クドイガキ、ヤバイドク 前編
キャスパー、グレー・ゴースト、フールムーンの旧友トリオがガキの要塞をゆく
前回までのあらすじ シルバーナイトを倒し、スケアリードラゴンことキャスパーを助け出した一行であったが、生態研究所でであった「キマイラの魂」やシルバーナイトの変わりようにはいまだ謎が残っていた。
ジャスティスシティが銀色の殻に閉じ込められたのは今から数か月前になる。
街への立ち入りが禁止されたのはさらに前の話になるが、まさかこんな異様な銀の卵が出来上がるとは作り上げた張本人たち以外は考えもしなかっただろう。
この卵が象徴するものは支配か、それとも守護か。
「へぇ~おじさんも大変だったんだねぇ」
「そうよぉ、ずーっと人間に化けてたもんだから疲れやすくなっちゃっててさ」
生態研究所を後にしたキャスパーとフールムーンは、例の警備ロボを蹴散らしながら雑談に花を咲かせていた。
飛びかかってきたロボのうち一匹をキャスパーのたくましい腕が持ち上げる。
「街の人はどこ行ったのさ、あっちみてもこっちみてもこのポンコツばっか」
「まさにゴーストタウンって感じよね。さて、ヘンリエッタ、聞こえるかい?」
通信機から「ハイ、マスター」と声がした
ヘンリエッタは今、生態研究所で何があったかを調べるために別行動をしている。
「マスターの言った通り、シルバーナイトがいなくなった後の建物はもぬけの殻です、はい。
でも黒い液体だらけで気持ちが悪いことには変わりありませんね、はい。でも私本当に戦闘は無理なんで
もしもの時はすぐに逃げますからね」
「わかってるよ。じゃ、何か有益な情報があったら連絡して」
通信を切る、一人にしておくのは若干心配ではあるものの今のフールムーンにとって最優先は仲間を集めること。今は別の仲間がいると連絡のあった「ボタニカル科学研究所」に一刻も早く向かわなくてはならない。
「ボタニカル科学研究所」とは「アプリコット生態研究所」と共にジャスティスタウンを盛り上げた科学研究所の事である。ボタニカルとはヒーローたちを先進的な科学力でサポートしてきた天才博士の名前である。一瞬でけがを治す薬や、パワーを一時的に急上昇させる薬など効力様々効き目抜群の薬を次々に開発していた場所である。
「よぉ旦那、キャスパー。待ちくたびれたぜ、研究所はこっちだよ」
一匹の蝙蝠がフールムーンに話しかけてきた。控え諜報員のグレー・ゴーストの使い魔のようだ。
キャスパーが追っての警備ロボを口から吐くその炎で足止めしてから、科学研究所へ突入する。
「ハイお疲れちゃん。悪いね」
「ナビのねーちゃん他のとこやっちまったんだろ?ま、ここは慣れてるからよ」
蝙蝠が二人を先導する。彼の使役する動物と言えば蜘蛛やトカゲ、そしてこの蝙蝠のような
不吉なものが多い。本人は友達と称して仲良くしているが駄目な人には駄目な見た目である。
それにしてもこの研究所も中々にさびれている。電気さえついておらず薄暗い、まるで廃墟だ。
「人影を見たところは二か所だ。研究所長室と大研究室。一人は大研究室で新薬でも作ってるみたいだぜ」
「ボタニカルか?」
「いや、ちげぇな。どっちの人影もボタニカルの体型と一致しねぇ。それに」
蝙蝠はそこで一瞬口ごもった。
「こりゃあ確かな情報じゃねぇんだがよ。野郎、ブタ箱ん中ブチこまれたらしい」
寂れた研究所に驚きの声が反響する
「えぇ、家畜にされちゃったのぉ!?」
「おバカ、そんなに恐ろしかないよ。そんなことよりだな、やっこさん何しちゃったわけ」
「それがわかりゃ苦労しねぇよ、あくまで噂だ。風のうわさ」
バツが悪そうに二人の先を飛ぶ蝙蝠に、レーザービームの光がかすかにあたった。
突然、所内に明かりがつく。
三人の前にうっすらと透けた人物が立つ。
『これはこれは魔王様。へっぽこドラゴン連れてご帰還かい』
大きな黄色いヘルメットにオレンジのつなぎ。小柄な体を宙に浮かせた少年
エスパーな能力を使いこなす彼を人はこう呼んでいた「サイコボーイ」と
説明しよう!サイコボーイとはヒーローチームスターファイアの超能力担当の天才少年である!
本名スタンリー・ガルシア。齢5歳にして才能を開花、能力に見合った頭脳でチームに貢献してきた。
性格はひねくれているがチームに対する情の厚いニクメナイヤツだ!
