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黒絶草   作者: Outsider
第一章 「虚憎」篇
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二十七話「決意」

「………」


 今までにも同じことはあった。だが、何故今はこんなに胸が痛むのだろうか……。


 やはり零華との出会いが彼を動かしているのは確かだ。


 この衝き動かされた感情が自分自身を苦しめている……良くも悪くもそれが今の現状だ。


 この感情は……恐らく罪悪感と呼ばれるモノだろう……。


「一昨日まで話したんだけどさ……もっと話しとけばよかったな……」


「………」


「いやぁ、『輝典てるのり』の夢はヒーローになるって夢だったんだけどね。 毎日のようにそのヒーローになりたいって言っててさ……一昨日の晩もそう言って元気に遊んでたんだよ……ウッ……」


 泣きながら輝典について語り始めた眞太郎……。


「輝典はやんちゃだけど良い子で勉強もそれなりに頑張ってたし、お手伝いもして、よく外でドッヂボールで遊んだりゲームをしてる子だったんだよ……何にも悪い事してないのに、何で……何で……」


「………」


 罪悪感を初めて味わった。心が苦しい。行き場のない後悔をどう処理すればいいか判らなかった。


 そして、この男が身内の結婚式という幸福と重なり弟を失うという悲しみをほぼ同時に味わい、混乱したのを理解した。処理しきれない感情を何かにぶつけるしかない、今回は自分自身だったということになる……普通なら非常識だが、不用心に連続殺人の起きた翌日に一人で歩き、何も知らないであろうなら納得できなくはない。通常なら何らかの手段を以てその街の住民には伝えられるはずだからである。


「……ごめん、関係ないのにこんな話しちゃって……」


「い、いえ! 誰にだって誰かに本音を吐きたい事はあるし問題ないですよ!」


(……関係ないどころか当事者としては反応に困るなぁ……しかもここに居る三人とも全員だし、西幸先輩に至っては……)


