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黒絶草   作者: Outsider
第一章 「虚憎」篇
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十話 「狂気」

 3日目の朝。


 雪が降っていたが外に出るには些細な事であった。


「行ってくる」


「おう、雪も降って来たしあまり遠くへ行かないでくれよ、あと帰る支度の準備もあるから早めに帰って来い」


「……わかった」


「……あー、まぁなんだ、全力で楽しんで来い……時間があればまた来るかもな」


(!!!)


「……わかった!」


 弘太は返事を返し、外へ出た。


 エミルとユーリのもとへ向かった。


「......フフッ」


 弘太は笑っていた、今まで生きてきた中で一番良い笑顔で。






 弘太はエミル達のもとへ着いた。


「おおー、来るの早いねコウタ」


「だってたくさん遊びたかったし……それにしばらく会えないからね」


「……そうだな、今日を特別な日にしよう!」


「うん!……ユーリはさっきからニコニコしてるけど良い事あったの?」


「……特別な場所見つけたんだ!すごく良いところだよ!」


 彼女はそう言いながら弘太にこれでもかとぐらいに最高の笑顔を見せた。


「きっと素敵な場所なんだろうね~」


「うん!……ホントに素敵な場所だもん!!!」


(初めて友達ができる……こんなに嬉しいのは初めてかも)


「じゃあ行こうぜ!」


 3人はその場所へと向かった。


 街から少し離れた湖を目指していた。


 この湖にはちょっとした伝説を持っていた。


 過去に謎の怪奇現象に見舞われた際に襲われそうになった娘を青年が助け、青年と女性はその湖で結ばれたという伝説がある。


 その怪奇現象の原因は創無であり、青年は能力者であるのは知られていない。


 その伝説を知ってたユーリはその湖を友情の約束の地として選んだのだ。


 ユーリの真意はさておき、3人は森のの奥の湖を目指す途中、周りの雰囲気が突然怪しくなってきた。


 雪が降っていた筈が止み、霧がかかってきた。


 そして、まだ朝のはずなのに暗くなり寒さも先ほどより冷えてきて、非常に奇怪な現象であった。


「……一旦帰ろう」


「……その方が良いと僕も思う……また何かあるとは限らないし」


「約束はどうするの?」


「……必ずやるよ、でも今は帰らないと危ないよ」


「……わかった」


 3人は帰ろうとした、もう遅いが。


 目の前に「ピエロ」が現れた、全身がドス黒く手足が異常に長い長身のピエロが。


「ヒッ……」


 ユーリは弘太の袖を掴み後ろに隠れた。


「………」


 ピエロはニヤリと笑い少しずつ弘太たちに近付いた。


「な、何か用ですか……?」


 エミルは勇気を振り絞って聞いた。


「………」


 ピエロは何も答えない。


 弘太は小さい声で言った。


「少しずつ下がろう、近付いちゃダメだ」


「……わかった」


 ユーリはコクりと頷いた。


 3人とも一歩ずつ、確実に下がる。


 ピエロは3人が下がるのを確認するとピタリと歩みを止めた。


 そして、腕をこちらへ向け、笑いながらこちらへ向かって来た。


「逃げよう!」


「ああ!」


 3人は全力で逃げた。


 ピエロはそれを楽しむかのように走る速度を下げて追いかけて来た。


 街へ行こうにも、霧がかかり暗いこの状況では帰るのは難しい。


 さらに、行く先々でピエロが待ち構えて退路はどんどん塞がれていた。


(!!……あれは)


 空に灯りが見えた。


 弘太たちが逃げて行くうちにその灯りの正体が見えた。


 屋敷があった。


 街から離れてしまったのだろうか、街の近くにはこんな大きな屋敷はなかった。


 ともかく、何であれ、屋敷の人に助けを求めようとした。


「あそこへ逃げるよ!」


「う、うん!」


「ハァ……ハァ……まだ追って来るのか……」


 3人は屋敷へ着いた。


「………」


 暗くて見えなかったが屋敷は汚れていた、恐らく何十年も使われていないだろう。


(とにかくしばらくこの中で隠れよう……他を選ぶ余裕はない)


