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黒絶草   作者: Outsider
第一章 「虚憎」篇
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一話 「戦闘」

 初投稿作品です。この作品は戦闘描写が多いですが、それと同時にシリアス的展開が大半と占めると思います。ギャグ等は少なくとも1章の話ではほとんど出ません。

 かなり長期に渡り連載する予定なのでその辺りをご了承の上で読んでいただければ幸いです。文章に違和感があったり、誤字と思われるものがありましたらどうぞご指摘くださって結構です。


 では、楽しんで読んでいってくださいね!



  

           バイオリンの音色が一帯に響いていた。




 そこは人があまり立ち寄らない自然豊かな野原で爽やかな風が行き渡り、非常に心癒される景色であった。


 そこには一つだけ2階建ての建物があった。


 壁は白く塗られ木製であるその家の2階のベランダには野生の小鳥たちが留まっていた。その小さな体からとても可愛らしい鳴き声を出していて、心安らいでいられる場所であった。


 家の目の前はちょっとしたガーデンになっていて、様々な観葉植物がガーデンを彩っていた、そこに男が一人、洋風にデザインされた椅子に座り、テーブルの上に並んである朝食を頬張っていた。


 良い具合に焼き上がったクロワッサン、色鮮やかな野菜が混ざり合ったサラダ、脂の匂いが食欲を誘うベーコンエッグを彼はもちろん美味しそうに食していた。


 食後、しばらくして男は立ち上がり、椅子の横に掛けてあったバイオリンケースからバイオリンを取り出した、野原の風を感じながら男は弓を弦に合わせて、弾き始めた。


 先ほどから野原に響いていたこの音色はとても優しく、不安を感じることの無い音程であり、安らぎの空間と言うに相応しい場所であった。


 そして、家の窓から茶髪なロングヘアの女性が顔を覗かせていた。男の奥さんだろうか?その女性は男の弾く音楽に酔いしれていて、とても素敵な笑顔を浮かべていた。







 だがその一時はすぐに終わってしまった。


「………」


 男は演奏を止め、演奏を中止しなきゃいけない何かに警戒していた。


 男の顔は不思議と落ち着いていて慣れた様子であった。


 顔を覗かせていた女性は家にある銃剣であるマスケット銃を取り出し、ガーデンにいる男に渡した。


 マスケット銃は既存の物とは見た目が異なっていた。


 色は茶色くやや大きくなっており、槍のような切っ先でいてどこかバイオリンの弓を思い出させる形状であった。


 マスケット銃からは何か異質なエネルギーが溜められていた。


 そのエネルギーはまるでこの世ならぬまったく別の性質を持っていた。


 エネルギーが溜められていることを確認した男はマスケット銃を構え、静かに潜む「敵」に対する態勢を整えていた。


 ……暫しそこには風の音のみ流れていた。


 男には敵の動く音が僅かながらに聞こえていた。


 その音は、ゆっくり、ゆっくりとこちらに近づいていた。


 途中からその音に歯軋りをしているような音も加わった。





            音の正体は姿を現した。





 その刹那、姿を現した「獣」は一瞬で男の真後ろにまで来ていた。


 獣は牙を露わにし、男の命を刈り取る為に男目掛けて襲い掛かった。




 一瞬、そこには何かを蹴るような音と銃弾が一つ撃ち込まれた音がした。




 そこには、弾を貫かれ、謎の霞を放出する獣の亡骸があった。


 狼のような姿をしているが、それにしてはあまりにもドス黒く異常な発達を遂げていた。


 歯としての機能を明らかに逸脱していて、巨大化し、複数の歯が左右に一つになった牙。


 足は木の根のような見た目をしており、非常に奇怪な獣であった。


 男は獣が後ろに来るようにワザと隙を作り、思惑通りに来た獣を回し蹴りで横へ吹き飛ばし、即座に銃を獣へ密着させ、零距離による射撃を行ったのだ。


「……年々増えてきているな」


 男はそう言いながら腰に身に着けてある奇妙な形のナイフを獣に刺し込み、獣の全てを「吸収」し始め、それが終わると、何事もなかったように家へ足を運んで行った。










_______________________________________


 ……銃声がそこからは聞こえていたが誰かが撃ったのを最後にそこには静寂が流れる。


そこには銃撃戦の跡が見られる。死体がいくつも散らばっていた。今、この場にいる少年がやった結果である。

 

