表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
6/7

苦痛の騎士は救えない 後編

シルバーナイトの刺客と戦うフールムーンは、生態研究所に新たな謎を見つける。そして今回からはいる仲間は、スケアリーでキュートなヤツ。

前回、元仲間の一人がいるとの情報をつかみ生態研究所に潜入したフールムーンだったが

そこは苦痛にのまれた元ヒーローシルバーナイトの支配下となっていた。

敵の配下は不気味な黒い液体、何とか攻撃を避けてきたがその正体が実験体とされた動物たちの不死身の怨念体だという事実を知らされる。直後、今までのどの怨念より強い怒りを持った物体に不意をつかれてしまうのであった


黒い体を持った「それ」の体は明確な体を持たず、うねうねと揺らめいていた。

その口の部分と思わしきものが牙をむいているのが分かる。

「お兄さんいい黒光りだねぇ、焼いてる?」


相手の手が膨張し、巨大な拳が相手を砕かんと飛んでくる。

すんでのところでよけると、後ろの壁がいとも簡単に砕かれていくのが見えた。

「敵の攻撃方向が分かりません、逃げることをお勧めします、はい」

ヘンリエッタの分析もむなしく、変幻自在の黒いスライムが長く細い物体に素早く姿を変え、フールムーンに尾と思われる部分で一撃を繰り出した。

いともたやすく壁に打ち付けられる元魔王

「ざけんじゃねーッ!俺ァ肉弾戦苦手なんだよ!」

「さっきまで余裕みたいな顔して頑張ってきたじゃないですか!しっかりしてください!」

「無茶言うんじゃねぇ!戦いってもんは上から目線で楽しむもんなのよ!」


相手は脳みそもどこかわからない怨念の塊。こちらの焦りなど考えもせずに襲い掛かってくる。

つらら型のミサイルを空中に発生させ脳天に命中させるも、黒い液体が傷口に湧き上がってすぐに治ってしまう。直接凍らせてやろうにも相手がすばしっこくて捕まえられない。

攻撃と防御が折り重なり、らちが明かない状態となっている。

「分析不可能?なんとかならないかなぁ」

「せめて相手の元が何の動物かわからねぇか」

「えっと、はい、さっきの戦いを見てた感じだと、発現したときの見た目はゴリラに近かったと思います

はい。でも今は尾がある...トカゲ、ですかね。まさかとは思うんですけどキマイラ、ですか」

ヘンリエッタが口ごもりながら口にした『キマイラ』とは動物と動物を複合させてできたさらに上の強さを持つ生き物の事である。しかし、『キマイラ』をつくり、操れる人物は一人とされている。


「キマイラメーカー。彼がここで実験を行っていたって事でしょうか?」

キマイラメーカーとは、複合獣キマイラを量産し街の支配をたくらむフールムーンの元部下でありもっとも古い友人の事である。後に登場予定なので詳しい説明は省略させていただく。

「そうさな...いてもおかしかねぇ。しかしだなヘンリー、あいつはこんな出来損ないは作らねぇぜ」

「じゃあ」

「ヤツ以外に不完全な複合実験をしたやつがいたってこったな」

ヘビの姿で這い回っていた敵がフールムーンに気が付く

「マスターって体温あります?」

「あー、最近はあるね。人間に変身してる期間が長かったからさぁ元々の体温わかんなくなっちゃって」

「じゃあ、奴に勝てるすべがあるかもしれません、多分。はい。化け物の時の勘を無理やりにでも思い出してもらいます、はい」

ヘンリエッタの入った手鏡に耳を近づける

「いいのかい、おじちゃん信じちゃうぞ」

「これで勝てなきゃもう勝てないです、はい」


黒い物体がまた蛇の姿に変わる。今度は噛みついてくる気のようだ

「二度も引っかかるかってんだよこのアーホ」

直後、フールムーンのいる壁一面が氷に覆われる。

ヘビのようなものがバランスを崩して床に落ちる。またゴリラに姿を変えようとした隙をついて

フールムーンの手がその頭らしき部分を掴み、瞬時に凍らせる。


「あ、あは、良かった、成功だ。蛇は敵を体温でしか見分けられないって昔聞いたんです、はい。

だから一面同じ温度なら戸惑いが生まれる、はい、珍しくお役にたちました」

「ひとまずここはありがとうと言っておくよ。でもこんな化け物が何匹もいちゃあ困るってもんじゃない。

早くあの勇者さんのところに行かないと」


一方その頃、シルバーナイトは自らの手で八つ裂きにし、ホルマリン漬けにした『かつての友』をじっと見ていた。かつての彼は動物と名のつくものならばどんなものにも優しく、慈愛の心を持って接してきた。

恐ろしい姿をしたあのキマイラだって、彼の手にかかれば借りてきた猫のようにおとなしくなったものだ。

化け物の姿に変えられてしまったものも出来るだけ元の姿に戻せるように努めてきた。

しかし目の前の友人だけは元の姿を取り戻すことはできなかった...


彼の後ろの扉が勢いよく蹴破られる音がする

「やぁ勇者ちゃん。やっとあえたね」

「あのキマイラの怨念さえも倒したというのか。月の魔物は格が違うな」

「やぁめてよ、照れるじゃないのさ。で、褒めてもらったとこ悪いんだけど、そこどいてもらえる?

