表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
魔王使いの召喚士  作者: 雨冷 止雲
プロローグ
2/2

教訓2、笑顔を絶やず

「んん~」


 目を開くと、そこには石の天井があった。

(ここはどこだ?)

 俺は見慣れない天井に疑問を抱き、記憶をたどる。


 しばらくすると、徐々に記憶が甦ってきた。

 部屋でゲームをしていたこと、異世界の住人に呼ばれたこと、慌てて着替え始めたこと……

(……別に着替えにそこまで必死になることなかったな)


 俺は召喚される前の四十秒間の自分の行動を反省する。

 しかし、誰だっていきなり四十秒後に異世界に飛ばされると言われたら慌てるはずだ。

 よって、俺は一切悪くない。

 

 しっかりと反省を終えた俺は、現在の状況確認した。


 まず、俺はベットの上に寝ていてる。

 服装は召喚された時のままで、シャツととパンツと腰にタオルを巻いてあり、手にはスマホが握られている。


(この格好じゃ寒いな)


 季節は多分元の世界と同じなのだろう。

 部屋が石造りなことも重なり、部屋の中は肌寒い。

 

 寒さをこらえ、起き上がり部屋全体を見てみる。

 部屋は石造りで、床には一つの魔法陣が描かれている。召喚の儀式がどういうものかは分からないが、多分俺はこの部屋で召喚されたのだろう。

 本当ならベットから出て確かめたいのだが、自分の格好が人前に出るの不相応なので出ることができない。


(まぁ、理由はそれだけじゃないけどな)


 ギィー


 そんなことを考えていると、部屋の扉が開き人が入ってきた。


 まず目に入ったのは、その真っ白の髪で、目が隠れるくらい伸びていて、顔が見えない。

 背は一六十くらいで、ローブを身に纏っている。


 いきなりの訪問者に少し身構えていると、部屋に入ってきた人物は、


「こんにちは」


 と口角を上げ挨拶をする。


 声と身長からしてたぶん中学か高校生くらいの男だろうか。


 髪の色から年寄りだと思っていたので驚く。

 さらに、俺はその声に聞き覚えがあった。


「アゼツ……だっけ」


 俺は自分の記憶にある名前を呟いた。


「はい、改めまして、わたくしこのエレミア国で召喚士をしているアゼツ・ホーカソンと申します」

「えーと、日本出身の佐茂夜月さもないと、こちらこそよろしく」


(やっぱり、日本語は通じるみたいだな)


 召喚される前にも日本語を使っていたので、予想はしていたが、いざ人と話してみるとやっぱり安心する。


「そういえばアゼツ」

「なんですか?」

「……召喚するならもっと時間に余裕を持たせてくれ」


 と言いながら自分の格好に目を向ける。

 アゼツは俺の言葉にアゼツは苦笑いしながら、


「あっ、着替え、間に合わなかったんですよね。もうすぐ服が届くと思うので、大丈夫ですよ」

「そうか……」


(どうやら事情は理解してもらえてるようだな)

 ベットに体を預け、俺はそのまま目を閉じる。


「えっ、どうしたんですか? 急に目を閉じて?」

「悪いがアゼツ、一つお頼みがある」

「はい、なんでしょうか」

 明るい声色でアゼツが答える。


「ここに女性を連れてきてくれ」

「はい? どうしてですか」 

「どうしてって、召喚された主人公の目覚めには大体女の子がいるものだろ?」

「……」

「……」


 場に沈黙が訪れた。


「……ちょっと言ってる意味が分からないのですが、すでに起きているじゃないですか」

「アゼツ、いいか」

 俺は真剣にアゼツを見つめる。

 ……目は閉じたままだけど。

 

「はい?」

「…………ベッドから出るまでが睡眠だ」

「何を言ってるんですか」

「Zzz」

「いや、寝ないでくださいよ、国王様がお待ちしているんですから」

「なら包容力のある、しとやかな美少女に起こさせろ!」


 俺は熱く訴える。


「今ここに女の子なんていないですよ!」


 アゼツもだんだん面倒臭くなってきたのか、語気が荒くなってきた。


「いないなら連れてくるんだ! 包容力のある、しとやかな美少女に『早く起きてください』と体をゆすってもらって……いや、目覚めのキッスのほうが――」

「なんで注文がどんどん気持ち悪――じゃなくて長くなるんですか!」

「時間が経てば経つほど膨れ上がる、それが男の欲望というものだろ」

「……」

「……」


 再び場に沈黙が訪れる


「とりあえず宮殿の外にいる女性の方を探してくるので、もっと条件を短くしてください」

「アゼツ……」


 俺は羨望のまなざしでアゼツを見つめる。

 ……目は閉じたままだけど。


 そして、俺は切実に頼みこんだ。


「美少女を連れてください、お願いします!」

「……これはこれでキモいですね」


 目を閉じていても、アゼツが引いているが分かる。


「とっ、とにかく、そうしないと意地でも起きないからな」

「……分かりましたから、待っていてください」


 アゼツはそう言うと、ため息を吐き走って行った。


(さぁ、今のうちに寝るか)