 弘太が冷たく凍ったドアノブを手を伸ばし、ドアを開けた。


 中は埃や蜘蛛の巣で溢れかえっていた、屋敷は広く、隠れるのには向いている場所かもしれない。


(隠れるにしてもここにずっと居てもいつか見つかる……しばらくここでやり過ごせたら直ぐにここを出よう)


「………」


 ピエロは屋敷の前に立っていた、そして狙いが的中したのかまたニヤリと微笑んだ。


 3人は屋敷の中でやり過ごせる場所を探した。


 だが、直ぐ見つかりそうな場所しかなかった。


(あの道化師は創無だと思うが……人型はかなりヤバかったはずだ、安易な場所は死ぬことと同じだ……)


「怖いよコウタさん……」


 ユーリは弘太にべたりとくっついていた。


「どうする? このままじゃ見つかるかもしれないぞ……」


「………」


 弘太は焦っていた、隠れられる場所もなく、助けを呼ぶ余裕さえないこの状況で弘太が決断を迫られていた。


「……どうするか、ユーリも何か____!?」


 扉が開く音がした、玄関からだ……まずい。


 恐らくこの状況で来るのはあのピエロしかいない、かなり切羽詰まって来たこの事態で弘太は必死に見つからない場所を探した。


 奥へ、奥へと探した。


 最後の部屋を開けた。


(……!?)


 そこはリビングのような広い部屋だった…惨劇が起こっていると思われる状態だった。


「……」


 ……彼に狙われた時点でアウトだった。










「弘太! どこだ! いたら返事してくれ!」


 柳は弘太を探していた。


 探知装置から弘太のエネルギーの反応が異常な量で出たのだ、弘太はまだエネルギーを制御しきれていないので異常があったということは非常事態になり無意識に助けを呼ぶためにエネルギーを放出したと思われる。


 エネルギーの発生源に来たが何も見当たらない、ただ雪が少しずつ降っていたのが急激に激しくなり、吹雪となっていた。


(この状況は……確か「しんさん」が戦ったクラウディラーと同じだ、クラウディラーだとすると……かなりヤバいことになって来たな……)


 慎と言う弘太の父がかつて経験した状況と似ていた。


 子どもが急にいなくなり天気が悪化、気づいた時には遅く、惨い殺され方とされた死体だけが見つかる…はっきり言ってクラウディラーに勝てる可能性は低い、そして探知装置にクラウディラーが反応しなかったということはそれは奴が「進化」したと言っていいかもしれない……。


(奴は幻覚を使えたはず……なら弘太の反応の場所はズレてると考えた方が良いな……)


「おい!」


「!」


 柳に声をかけた方向を見た。


 この区域の能力者だった。


「異常エネルギーを確認したが状況はわかっているのか?」


 柳を能力者とわかった上で話しかけてきた。


「……クラウディラーだと思われる、子どもも行方不明だ」


「……俺に交戦経験はない、そちらは?」


「こちらもない……だが撃退はできるかもしれない」


「……了解、俺の事はファガルでいい」


「柳で構わない」


 二人はクラウディラーを倒し弘太たちを救出する準備を開始した。









 ……一年前にこの街では事件があった。


 街の子どものほとんどが行方不明になるという事件であった。


 捜査及び捜索が開始されたが手掛かりはゼロであった。


 現在も子ども達の行方は分かっておらず犯人と思われる者も不明のまま時が過ぎた。


 被害に遭わなかったのはスピット兄妹だけである、犯人がまだ潜伏している可能性もあるので外への外出を控えたが一年と言う歳月が過ぎ、事件についても少し薄れてきたところに弘太が現れエミルとユーリは笑顔を取り戻した。