「……とりあえずこの話は後にしよう……食事を済ませる」


「あ……」


「ハッ、ハハ……」


 注文された物を運んできた店員であったが、見事に完璧に最悪なタイミングで来てしまい、苦笑いでこちらに渡した。


「お、お待たせしました。 ド、ドリアにシーザーサラダ、クリームシチュー、チーズハンバーグです。 ご、ごゆっくり!」


 店員は即座にこの場から立ち去って行った。


「……ハァ、ごめん」


「……早急に食べて出るぞ」


「うん……」


 その食事は、当然会話が弾むこともなく、黙々と食べ、直ぐにファミレスを出た。


 クリームシチューを美味しく感じなかった。あの温かさも感じられなかった。何でだろうか?そう疑問に思いつつ、外へ出た四人。


「………」


「……暗くなってきた。 帰ろう」


「……そうだな。 今日は迷惑を掛けてごめん」


「大丈夫だ……風烈さん、明日また会えるか?」


「眞太郎で良いよ……うん、問題ない。 明日の午後5時半ぐらいに……ここで?」


「ああ……ではまたここで」


 その後、特に何かあるわけでもなくそれぞれ自宅へ帰って行く。


 途中まで弘太は零華、深玲と一緒に居た。


「……どうするの?」


「……何を?」


「……弟さんの事」


「言うつもりはない。 守秘義務だ」


「守秘義務……ですか」


「……ああ、言えない」


「……西幸先輩はどう思うんですか?」


「……俺か?」


「はい、西幸先輩自身はどうなんですか?」


「………」


 よく分からなかった。今までとにかく与えられた任務を遂行して、少しでも誤りがあれば修正する。ただそれだけをずっと繰り返してきた。


 だからそのせいか、明確に自分自身でしたい事をすることはなかったのだ。


「……分からない」


「分からない……ですか」


「……ああ」


「……なら、考えよう!」


「………何をだ?」


「もちろん弘太君自身についてだよ!」


「俺自身……」


 やりたい事もそうだが、自分自身についても考えてこなかった……一回ぐらい考えていいかもしれない。そう思えた。


「……少し時間が欲しい」


「……うん、待ってるよ」


「……ちゃんと考えて答えてくださいよ!」


「ああ、分かってる……ありがとう」


 自然と感謝の言葉を述べてしまった。だが不思議と悪い気分はしなかった……零華に対して気持ちが高まる……この感情は……。


 その後、二人と別れ、弘太は夜の街を見回った。


 翌日。


「もう行くの?」


「……うん」


 学校を終えた弘太は昨日のファミレス前へ向かった。


 少し待つ。


 そして。


「お、おう。 来てたか」


「ああ……移動するか?」


「そうするか……近くに河川敷があるし、風に当たりながら話するか?」


「……それで頼む」


 二人は河川敷に向かった。


 まだ誰もいない夕日が沈むこの時間に二人は草がまとまった場所に座る。


「……何か話したい事があるのか?」


「ああ」


 が、正直に事実を話す行くわけにも行かず、黙ってしまう。


「………」


「………」


「……そんなに話しづらい事なのかい?」


「………」


 また黙ってしまう。


「……話したい時で良いよ。 その時はいつでも呼んでね」


「……助かる」


「……幸せってどう思う?」


「幸せ?」


 突然、放たれた質問に困惑する。


「うん。 幸せ」


「……どれだけ嬉しいとかか?」


「それもそうだけど。 そういう単純な物じゃなくて、もっとこう……みんなが笑顔でいられる事だよ!」


「笑顔……」


「……実は週末に親戚の結婚式、やるんだ」


「……大丈夫なのか?」


「確かに輝典が死んでみんな元気がないけど……それでも悲しんでばかりではいられないからね。 それにせっかくの結婚式、あの二人が笑顔で幸せでなきゃダメだと思うんだ」


「………」


「俺、幸せを守りたいと思うんだ」


「……幸せを守る?」


「ああ、確かに犯人を憎んでないと言えば嘘になる。 でも憎み続けるより誰かを守り続けることが大事だと感じたんだ」


(守り続ける……)


「輝典はいないけど、父さんや母さん、少し遠いけど親戚もたくさんいるし、友達もみんな大事だから、だから守りたいと思ったんだ」


「……どうして?」


「どうしてか……嫌な事だけど、弟が死んで初めて身近にいるみんなが尊く感じたんだ。 失いたくない、ならどうしなければいけないか……気付いたらみんなを守りたい。 そう思った」