 この結果は法に裁かれないし、誰にも咎められない。


            なぜなら、これが「仕事」であるからだ。


「……任務終了」


 返り血を大量に浴びた少年「西幸にしゆき 弘太こうた」は死体があちこちに転がっている廃墟に目もくれず、その場を去って行った。 


 ……敢えて言うなら少年の撃った弾丸に接触し残った痕には黒く悍ましい靄のようなものが、しばらくの間、弾痕にへばり付いた後に綺麗に消えていった。








      ……少年は戦っていた、人と、獣と、化物たちと、そして……運命に。








「……任務終了を確認した。次の任務の通達まで自由とする」


 「相原あいはら りゅう」である男への報告を終えた弘太は、武器の手入れをしながら2日後の予定を確認していた。


(―――――明後日からか……高校は)


  少年はまだ「15歳」であり、まだまだ若く青春を送っているであろう時期であろう。



 だが彼には普通の人生は送れない、いや、許されない運命にある。「創無そうむ」という害悪がいる限りは。




 ……この世界は「創無」という不確かな存在に、侵食されていた、1000年以上も前から。彼らは文字通り「別次元」の存在であり、生きている次元が違うせいなのか定かではないが我々からは水やガラスなどの世界を映し出すものでしか見えない、奴等は現れては人類を虐殺していった。


 もちろん対抗した、あらゆる攻撃を行った、だが効かなかった、別の次元の存在である彼らには次元エネルギーが障壁のように球体上に囲まれていてそれが酷く歪んでいて、原因であるからか彼らに掠り傷と呼べるものすら与えることが不可能だった、彼らは我々より明らかに進化していた。


 だが、彼らの中で「1個体」だけ人類に味方した生命体がいた。「ラヴァ」と呼ばれる雄に当たる生命体だった、何故彼だけ味方したのかは未だに不明だが少なくとも創無と敵対する理由がある事には間違いなかった。


 滅ぼされかけた人類にはラヴァは救世主のようにさえ思えた存在である。


 彼は自身の力を霧のように世界に分散させ適合できる人間にその力は根付いた。




          これが人類の希望に適合した者たちの「呪い」である。




 急激に力を与えられた人間達は一時的に驚いていたが与えられた力から不思議なことに感覚的ではあるが、能力の使い方と最低限の戦い方を理解できるようになっていた。


 この能力「ディザイス」は創無の歪んだ次元の障壁を貫通し、直接攻撃するための手段である。そのために能力者たちの武器は既存の兵器とは異なっていて能力を込めやすいように設計されている。


 また、ディザイスは彼らを倒すためだけにできた能力ではなく、彼らの世界の次元エネルギーを耐えきれる者、即ち適合できた能力者に注ぎ込み、彼らに近づいた存在になることで戦うことができるようになっただけであり、創作物のような能力というよりも環境適応能力と言った方が正しい。まぁ、エネルギーを自在に使える辺りは別の話になるが。


 適合者は最初こそは多く存在したが年々死亡するものが増え、また、15年前に創無が今ままでと比べても多すぎる数で攻めて来たことで激変してしまった。これにより、創無と戦える者の大半が死んでしまい、能力者に余裕もなくなってきている。撃退した後は、少数で管轄の地域を守らなければいけなくなった。


 西幸弘太の地域は彼と相原柳の2人のみである。朝・昼が相原、夕方・夜が弘太の順番で回っている。そして、この地域は創無の出現率はやや高めであり、他の創無と比べると強さも強力である。先ほども言った通り能力者の数は少なくなっているため2人はむしろ多い方であり、大半の能力者は1人で戦っている。



(……寝るか)


 弘太は午前6時と表示されてる時計を見ながら、眠りについた。




 ――――――ガチャ


 武器のチェックをし終わり、カモフラージュした武器を武装した柳の姿がそこにはあった。


 ここからは相原柳の担当の時間帯である。


 装備を整えた後に地区の状況確認をした後、柳はそのまま朝の街への見回りへと向かった。


(特に目立った異常はないな……)


 そうしていくうちに時間は過ぎ特に大きな出来事もなかった、だがやはり敵は現れた。


 エネルギーの異常発生を探知する装置のレーダーに反応源の場所と距離が表示された。


(反応が出たか……近いな)