 扉が閉じる音を聞いた俺は、肩まで布団をかける。

 アゼツには悪いことをしたが、せっかく異世界に来たんだから楽しまないとな。


 …………ギィー


 アゼツが出てから10秒も経ずに、扉の開く音が部屋に響いた。


(おぉ、早いな)


 コツン、コツン、コツン


 足音はどんどん近づいてくる。


(どんな娘かな)


 足音が近づくたびに胸がドクンとはねる、ついに俺の傍で止る。


 そして、


「いい加減起きんか馬鹿者が!」


 ザッバーン


「うばばば、冷たっ!」


 いきなり顔に水が落ちてきて、俺は飛び起きる。

 水は俺の体温をどんどん奪っていく。


「何すんだ、寒いじゃねぇか!」

 怒鳴りながら片手で髪から伝わる水を拭う。


 横を見ると、すぐ傍には四十代くらい男が俺を睨んでいた。

 男は髪と瞳は黒く、革製の服を着ていてその手にはバケツが握られている。

 身長が180cmくらいでガタイが良く、正直、結構怖い。


「……アゼツ、まさかこいつが女とか言わないよな」

 俺は部屋の入り口でこっそり覗いているアゼツに問いかける。

「い、いやー女の子を呼ぼうとしたんですが、部屋の外にオニキスさんが居て……あっオニキスさんていうのはそこに居る――」

「分かった、分かった、このオニキスっていうオヤジが止めたんだろ、まったく風邪ひいたらどうするんだよ」


 俺はオニキスを睨みつける。


「なんだ、そっちの世界のバカは風邪を引かないんじゃないのか」

「どういう意味だ!」

「その恰好でバカじゃないなら他に誰がバカなんだ?」

「40秒で着替えられるかよ、分かんないのか?」


 俺とオニキスがいがみ合っていると、慌ててアゼツが割って入いる。


「まぁまぁオニキスさん落ち着いてくださいよ、佐茂さんも美女はいませんが…………ほら、濡れてビジョビジョでしょ、なーんて、ハッ八ッハ」

「……」

「……」

「ハハハ……」

「……」

「……」


 再び場に沈黙が訪れる。


「……ゴメンナサイ」


 凍った空気に耐えられなくなり、アゼツが謝った。


「……ヘークションッ、寒いな」

「ほら、これに着替えろ」


 俺が寒さに震えているとオニキスはそう言うと服を差し出した。

 どうやら、オニキスは服を持ってきてくれたようだ。


「……サンキュー」

 俺はお礼を言いながら服を手に取り着替え始めた。



~~~~~~~~~~~~


「はぁー」

(あーあ、女の子がに会いたかったなー)

 俺は深くため息をつく。


 その後、俺は革製の服と靴に着替えて、現在俺は歩いている。

 服や靴はあらかじめ用意してあったのか、サイズはピッタリだった。


 アゼツは用事があるらしく、一緒に部屋から出ると走って外へと行ってしまった。


 オニキスに連れられて15分程歩いただろうか、この堂内の奥までたどり着き、俺たちは立ち止まる。

 そこにあるのはアーチ状の入り口とそれを塞ぐ赤い扉だった。


「これから国王に会ってもらう、失礼のないように」

「分かってるって」

 俺がそう言うと、オニキスは呆れたようにため息をつき扉の前まで歩き力強くノックする。


「モルダ国王、佐茂夜月をを連れて参りました」


 そう言うと、ゴゴゴと音をたてて徐々に扉が開いていく。


(いろいろあったけど、異世界に連れてこられて、王様のもとに案内されるってことは、やっぱり勇者になれとかそういう事だよな)


 期待と緊張で震える足を動かし俺は部屋の中に入る。


 部屋の中は壁、床、天井すべてが金色で床にはレットカーペットがひかれている。

 カーペットは壇上まで続いていて、その先に椅子に座った男がいた。


 男は深緑色の目と髪、深く刻まれたシワと鋭い眼つきで座っている。


 ……座っているのだが、


「……国王、その恰好は何でしょうか」

 オニキスは顔を強張らせて前の男に尋ねる。

 

「うむ、昨日ヘーリオから、向こうの世界の王様はこの格好をすると聞いてな」


