十七話「虚空」
見回りも終わり、自宅へ帰宅する弘太。
「………」
戦闘記録を支部へ提出する。
そして、何をすることもなく1時間の仮眠を取る。
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「………」
はっきり言って解読は難航していた。
細かく読み取ろうとすると明らかに人類が作ったとは思えない言葉があったからである。
(……困ったなぁ)
(『世界は全て飲み込まれ消滅する、人の皮を被った怪物によって』だけ何故同じ文章で書かれている……? そもそも何故この言葉以外が全てバラバラな文字で構成されているんだ……)
エラマはこの難義な手記をどう読み取れるか必死に考え、検証した、がどれもそう上手くはいかず失敗した。
「……ハァ、ダメだ 何か読もう」
読むものというものも言語に関する本などである、未知のみで構成されている未解読の文字よりも過去の文字の解読を優先したが、何分ホントに文章がバラバラで手記を書いた本人たちのクセや手記内の文字を組み合わせたようなものもあり、彼一人では無理と言える代物であった。
そこで何か僅かな事でも良いのでこの手記の内容を暴く方法がないかと探している。
「……う~ん」
(やっぱりこの手記を解読するには別の手段が必要だな)
やはり一人で解読するには不可能と判断したエラマは休暇中の助手を招集し、他の学者を呼ぶように仕事を出した。
「……わかりました! 先生!」
エラマをそう呼ぶ助手のパドは早速準備に取り掛かる。
「先生、その研究物というのは実際どれぐらい難解なのですか?」
「……地球の全てを解明するぐらいには」
「そんなにですか!?」
「……まぁ大袈裟な言い方だが決して簡単に解読できる物でもない」
「先生でも無理だったんですか?」
「ああ、だからお前に仕事を出しただろう」
「……ですね、直ぐに仕事に入ります」
「ああ、俺はもう少し解読できないか他を当たる」
二人は自身に課せられた仕事を果たすべく、尽力する。
バイオリンの音色が白いペンションの二階のベランダから鳴り響く。
彼がいつものように弾く曲であり、その時により、アレンジが加わる。
今回は不穏さを出しながらもどこか果敢なものを感じさせる音色であった。
「………」
演奏を止め、外の光景をじっと見つめる。
(……どこまでわかったんだろうなぁ、エラマ……まぁまだ三日しか経ってないしまだか)
二階から一階へ降りる。
「ヴィオ、昼食できてるわよ」
「ああ、ありがとう」
そう言い、シチューを口の中へ運ぶ。
「そういえば、あの手記ってのどうなったの?」
「知人に渡した、調べてくれるから時期に結果が来るはずだ」
「ふーん……あなた自身はどこまでわかってたの?」
「……一文しか読めなかった」
「その一文って?」
「確か……『世界は全て飲み込まれ消滅する、人の皮を被った怪物によって』っだったか」
「世界を消滅させるっねぇ……私にもわからないわ」
「ああ、それに関しては俺もわからん、創無であるのは間違いないんだが……」
「見たことも聞いたこともない怪物って事?」
「ああ、そうなる」
「ふ~む、まっ、お仕事頑張って」
「ああ、アリーは家の留守を頼む」
「わかってるわよ」
そう淡々と会話をしながら食事は進んでいった。
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午前6時32分、この時間に弘太は起床した。
「………」
前回の戦闘から二日経っており、その間は普段と変わらぬ任務であった、目立った被害はなく完璧に仕事をこなしていた。
そして週明けの月曜、まだ学校に通ってから一週間しか経ってないが彼はもう慣れたようで直ぐに準備を終え、栄養剤を飲み込み、一時間ぐらい早いが巡回と兼ねてそのまま高校へ登校する。
「………」