 反応が出た場所へ向かった場所は森林で比較的に人が訪れることが少ない場所であったため被害を最小限に収められるうってつけの場所での出現であった。


 遠くはなく急いで数分で目的地に到達した。


 相原は到着したと同時にすぐ戦闘態勢に入った。


 専用ハンドガンを構えながら、静かにゆっくりと歩を進めていく。


 慎重に人がいないことを確認し、奥へ進む。


 ____そこにはシルエットがはっきりしているが全身が黒く禍々しい見た目の異形の化物がいた。


 幸いにも創無はまだこちらに気付いておらずこちらが相手の後ろを取っている状況だ。


 40mぐらいの距離でエネルギーチャージしてある柳の銃なら十分にダメージを与えられる距離であった。


 ……まずは先手を取る、確実に傷を負わせる、近くの木々に隠れてそう考えながらトリガーを引いた。


「―――――――!」


 障壁を貫通、少なからず動いていたので多少の誤差はあったが先手を取ることに成功!


 3メートルほどの2足歩行型で水平姿勢であり、顔が牛のようになっていたが、傷を負った直後に口と思われる部分が突然裂け始め触手のように8本に分かれていた。敵はこちらに気付きさらに短い腕をハンマーのようなものへと変異していった、打撃部分にはいくつも針のようなものが付いており、先ほどとは似ても似つかぬ姿をしていた。


(あのタイプは……サドゥシングと断定できるが……)


 創無にも大雑把であるが種類が区別されており、サドゥシングは変異するタイプの呼称である。


(____少し厳しいが……殺しはできる)


 そう考えながら別の茂みへと移動していた。


 柳は発煙弾を取り出し、敵目掛けて投げた。


 発煙弾はサドゥシングの近くへ落下し、白い煙を出すことに成功。


 創無は煙により、捉えた相手を見失い、興奮状態で辺りを暴れている。


 柳は続いて手榴弾を2個ほど取り出し、エネルギーを込めながらまず1個をサドゥシングの方へ投げ煙がまだあるうちに手榴弾は爆発し、見事サドゥシングへ当たり、足場を崩すことに成功。


 柳は近くの木へ移動しながら2個目の手榴弾の安全ピンを外し、木へ移動した瞬間にサドゥシングへ透かさず投擲した。


 落ちる前にサドゥシングの顔面前で爆発し、触覚を2本顔面から切られたように落ちていき確実に視覚を奪うことに成功した。


(……終わらせる)


 柳は腰から短刀のようなものを鞘から引き抜いた。

 

 色は黒深くて西洋風のデザインでそれでどこか異質な感じのする短刀であった。


 柳は短刀に次元エネルギーを溜め、それは少しづつ刃部分から薄黒いオーラのようなもので解放され始めた。


「………」


 サドゥシングはそのままバランスを崩し身動きができない状態にある。この機を逃す理由はない。


(……!)


 柳はサドゥシングの方へ一直進に走り出した。


 そして、思いっきり跳躍し、顔面を切断するその刹那、サドゥシングの足の方から爆砕した2本の触覚が急激に活性化し柳の方へ触覚が伸び、捕らえる直前だった。


 咄嗟の回避運動をとったが、短刀を握った右手が捕まってしまった。


 触手と言うには余りにに硬く、そして先端が人間をいとも容易く貫通するであろう位には尖っていた。


 そして数多の針がついたハンマーが両側からこちらに向かってきている。


「……ふぅぅ」


 柳は右手が捕まった触覚を両足で挿み、短刀を左手で逆手で持ち思いっきり右手近くの触覚を切断し顔面を方へ勢いつけてジャンプした。


 相手の反応より早く逆手で握られた短刀は素早くサドゥシングの酷く豹変した顔面へ直撃し、抉りながら押し込み、エネルギーを注いだ。


「!!!?……」


 苦しむ様子を見せたが、その後沈黙し二度と動き出すことはなかった。


「……はぁ」


(戦闘終了、敵の死亡を確認。亡骸の処理をした後に帰投。。。か)


 短刀をさらに深く刺し込みサドゥシングをエネルギーを吸収し始めた。









 ――――――――――― 午後 5時 55分  西幸 弘太  起床



(……時間か)