 その笑顔は今この瞬間に失われつつある。


「クッ……!」


「身体が……動かない」


「嫌っ……! 怖い……誰か助けて!!!」


 3人は十字の木の板に拘束され、ピエロがやったのか、見えない力で身体全体が一切動かず、目がずっと開いた状態で閉じることができず、喋ることができるだけであった。


「………」


 ピエロはまた笑った、こちらの反応を楽しむかのように。


 すると部屋に突然明るくなった、ピエロがやったことだと思うが……。


 この部屋は先ほどまで暗くて遠くまでよく見えなかった。


 そして、明るくなったことでこの部屋の惨劇の状態を目の当たりにした。


 あちこちに子ども達と思われる死体があった。


 そのすべてが継ぎ接ぎに布が縫い合わせて人形にようになっていた。


 血が広がっていて肉の塊が隅にあった、子どもの死体の腹部は内部が見えていて何もなかった……。


「………」


 考えたくなかった。


 だが明るみになったことで恐怖はさらに高まった。


 そして……ピエロはエミルの身体に持っていたナイフを突き刺した。














 柳はナイフにエネルギーを溜めていた、その量はこの森林一帯がなくなる程であった。


 森林のみにエネルギーの量を溜め、それを一気に放出するというものである。


 弘太もまだ子どもとはいえ能力者であり、異常な量のエネルギーを感じ取れば身を守る為にエネルギーを出すと踏み、この行動に出たのだ。


「………」


 ファガルは周辺を警戒しながら探知装置で弘太の反応をチェックしていた。


 ………


 少しの間、静寂だけがこの場を支配していた。


 そして


「……!」


 柳はナイフを振り、エネルギーを解放した。













「ア……ア……」


 腹部にナイフを刺したピエロはそのまま少しずつナイフを押し込み、さらに抉った。


「イヤアアアアアアアアアアアアアアア!!! お兄ちゃん! お兄ちゃん!」


「エミル!!」


 2人の叫びを無視しピエロは刺した腹部の内部へ手を伸ばした。


「………」


 エミルにまだ生きている、だが生死を彷徨う最中だからか何かを発することはなかった。


「!? エミル!? エミル!!!」


 あまりのことにパニックに陥っていた、ここまで悲惨なことに遭遇することが少なかった弘太はただエミルに叫んで叶うことにない無事を祈ることしかできなかった。


 弘太から次元エネルギーが流れ出ようとしていたがピエロのせいなのか外へ出ることはなかった。


 ピエロの手がエミルの腹部から出てきた…臓器と一緒に。


「!? お兄ちゃん! イヤだイヤだイヤだ! 死なないで!」


 ピエロはエミルの臓器を持ち、ニヤついていた。


 さらにエミルの腹部から他の臓器も取り出していた。


「……!!!」


 なんだろうか、彼からは感情が込み上げていた、彼が理解してない感情を。


 沸々と衝動を抑えることの出来ない何かが彼から湧き上がって来た。


 それを見たピエロはまるで弘太の感情を理解しているのか、弘太の方へ向かった。


「!! ダメ! やめて!!!」


 ユーリはピエロに向かって力の限り叫んだ、弘太を必死に庇おうとしたのだ。


「………」


 ピエロはそこでピタリと止まり、ユーリの方へ向いた。


「………」


 ユーリは怯えていた、わかってはいたがそれでも弘太に危険が迫っているのを黙って見過ごすことできなかった。


 少しずつ、確実にピエロはユーリに近づく。


「ううっ……」


「ユーリ……!!」


 泣いていた、少女は覚悟を決めた、だが親しい人を前に心は揺らいだ。


「……コウタさん、私、ね、この2日間ずっと、ずっとね、コウタさんのこと_________」


「………」


  少女の声はそこで途絶えた、頭部ごと切断されているからであった。


「ユーリ!!!……アッ……! アッ……! アアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!!!!」


 少年は発狂した、感情を爆発させた、狂い切るまで。


 少年の中のエネルギーが異常なまでに上昇し、ピエロの施しを壊す勢いであった。


 その瞬間、彼に衝撃が走った。


 外部から別のエネルギーが叩き込まれたのだ。


 そして、弘太のエネルギーは漏れ始めた。












「! 反応を確認した、行くぞ」


「了解」


 2人は向かった。


 先ほどまで見えなかった屋敷が遠くから見えた。


(やはり幻覚にかかっていたか……)