『シルバーナイトがお世話になったみたいだね。ま、アイツはまだまだ甘さが抜けないから心配ではあったんだけどさ。今度はこの僕がお相手するよ』
「大きくなったねぇ、今いくつ?」
『14だけど』
「14だっておじさん」
「ほんとに?子供が大きくなるのは早いねぇ」
ホログラムの少年があからさまに不機嫌になる。
『子ども扱いしてんじゃないよ!』
「あらやだ反抗期だわ」
『ちーがーう!ともかくお前らは僕の分身、サイコキッズがお相手するよ。これるもんなら来てごらんよ...フン、じゃ、頑張って』
少年がふっと消える。その瞬間、小さな影が走るのが見える。
「あーあ。一筋縄ではいかないねぇ。で、あんたいつまで隠れてんの」
フールムーンの背中で隠れていた蝙蝠が姿を現す。
「見つかりたくねぇんだよできるだけ!アイツがいないとは聞いたが安心はできねぇからな」
蝙蝠がため息をついた。主ににて表情豊かなヤツである。
「そんなことより、旦那、キャスパー。くるぜ」
子供らの笑い声が響いた。空気を裂いてそこいらに捨ててあったビーカーや鉄材がフールムーンたちに向かってひとりでに飛んでくる。
「なぁるほど。自分とおんなじ能力のお友達作ったのね。だけど」
キャスパーが自らの腕を大きな翼に変え、フールムーンを包む。
突き刺さるはずだった様々な凶器が鋼の皮膚に跳ね返る。
「こんなクズじゃあボクにはささんないよーっだ」
落ちた一つの鉄くずを手にとるキャスパー。
あたりに耳を澄ませ、ほんの小さな敵の動く音に反応して投げ飛ばす。
ギャッ、という声と共に少年の形を模した何かが落ちてきた
「やった~ナイスショット」
鉄くずを引き抜くと、銅線が切れたようなバチッと言う音がした。
どうやらロボットのようだ。
「やっぱり生身の人間じゃないようだな。そこはしっかりヒーローってわけか」
一匹仕留めたくらいでは奴らの動きを止めることはできないようだ。子供の笑い声がする。
「旦那、背後に三匹はいるっぽいぜ」
キャスパーが二発目の鉄くずを投げるが、それは敵にあたる前にこちらに跳ね返ってきた。
今度はフールムーンが氷の盾でキャスパーを守る。
「学習能力つきってか。手ごわいねぇ」
空中に黄色ヘルメットの少年が三人。フールムーンが地を強く蹴りサイコキネシスを使われる前に拳で二体破壊する。
ここから先はスピード勝負だ。一瞬でもためらえば容赦なくモノが飛んでくる。
キャスパーの剛腕もサイコキネシスで跳ね返されては仕方がない。
「できるだけ早めにやっちゃいなさい」
と子供に言い聞かせるようにキャスパーに囁いた。
さて自分も頑張らなければ名、と言うときに
『お取込み中のところすいません、ちょっと良いですか』
生態研究所のヘンリエッタから連絡が入った。
「あんまりよくないんだけど。急いで」
『あ、はい。その、私あんまりハッキングとか得意じゃないんで深い情報じゃないかもなんですけど、なんかパソコンいじってたらなんか出てきちゃって。なんだろ、新聞記事かなこれ』
「いいから早く!」
サイコキッズの放った重そうな機械をすれすれで避ける。
『その、キャスパーさんが異世界に送られて数週間後に、同型のキマイラが街で発見されたらしいです、はい。生態研究所と警察はキャスパーさんの差し金だと思ったらしいんですけど』
「ないね。あの子に部下は率いられない」
『そうですよね。でも、キャスパーさんの差し金ってことで世の中的になっちゃったみたいで。ハイ。アプリコット研究所長を率いるキャスパーさんの抹殺チームが組まれたみたいです。ああ、酷いな、シルバーナイトさんがこき下ろされてる』
「で、アプリコットの差し金で勇者が襲ってきた、と」
『や、それがどうもですね...計画が実行される直前に、アプリコット所長消えちゃったみたいです...血痕を残して』
そこで突然通信が遮断される。
サイコキッズが電波を遮断したようだ。
そこにまた現れるホログラム
『やあやあやあ、アンタにまだお仲間がいたなんてね。聞かせてもらっちゃったんだけどさあ、知らなくていいよねぇそんなこと。この街の事は何もかもあんたには関係ないんだからさ』
ホログラムの少年が指を鳴らすと、どこに隠れていたのか大量のサイコキッズが姿を現した。
完全に囲まれたらしい。
サイコボーイの精鋭「サイコキッズ」に囲まれた一行、そしてジャスティスシティに深まる闇
「知らなくていいこと」とはなんなのか、それがどこまでスターヒートに関係しているのか
フールムーンにはまだ知る由もなかった。