、赤いラインと全体にコーティングされた銀の銃はどこか現実味の欠けた『D-02』。通常の兵器と比べると異質だ。特にシューズ型の必殺兵器なんて今まで見たことも聞いたこともない。
「……かなり尖った兵器ですね。 これはこの兵器の性能を十分に発揮されているんでしょうか?」
……さっきからこいつはこちらに対して挑発している。相手に対して「これ」呼ばわりしている時点でダメだ。こいつとはまともに戦えない。
「ふむ。 今のところ問題はない。 だけど100%ではないかなぁ。 本来はこの状態で使用する武器じゃないからね」
「その本来とは?」
当然の疑問を質問する。
「……少なくとも生身では使わないよ」
生身……? って事は、何だ。 何か特殊なスーツでも着てやると言う事だろうか? 今言える事は白神主任は既存の型の兵器を作るつもりはゼロだ。 そして、彼が作ろうとしていることは恐らく我々の想像を超える何かだ。その何かが分からないのが困るのだが。
「実は西幸君が持ってるシリーズ以外にももう一つプランがあるんだ。 だから賀霧君の分もちゃんと用意出来るよ」
「―――――――それはつまり、私に使わせてくれると?」
「そういう事になるね。 君の渡した後は、実質君専用の武器になるわけだし」
「……その時は、ありがたく使わせてもらいます」
そこで、柳が発つ時間となった。
「―――――――時間だ。 もう行く……くれぐれも問題は起こすなよ?」
「分かっている」弘太はそう言った。
「じゃあ、行って来る……困ったことがあったら、典幸か幸雪さんに相談してもらうように。 分かったか?」
「……それぐらいは分かってる」
妙にしつこいなと思った……一応、自分の保護者であるのは自覚している、あまり仲が良い関係とは言えなかったがよく面倒を見てくれてる……ホントに親みたいな感覚だ。帰って来たら、何かプレゼントするのも良いのかもしれない。
その後、柳は支部を後にし空港へと向かった。
「ふむ。 今後は柳の担当時間を賀霧君に引き継いでもらう。 西幸君は現状を維持……今日はこのまま解散かな」
本当に解散した。 直ぐに零華の元へ向かった。
「あ! 弘太君!」
会って直ぐに詰め寄って来た。
「――――――近い」
「うん!」
――――――—離れる気がないようなのでスルーする。
「今度、どっか遊びに行こうよ!」
彼女は善意で言ってくれてるが大事な事を忘れてる。
「……何か忘れてないか?」
「何を?」
「中間試験」
「……あ」
それどころじゃなかった。