朝日が昇る、小鳥の鳴く声が聞こえる、ランニングをする人々、至って異常は見られない平和そのものであった。が。
「弘太君~!」
彼を呼ぶ大きな声が空に響く。
それはすぐ近くの住宅の二階から送られてきた声であった。
「………」
「ちょっと待っててー!」
すぐさま私服へ着替え一階へ降り、玄関を開け、弘太の元へ向かった。
「ハァ……ハァ……おはよう!」
「……ああ、おはよう」
「……にしても早いね、まだ7時前だよ?」
「……色々ある」
「そうなの……それはそうと! 先週飛び出したっきりお釣りまだ返せてない!ごめん!今取ってくる!」
零華はそう言い、すぐ自宅の自室へダッシュする。
「………」
何故ここまで話しかけて来るのか彼にはわからなかった、二度助けた記憶はあるがそれなら少しは臆するはずだ、二度も鏡面以外では見ることのない化物に殺されかけたならそのはずだった。
だが彼女は怖がるどころか元気に日常を送っている、別に悪い事ではないが。
「お待たせ!」
彼女は八千余りの金額をこちらに返してきた。
「……ああ」
そのまま受け取り、ポケットへしまう。
「……私も一緒に行くから少し待ってて!」
零華はまた自宅へ戻ろうとした時。
「零華?外に居るの?____あら」
同じ住宅の玄関から出てきたのは零華の母親であった。
「零華、その子は?……もしかして彼氏だったり?」
「ち、違うよ! 同じクラスの弘太君だよ!」
「……西幸弘太です、おはようございます」
「こちらこそおはようございます……零華、早く朝食食べて準備なさい。」
「で、でも……」
「まず身だしなみを整えなさい、これから学校でしょ?」
「う、うん……」
零華は渋々自宅の中へ入っていく。
「あ、西幸君、学校までまだあるし、零華も少し時間かかるから家に上がってゆっくりなさい、ささっ」
弘太は半ば強引に家に招かれた。
「で、零華はなんで朝から外に出てるわけ?」
「そ、それは……弘太君に先週のお釣り返せてなかったからで…」
「なら学校で返せば良いでしょ?わざわざ西幸君を呼ばなくても」
「呼んでないよ!偶々通ったから声かけただけで……」
「……あーはいはいわかったからさっさと制服に着替えて朝食取りなさい」
「……はい」
「実際は西幸君との関係はどうなのよ?」
「別に特別な関係じゃないよ……ただの友達だよ!」
「ふぅん……ま、頑張んなさい」
(絶対母さん彼氏だと思ってるよ……弘太君が彼氏、か……)
彼氏だったら絶対危険なものから全て守ってくれ、無愛想なりにも支えてくれる、そんな印象だと零華は感じた。二度も助けられた事で彼に対して多少補正が強いと思われるからこそ、彼女の中で理想の弘太として想像が膨らんでいると思われる。
「はい。まぁ朝食食べちゃってたら無理し食べなくていいからね」
「……はい」
出されたのはホットミルクにハムとレタス、トマトの至ってシンプルなサンドイッチだった。
「……いただきます」
「どうぞ、召し上がってね」
サンドイッチを口に運ぶ。
……素材の味、と言えばいいだろうが。
(……温かい)
彼の人生の中で誰かの手料理を食べるのは滅多にない…あったのはスピット兄妹の母親のポトフぐらいだった。
「………」
なんだろう、彼の中では複雑な気持ちが湧いてきた、彼自身はよくわかってない、だが彼が確かに感じているのは、そう、「虚しさ」である。
弘太自身も流石にわかっている、自分が何を過去に置いてきて後悔したのかを。
それがわかっていながら彼はどうすることもできない、いや、どうすればいいかわからない、だろう。
そして、その中で一つだけわからないものがあった。
サンドイッチ、ポトフ、確かに温かみを感じた。だがそれは彼に一番の温かみではない、そう彼は一番何か大切な「温かみ」を失っている。
他人では作ることもできない温かさ、それはみんなにとって身近にあり、弘太にとって一番離れているもの、それは……。
(家族……?)