「………」


 彼は真面目に今後の事を考え、憎しみではない感情で今を動いている……事実を言ってしまっても良いかもしれない。けれど。


「守りたいってのは弘太も同じじゃないのかな?」


「……俺も?」


「だって少なくともあの二人は……違うの?」


「……分からない……けど、守らなければならないのは確かだ」


「……? 何か約束でもしたの?」


「……仕事のみたいなものだ」


「ふ~ん。 守るのが仕事か……良いね」


「良いのか?」


「うん。 まるでヒーローみたいだなぁと」


「……ヒーローか」


「うん、ヒーロー……ちょっと憧れちゃうなぁ」


「……憧れる程の物じゃない」


 それに対し、眞太郎は言い返す。


「いやいや! 誇って良いぐらいには立派だよ! もっと自信を持って良いと思うよ!」


「……ありがとう」


「うんうん……一つお願いしていいかい?」


「……何を?」


「……輝典の夢を継いでくれないか?」


 突然、放たれた発言に少し弘太は困惑する。


「俺がか?」


「うん。 身勝手かもしれないけど君に継いで欲しいんだ……僕が継ぐにしても純粋にみんなを守れる存在にはなれそうにない、だから君なんだ」


「………」


「無理にとは言わないよ。 ただ、そういう夢も有ったって事を覚えてほしい……それだけなんだ。 それが俺が弟にできる事だ」


 しばらく沈黙だけがこの場を支配したが。


「……ありがとう。 眞太郎のおかげだ」


「何か悩みが解けたのかい? なら僕は嬉しいよ」


「……ああ、少しだけだが……弟の夢、継いで良いか?」


「……もちろん良いよ。 こちらこそありがとう……連絡先、交換してないし交換しないか?」


「……そうするよ」


 連絡先を交換した二人はその日はそこで別れた。










 数日が経ち、眞太郎の親戚の結婚式当日になった。


 天気は快晴。色々あったが新郎新婦は気持ちよく今日を迎えられるだろう。


「……良いのか?」


「ああ、ここ等一帯の創無は出現したら俺が一人で全部やる」

「別に良いが……無理はするな、事態が悪化するようなら向かう」


「……それで良い。 切るぞ」


 連絡を切り、周辺を見張る。


「……弘太?」


 そこで眞太郎がこちらに気付き、話かけて来た。


「何してるんだ?」


「……以前の事件があっただろ……少し心配になっただけだ」


「……ありがとうな。 今度また何か奢るよ」


「……重い話はなしでな」


「……そうだな! 今度はもっと楽しい話をしよう!」


「ああ……もう少しで始まるぞ」 


「っとと! 悪い! 行って来る!」


 眞太郎はそのまま教会の中へ入って行った。


「……!」


 近くに創無の反応を確認した弘太は直ぐに向かった。










_______________________________________


「弾かないの?」


 と、アリーはヴィオに問う。


「ああ、まぁ……気分だな」


「ならいつ気分が変わるわけ?」


「……悲しい時か……幸せな時かな」


「幸せ?」


「ああ……君と一緒に居る時とかな」


「……もう! それって今もじゃない」


 照れながらもヴィオに言った。

 

「ハハッ、そうだな。 なら弾くか」


 ヴィオはそう言い、バイオリンを手に取る。


「………」


 そこから少し長い演奏が始まった。


_______________________________________














 以前、逃したダバーソンだった。


 ダバーソンは教会に近付こうとしたが、それを彼は遮った。


「………」


 教会の方からオルガンの演奏が聞こえてきた、始まったのだろう。


 弘太は自身のファイティングポーズで構えた。


 ダバーソンは顔を開き、数多のつるを展開してくる。


「……やっと見つけた」


 誰にも届くことのない声を独りで呟く。


「……みんなの幸せを守って笑顔にする……借りるぞ」


 迫り来るつるを裁ききり、一つ一つ丁寧に手刀で切り落とす。


 少し接近する。


「……!!」


 口から体液も吐くも、彼の恐るべき身のこなしで躱され、懐に入られる。


 そのまま肩で体当たりを喰らわせ、後ろへ吹き飛ばす。


 ダバーソンは少し狼狽えるも態勢を整え、尖った爪でこちらに襲い掛かる。


 彼は恐れることなく突っ込み、真正面からキックする。


 ダバーソンは腕で防ぐも、余りの威力に後ろへ下がり、距離を取る。


 少しの間だが眞太郎との出会いが彼の成長に大きな変化を与えた。


 彼は02から取り出した鞘から刀を抜く。


 そして、鞘をその場で手から離し、両手で刀を構えた。


 エネルギーを溜める。


 ダバーソンは残ったつるで反撃するも全て見切られたように刀で切り裂かれた。


 高速でダバーソンに迫り、斬撃の嵐がダバーソンを襲う。


「!?!!?」


 僅かの時間でダバーソンの命を絶つ準備は出来た。


 灰色のエネルギーに包まれた刀はそのままダバーソンを切断、さらに斬り、消滅させた。


「………」


 教会の方から歓声が沸いた、順調のようだ。


 確かに輝典を殺したのは俺だ。だが、立ち止まってはいられない。俺が戦わなければみんな死んでしまう。死んでしまえば喜びはおろか、悲しみも憎しみも感じられない。


 戦う。その相手が人間でも殺す。恨まれても良い。殺した分の罪も全て背負う。だから、この戦いをやり続ける。少なくとも戦えない人が生きられるように。









_______________________________________


「……ふぅ」


 少し長い演奏を終えたヴィオはバイオリンを仕舞う。


「どうだった?」


「よかったわよ。 だから次もよろしくね」


「……ああ、もっと気分が良くなればもう少し良い演奏が出来るかもな」


 アリーから渡されたコーヒーで一服し、一息ついた。

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