 そう答えた国王は大きな王冠をかぶり、マントを羽織り、かぼちゃパンツを履いてた。

 ただでさえ絵本の世界みたいな恰好なのに、顔が荘厳なだけに余計にバカっぽく見えてしまう。

(いつの時代の国王だよ)

 さすがに、相手が一国の王ということで口には出さず心の中でツッコむ。

 というか口を開けたら笑ってしまう。


(いや、時代背景としてはこの格好で合ってたりする……わけではなさそうだな)

 片手で頭を抱えたオニキスを見てそう確信する。

 俺は腹を抱えて笑いそうになったが、指の間からオニキスに睨まれて、笑顔のまま笑いをこらえていた。


「ヘーリオにですか……」

 再び国王に顔を向けオニキスが確認する

「そうじゃ、似合っておるかの」

(まぁ、これは別のベクトルでファンタジーだけど)

 どうやらヘーリオと呼ばれる人物に言われてその恰好をしているようだ。


「よくお似合いですよ国王様」

 オニキスが今までの仏頂面と正反対の笑顔で答える。

「そうだよな佐茂」

 そして同じ顔のまま俺に同意を求める。

 正直これはこれで、怖い。


「……っく、ふふふん、ぷぷっ……」

(だめだ、しゃべったら笑ってしまう)

 オニキスが怖いには怖いのだが、人間一度笑いのツボにはまるとそれをこらえるのは難しく、しゃべるのはもちろん、返事もろくにできない。


 ガンッ


「ぷはー、痛ってー」

 笑いを我慢しているとオニキスに思いっきり足を踏まれた。

「何しやが――」

「似合ってるだろ? 笑顔で答えろ」

 文句を言おうとする俺に、オニキスは依然ニッコリとして問いかける。


「お、お似合いですよ」

 いろんなものを我慢して、俺も笑顔を作り国王に言う。

 その言葉を聞いた国王も、

「よかった、よかった、昨日急いで作らせた甲斐があった」

 と微笑んだ。


 みんな笑顔のはずなのに、何とも言えない沈黙が広がっていた。


(あれ、俺笑ってるよな、笑わないように、笑えてるよな)

 そんな俺たちの様子を気にも留めず国王は俺の方を向いた。


「では、改めて異世界の者、いや佐茂夜月よ、よくぞ参られた」

「え、あっ、はいっ!」

 国王の顔が少し真剣になった。


「ハッハッハそんなに震えて、そう緊張しなくてもよいぞ」

(笑いそうになって震えてるんだけどな)

 国王を直視していると吹きだしそうになるので、オニキスの方へ顔を向ける。


「ヘーリオの奴、あとで絞める……」


 青筋を立ててオニキスが物騒なことを呟いているが、気にしないでおこう。

 おかげで緊張感が戻り、再び国王を見る。

 少し腹筋がいたい。


「今回我らがお主を呼んだのは、お主に頼みたいことがあるからなのじゃ」

「はい!」

「この国は昔から魔王が率いる魔族と人間が対立しておる」

「はい」

「そしてそのたびに勇者は魔王を倒してきた」

「そこでじゃ、お主にはこれから勇者――」


(勇者キターーーー、やっぱり、異世界召喚で国王に呼ばれるってことは勇者だよな。 高校卒業してから勇者っていうのは年齢的に微妙だけど、まぁギリギリセーフだよな。)


「……モ」


(さっきはオニキスに邪魔されたけど今度こそ美少女をこの目に拝んで、あわよくば仲間に入れて――)


「…………モ……佐茂!」

「えっ」

 オニキスの呼びかけに俺は我に返る。


「国王様の話を聞いていたか」

「あ、ごめん聞いてなかった」

「バカが」

「まぁ、オニキスそんなに怒らなくてもよいではないか」


 不機嫌なオニキスを国王がなだめる。

(というかオニキスの悪口のレパートリー少ないな)


 国王は顔を俺の方を向ける。


「では、佐茂夜月よ」

「はい!」

「お主に勇者――」


 ゴクリ


 俺は唾を飲みこむ。


「――を召喚してもらいたいのじゃ」

次でプロローグ最後です。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