 弘太は任務の為に装備の準備をしていた。


 ハンドガン、小型ナイフ、長刀など、特別に作られた武器を着々と整えていた。


 準備し終わった弘太は、任務の確認を行った。


 創無だけが敵なわけじゃない、実情を知らない機関が研究・利益の為に能力者を手に入れようと敵対しているのが現状の事実だ。


 敵対組織の対応を行う然るべき機関を設立しようにも相手の機関が巧妙に邪魔をしているおかげで能力者との連携が取れない、おかげで組織の相手も能力者の任務として稀に行う。


 今回は、人里離れた森林、柳が先ほど向かった場所の近くであった。




『森林の奥深くの地下の研究施設を破壊及び関係者を抹殺、研究対象者の保護、保護が不能な場合は殺害』




「………」


 弘太は無表情のまま任務の再確認をし、自宅から研究施設へと移動した。



 入口はカモフラージュされていたが、人が訪れないせいか完璧な擬装ではなく、よく見れば直ぐ気づく出来栄えであった。


 潜入ではないので隠れる必要もなく堂々と入口をエネルギーを溜めた足で思いっきり蹴り壊し突入した。


 感覚を研ぎ澄まして施設内の人の数を「音」で確認した。


 数からして研究員は25人、武装した警備隊が30人……研究の対象である子供達が20人程度で少ない人数であった。


(……先に警備隊を一掃するか)


 警備隊が15人程こちらに気付いて攻撃し始めた。


 複数のマシンガンの銃声が激しく響き渡る。


 弘太は……避けてすらいなくただ前進していた。


 能力者の体は人間の構造を尊重しつつ大幅な変化をもたらしている。


 見た目は人間だが、彼らの体はもはや人間と程遠くなっている。


 ……弘太は右手にハンドガン、左手にナイフを持って、そのまま突っ込んだ。


 対応する間を与えることもなく手前の2人はナイフで首を掻き切り、奥の3人をハンドガンで仕留めた。


 さらに、1人の左手の親指を切断し、悶え苦しむ警備員を盾にした。


 敵は一瞬の戸惑いを見せた。


 盾にした警備員を敵へ蹴とばし、周辺の2人へハンドガンを放った。


 必殺武器である長刀を取り出し、エネルギーを瞬時に溜め、一刺しで2人纏めて殺し、そのまま横へ振り1人死亡。


 残った4人は応戦したが全く意味がなく、弘太有り得ない速度で刀を振り、一振りで4人全員の首を切り取った。


 1分半の激闘繰り広げた弘太は親指を切られた警備員だけを生かし、警備員をそのまま引きずり始めた。


 そのまま盾として利用するつもりらしい。


 ……警備員は気絶寸前だった。


 残りの警備隊も時期に来る、その前に弾の装填、長刀を納め、ハンドガンとナイフに次元エネルギーを再充電した。


 再度、音で状況を確認し、警備隊の後ろに研究室があり、何かの準備をしている会話が聞き取れた。


(……5分以内に制圧するか)


 そこで残りの警備部隊と遭遇、相手が攻撃する前に弘太は動き出した。


 気絶した警備員をそのまま敵の方へ思いっきり投げ飛ばした。


 それと同時に後ろからついてくる形でハンドガンを2発、発砲しながら突進した。


 1人にぶつかり、ナイフで眉間に突き刺し、役目を終えた親指を切られた警備員についでにハンドガンで葬った。


 4人ぐらいがマシンガンを乱射してきた。


 だが、効くわけないのでそれがさらに恐怖を煽った。

 

(クソッ……!!あれが能力者だというのならあれは人間じゃない!ただの化物だ!)