 反応源へと確実に近づく、だが。


「「………」」


 目の前には警察官の姿をした腐敗した死体達がこちらに向かって来た。


「……いなかったのはこれが原因か……俺が戦闘をする、リュウは反応源へ真っ直ぐ向かえ」


「……わかった」


 ファガルは二刀の剣を持ち、死体たちへと突っ込んだ。


 柳はその間に反応源へ向かった。














「グアッ……!」


 ……少年は右足以外の下半身のほとんどを失った。


「……」


 こちらを見て嘲笑っている……これほど相手に対して感情を向き出したのはこいつが初めてだ。


 ……能力者じゃなければ彼は死んでいた、だが重傷であることには変わりない、このまま手術をしなければ彼は死ぬ。


「………」


 肉体の一部を失った痛さに彼は黙ってしまった。










 ……継ぎ接ぎの子ども達がいた、警察官がいた、全てあのピエロがやったことだ。


 1年前のこの日のクリスマス、この屋敷で殺人が起こった。


 屋敷の者は皆殺された、大人は全員外に捨てられた。


 子ども達は全員ピエロの暇潰しに弄られ、死んだ。


 この日からこの地域では子ども達が次々に行方不明になっていった。


 警察官は関わったもの全てが彼の手により人形と化した。


 弘太が来ようと来なかろうがこの街に居る時点でスピット兄妹の運命は、決していた。




 ……1年経った今日もクリスマスだった、最悪なクリスマスだ


 友達になれたはずの者は死に、自分も殺される、もはや抗う気力さえ残っていない


 ………


(……なんだあれは?)


 気の迷いでもなんでもなかった、継ぎ接ぎの子ども達が急に立ち上がったのだ、何故今になって……


 すると、継ぎ接ぎの人形たちはこちらに向かいながら歌を歌い始めた


「……!?」


 クリスマスソングであった


 ……あの子ども達は殺される直前までクリスマスソングを歌っていた、祝福する歌であったはずだ、彼には……


「止めろ! 止めろ止めろ止めろ!」


 ただ恐怖を煽り、絶望を感じる歌にしか聞こえなかった


「………」


 ピエロが弘太にとどめを刺そうとした、だが


「弘太!」


 柳がやって来た


 そして柳はナイフにまたエネルギーを溜め始めた、だが今度は何かが違った、明らかに纏うエネルギーが今までは異なっていた


「……!!」


それを見たピエロは一瞬で空間を出現させ、逃げた


「ハァ……ハァ……弘太!」


「柳……さん……」


 そこで彼の意識は途絶えた









「……」


 彼は目を覚ました


「弘太! 大丈夫か?!」


「……問題ない」


 彼からは感情が欠けたような返事が返って来た


「……何があったか覚えてるか?」


「……ああ、みんな死んだ」


「………」


「……あの後どうなった?」


「あ、ああ、組織が後始末をした、この区域も能力者が増える…お前が言ってた友達は……」


「わかってる、目の前で死んだし」


「弘太……」


 彼はこの時から少しずつ感情が薄れていった、感情を取り戻すこともあったがそれは悲劇を起こったきっかけに過ぎなかった


 あの兄弟の事は戦う理由として彼の中で無意識で存在した、スピット兄妹の母親のその後は知らない、聞く気にもならなかった、あの街も今はどうでもよく思えた


「………」


 右足以外の下半身は機械化していた、今の医療では能力者に対してこれが手一杯だった


「……柳、俺はどう戦えば良い?」


「……本気か?」


「ああ、もう後戻りはできない」


「……わかった、だが時間はない実戦で学べ」


「了解」


 彼にとって戦いはスピット兄妹に対して罪悪感を感じた弘太の償いかもしれない、だがそれ以上に彼には、「憎しみ」があった、ピエロに対する無意識の憎しみ、それが彼を戦いへと衝き動かした





_______________________________________


「………」


 時代は戻り現代、彼はクラウディラーを倒す為に任務へと出た。

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