十三話「限破」
人形たちを次々と少年は破壊していく。
腕と足を使った戦闘技術は卓越していた。
その戦い方は型にはまることなく少年独自の格闘技術であった。
人形二体に蹴りを放ち、その直後に後ろの一体にチョップを当てる。
さらに他の一体にショルダータックルし奥の三体も巻き込んだ。
少年は一体を捕まえ群れている人形たちへエネルギーとともに投げ飛ばした。
これでかなりの人形が減った、後は道化師だけだった。
少年の力は確実に強くなっていった、この戦いの中でこの進化が道化師に勝つ鍵になる。
進化と言う不確定要素を彼が今信用しているのはそれは彼が道化師に対してのある一つの感情が揺るぎなく存在しているからだ、その感情が絶対的に彼を強化する、だから彼は自分を試すように戦う、全ての創無を殺す存在になる為に。
「………」
「………」
道化師は両手にナイフを握り、少年は静かに刀を引き抜く。
「……!」
少年は身体の中から伝わる確固たる新しい「何か」を感じながら道化師に斬りかかる。
道化師はナイフで対応してくる。
それに対し少年はありえない速度で何回も刀を振っていく。
力任せながらその技量で徐々に道化師を押していく。
だが道化師を倒すには至らない、道化師は勢いのある攻撃を逆に利用し、少しずつ距離を詰めていく。
そして、道化師は次に振りかかる刀の棟に右のナイフを逆手にし振る。
一瞬の引っ掛かったナイフを軸に右へ回避、左のナイフで刺す。
「……!!」
右肩に深く突き刺された、その傷は戦闘を続行するには少々無理のあるものであった。
道化師の腹部に蹴りを喰らわす。
「………」
道化師は後ろへ吹き飛ばされた、そして右肩に刺さったナイフを引き抜く。
「………」
少年は痛みに耐えつつ、静かに、興奮していた、高揚していた、感情が高ぶっていた。
目の前にいるのは大切な人を殺した奴と同型だが別個体、だが創無、晴らすには他の理由は要らなかった。
左手で引き抜いたナイフをそのまま握り逆手で刀と一緒に構えた。
静かに音を立てずに呼吸を整える。
刀とナイフにエネルギーを溜める。
ナイフの方はこちらの武器じゃないせいかエネルギーが溜まりにくいが戦うには何ら支障はなかった。
刀とナイフの刃を高速で衝突させ、擦れ火花が散る。
これにより溜めたエネルギー同士がぶつかりそこにさらにエネルギーを溜める。
強大なエネルギー波を形成、刀で切るようにぶつけ道化師へ攻撃する。
速度があまりに速く、道化師は防ぐ以外の行動は取れなかった。
道化師は黒い靄のような姿をしたエネルギーを腕に纏いエネルギー波を受け止める。
エネルギー波を受け止めた時の衝突の反動で道化師は数メートル後ろへ押される。
少年は後ろへ回りそのまま道化師を切断しようとする。
道化師は無理やりエネルギー波を打ち消し流れに乗るように後ろにいる少年へナイフを向ける。
少年は動きを止めることなく刀を振る。
刀とナイフがぶつかる。
2秒経ちナイフにひびが入る。
少年はそのまま押すように刀を力任せに振る。
道化師は奥へ後退。
今の少年なら確実に道化師を殺せるかもしれない。
だが。
「……!」
探知装置に反応、さらに創無が出現したことになる。
場所へ……ここだ、クラウディラーが呼び出したか、その創無がこちらに寄って来たかはわからないが少なくともこちらが不利になったことに変わりない。
「………」
出てきたのはサドゥシングであった、見た目は四足歩行で虎の体、サイのような顔、足の太ももに当たる部分には角のようなものが生えていた。
「………」
サイズは4m、少し戦うにはこの状況はまずい、だが引く理由はこちらにはない。
「……!!」
サドゥシングは今の戦いに感化されたのか直ぐに変異を始めた。
その姿はまさに化物であった。
先ほどの姿とは打って変わって生物として認識できないようなものであった。
牙からさらに牙が無数に前へ生え、尻尾はドラゴンのような尾になり、身体は毛から黒い蛾のようなものがたくさん群がっている姿になっている。
「………」
戦況は不利だが少年は何故だろうか、むしろこの状況を望んでいるように見える。
「……!」
サドゥシングは尻尾をこちらに叩き付けて来る。
あまりに速く弘太は両腕で防ぐ。
その隙にクラウディラーは人形を生成しつつ、無数のナイフを四方八方から高速で投げて来る。
どうやら共闘するらしい、警戒でもしてくれれば少しは決着が早くなったがそうもいかない。
ナイフの雨を捌きつつ、刀で反撃していく。
サドゥシングが刀を牙で防ぐ。
高鳴りが、彼の、少年の心には確かに「今」高鳴りがあった。
喜びなどで高鳴っている訳ではない。