 弘太は無表情のまま、残りの14人に……次元エネルギーを放出した。


 黒い霞のようなものが警備部隊全員を覆った。


「!?なんだこれh___」


 エネルギーを浴びた警備隊全員が10秒も経たずに死亡し、14人分の血液、臓器等が四散した。


 そこに留まった余剰エネルギーは弘太が吸収した。


「………」


 弘太はそのまま研究室の方へ向かった。


 研究室の近くで一度止まり、改めて中の状況を確認した。


 研究室にはなんとまぁ都合の良いことに研究員25人全員がいた。


 ……この施設を破壊できる量の爆発物がそこにはあった。


 最初から放棄前提の施設だからのつもりかおそらく自爆するだろうが施設を爆破する火薬の量から考えて一般人に嗅ぎ付けられる場合もあるので、爆発させるわけにはいかない。


 研究員25人を一斉に殺すことにした。


 ハンドガンとナイフをしまい、長刀を再び取り出した。


 研究室に微弱なエネルギーを送った。


 そしてそのまま静かに研究室へ突入した。


「!?早く起爆を!!!」


 ……………


 ……その爆発が起こることはなかった。


 そこには25人全員が上半身と下半身に切断されていた。


 予め送ったエネルギーは普通では視認できないほどに研究員たちの腰辺りに留まり、弘太が研究室の中心で長刀を横に一回り振った時に、エネルギー共に送った刀の切り痕が留まっているエネルギーと共振し、その威力が研究員25人を真っ二つにした、必ず同時に殺すために。


(あとは研究対象者の保護か……)


 研究室のさらに奥に実験場があり、そこには20名の「少年少女」たちがいた。


 酷く怯えていた。


 ……弘太はそのまま実験室にあったレポートの実験内容を読んだ。


「………」


 ……はっきり言ってこの子たちは助けられない状態であった。


 薬物投与、他種生物の遺伝子の人間への組み入れ、人工的に作られた有害物質で出来た臓器の子ども達への移植、皮膚・骨等を変異させ異形のモノにする手術……能力者を捕まえるためだけにこんなことをしていた。


 記録の内容からして水や鏡などの映し出せるものから見える創無も捕獲、擬似的に再現しようとして子供たちをただの醜い化物にしようと……もうしていた。


 ……何人かはもうすでに肉体が人間とはかけ離れていた。


 死体もいくつかあり、おそらくこの子たちもいずれ身体の負担が限界を迎え苦しみながら家族に会いたいと懇願しながら死ぬだろう。


 問題は死ぬ前に改造された身体で暴れられた時の被害である。


 生身の人間ならともかく、あの状態で暴走されたら20人相手では流石に一人では抑えきれない。


 何より街へ出たらその時点でアウトだ。


 理性が保てなくなったらあの子たちはたくさんの人を殺すことになる。


(……だから街の近くに施設があるのか……?)


 この組織は一般人を被験者にしようとしていた、おそらく暴走させるための洗脳の類も施されているだろう。


「………」



 弘太は再び長刀を手に取り、子ども達へとゆっくりと歩き始めた。


 おそらく子供たちで中で最年長であろう少女が叫び始めた。


「嫌__! 死にたくない! お願いします殺さないでくださいお願いしますお願いします殺さないでください!」


 その願いは届くこともなく次の瞬間、少女の体から頭部が切断された、苦しむ間もなく。


 子ども達はその光景を見た瞬間、一斉に叫んだり泣いたり逃げようとしたりし始めた。


「イヤアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!」


「___うわぁぁぁぁん_! パパ! ママ! 怖い 怖いよ 助けて!」


「嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ パパとママに会いたい!まだ死にたくない!」


「逃げなきゃ殺されちゃう……おじいちゃんおばあちゃん待っててね、会いに行くから!」


 子ども達には弘太がただの凶器を持った殺人鬼にしか見えなかった。


 その間にもどんどん殺されていく子供たち、弘太は依然、無表情のまま殺していく。


「ごめんなさいごめんなさいごめんなさい何でもしますから、言うこと聞きますから殺すのだけはやめてください、ごめんなさいごめんなさいごめんなさ___」


「………」


 残ったのは少年一人だった。この少年を殺せば任務は終わる。


「――――――うぅ」


 その時、少年の体の一部が変異し始めた。


 足がタコの足のようなものになり、腕は鳥の羽がいくつも生え、爪は恐ろしく尖り謎の液体を放出していた。


 胴体から動物の死体があちこちから突き破って出ており、顔はグチャグチャで元の顔を認識できなかった。


 ……唯一、これが普通に生きてた生物であるとわかるものがあった。


 涙であった。涙を流しながらこちらへ向かってくる。生きるために苦しみながら抵抗しているようなそんな感じを思わせた。


(……終わりだ)


 ……体は一瞬で切り落とされ、少年は散った。


 ………彼はまた罪を背負った。一生許されることのない罪を。子ども達を殺した罪を。子ども達が犯したかもしれない人殺しの罪を。また一つ彼を地獄へ落とす罪であった。


「……任務終了」

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