そう、彼は今無意識の「憎しみ」を持って高鳴っている。
その高鳴りは決して良いものではない、だがこれが少年を強くする道だ。
もう少し、もう少しで少年は今より圧倒的な強さを得る、だからこそ今の彼は多少の怪我は惜しまない。
「………」
刀を勢い任せにサドゥシングに斬りかかる。
サドゥシングは爪で防ぐ、が。
爪にひびが入る、そのまま刀を前へ振る。
「……!?!」
前の右足を切断、そして左手のナイフで胴体を刺す。
沢山の蛾がこちらに迫ってくる。
クラウディラーは生成した人形たちを使い、こちらに攻撃してくる。
人形の持ったナイフが少年の右足を貫く。
「……!」
少年は人形をナイフを持ったままの左手で吹っ飛ばし、蛾を刀で切り裂く。
生き残った蛾は弘太に接触、すると。
「……!!!」
感覚が麻痺していく、反応が遅くなる、これでは対応できない。
だが。
高まる、気持ちと体の熱さが高まる。
サドゥシングは既に体制を立て直し、こちらの背後を取っていた。
前にはクラウディラー、周りには人形たち、完全に囲まれた。
これでいい、もうすぐ、もう完了する。
人形とサドゥシングがこちらに向かう。
クラウディラーは200本のナイフを一斉にこちらに投げ、さらにナイフを用意する。
絶望的な状況だ、少年はこのままでは死んでしまう、彼の今の力では勝てない
そう
少年、西幸弘太は新たな段階へ入る
突然、彼の身体と周辺に異常が起きる。
「「!?!」」
全ての人形を一瞬にして消滅させ、サドゥシングを蹴りで後ろへ吹き飛ばす。
本来ならここは廃坑の前、土と岩に囲まれた場所。
しかし今彼が戦ってる空間はそんな場所ではない。
全体が紫調で構成された足場しか見当たらない空間。
西幸弘太の進化がこの空間を生成した、そしてこの空間は通常とはまるで違う。
「「!?!??!」」
二体が苦しみ出す、この空間によってだ、そして弘太自身は先ほどと比べ、身体が楽そうに動かしている。これは彼のアクの強いエネルギーによるものだろう。
西幸弘太の持つエネルギーがここでは流れている、ここは彼にとって限界以上の力を引き出し、それ以外の者全てを拒絶する空間。
二体から黒い靄のようなものが吸い取られている、次元エネルギーを空間が吸い取り、弘太に与える、逃げ場のないこの場所ではこれを止めることはできない。
「………」
刀とナイフにエネルギーを溜め始める、先ほどとは比較にならない程の量でこれを喰らったら恐らくクラウディラーとサドゥシングは一撃で殺されるだろう。
二体は抗う、だがエネルギーを吸い取られ身体は弱り満足にダメージを通すことすら難しいだろう。
だが彼らは攻撃する。
サドゥシングは牙をさらに増殖させ精一杯の力を込め突進してくる。
クラウディラーは残った人形6体を盾にし傷を癒しながらナイフを空中に浮くように展開しながらエネルギーを玉のようなものに複数作り、お手玉のように操っている。
弘太は迷わずそのまま突っ込む。
サドゥシングは口を大きく開け、その牙で弘太を食い殺そうとする。
弘太は突っ込み口の中に入る瞬間に刀を縦にし挟まるようにした。
口の下の部分は刀で貫かれた。
「……!!」
ナイフをそのまま口の中へ投げる。
苦しむサドゥシングを他所に刀にエネルギーを再び溜め貫いた部分からさらに刺し、横へ斬る。
そしてサドゥシングの顔を一刀両断にする。
その後直ぐにサドゥシングの残骸を足場にし、クラウディラーへ向かって跳躍。
人形たちがそれを防ごうと立ちはだかる。
弘太はまるで獣のように人形の中へ飛び込む。
何度も人形を殴り蹴り、刀で周りの人形たちを切り刻む。
クラウディラーはエネルギーの玉を弘太に向け発射する。
弘太はそれを刀で全て叩き切る。
クラウディラーは即座に巨大なエネルギー球を生成、弘太に向ける。
弘太は迷うことなく刀を構え、斬りかかる。
エネルギー球が弘太を襲う。
だが彼の速度は尋常ではなく、エネルギー球を一瞬にして切断、刀の切っ先は道化師に向けられる。
「!?」
クラウディラーは防御しようとする、だが。
それより先に刀が懐に入りかなりの量の溜まったエネルギーを解放、解放された刀を道化師は成す術も受け、切り裂かれる。
余りのエネルギー量に行場を失った次元エネルギーはその場で暴走、爆発した、恐らくこの空間が原因で暴走したのであろう。
「………」
身体から伝わる感覚で空間を解除した。
まだこの力について調査する必要があるが今はまだ彼の見回りの時間、これが終わり次第帰還、任務完了の報告をし、調査が始まるだろう。
「………」
少年は廃坑を後にし暗がりの街の中へ消えていった。