うちの子連れて帰んなきゃいけないの」

シルバーナイトがゆっくりと振り返る。

当時の重々しい銀の鎧ではなく、体にぴったりとした薄い鎧。

黒く染まったその鎧と、怪しく揺らめく紫の剣。

そして、兜をはずしあらわになったその素顔。奈落のような瞳には何も映らない。

「残念だがそれはできない。お前をあの塔にはいかせない」

その瞬間、紫色の閃光がフールムーンの横を通り過ぎた。

彼の頬にすっと傷がつく。

「言っただろう、もうなんだって切り裂ける。進化したんだ。俺も、この剣も」

「どうだろうなぁ、自分の信念を捨てるのはよくないぜミスターナイト。誰に吹き込まれた価値観だ?」

「誰でもない、俺の決めたことだ!」

シルバーナイトが剣を構える。

一瞬の沈黙

「おいでよ勇者さん。俺を切ったら経験値がアホほど入るぜ」

ヒュッ、という音をその場に残して剣先がフールムーンののど元に届いた。

宙に化け物の首が舞ったと思われたが、地面に落ちたのはただの氷の塊だった。

―後ろを取られた

シルバーナイトがそう気づき、振り向いた時にはすでにフールムーンの拳が彼の頬にめり込んでいた。

「おいおいおい、そんなんじゃあさっきのキマイラのが素早かったぜ?もっと本気になれよ」

騎士の目に揺らぐ決意の炎が見えた。

「いつだって本気だ、俺は、俺はこの町の住民を守る」

「銀の卵に閉じ込めることと守ることはイコールなのかい。幼稚が過ぎるぜ」

「市民の安全を守ることが何よりの先決だ!俺たちの結論に理解はいらねぇ!」

また神速の世界に身をゆだねようとしたとき、目の前に鋭い氷の切っ先があることに気が付いた

「そんなひゅんひゅん移動してちゃあ避けられるもんも避けられんぜ。兜もしねぇでよ」

頭に攻撃を受けたシルバーナイトが床に転がる。

が、致命傷を受けたわけではないらしい。額から血を流し流しながら立ち上がる。

「なるほどな...全く未熟で嫌になるよ...」

ふらふらと立ち上がり、獣のように飛びついてくる。


「でもなぁ、未熟でも、殺すと思う決意さえありゃいくらでも強くなれるんだよ!」

大ぶりな剣さばきがフールムーンの右腕を切り飛ばす。

やってやった、と言う笑みが勇者に浮かぶ


「ボーヤ、狂気の悪役気取るにゃあまだ早いんじゃあないの」

フールムーンが左手を軽く振ると、勇者の体を剣を模した氷が貫く。

「カハッ」とのどから血を吐いて膝をついた。

氷の剣が蒸発する

「鎧も薄くなっちゃってまあ、仲間に直してもらいな。ボタニカルの転送装置、持ってんだろ?」

シルバーナイトが憎々しく唇をかんでいる。

「やはり、未熟、か。いや、殺意が足りなかった...そうだ、俺の心はまだ弱い...」

胸元から小さな装置を取り出すと、彼の体がシャボン玉のようなもので覆われた。

そののちシャボン玉ごと小さくなり、消えた。

鏡の中で縮こまっていたヘンリエッタが、久々に外の世界に姿を現す。

「いいんですか、逃がしちゃって。いや、文句を言うわけじゃないです、はい」

「いいの、彼には俺が昔の強さのまま帰ってきたってことを伝えてもらわないとね。今はこっちのが先よ」

フールムーンはドラゴンの入った巨大な容器に拳を一撃お見舞いする。

最初に小さなひびが入り、だんだん大きくなったそれが容器を破壊した。

流れ出てきたドラゴンのパーツが、外気に触れた瞬間に元の形に戻っていく。

ゆっくり体を起こし、天井に向かって大きな咆哮を一つ。

「おはよう、キャスパー」

ドラゴンがフールムーンのほうを振り向く

「あれぇ、おじさんじゃーん。久しぶりぃ」


説明しよう!彼の通り名はスケアリードラゴン!恐竜と翼竜と五歳児の脳で形成された複合獣である!

恐ろしいオオトカゲの顔と、火を吐くその口からは想像もできないようなゆるーいボイスと口調でしゃべるぞ!いかにもギャップ萌えという感じだがその腕力や攻撃力、再生力は異常に高いから普通に怖いぞ!

その昔、強大なパワーを操ろうと考えた一人の科学者が彼を作ったとされている。しかし、その科学者が誰かということやその本当の目的はあらわになっていない。ただ失敗したということは彼を見れば明らかだ。

彼はスケアリードラゴンと呼ばれるのを嫌い、自称本名である「キャスパー」で呼ぶことを好んでいるぞ!

フールムーンとはそれなりに長い付き合いで「おじさん」と呼んでなついている。

シルバーナイトとは敵であり友人という体制をとってきたが、最終決戦後に『勇者の親友』となり、別世界の大空に放されたはずだったが...?


「あれーでもおかしいな、なんでおじさんがいるんだ?」

「でもあなたってたしか別世界で暮らすことを受け入れて街からは離れたはず...よね?」

ヘンリエッタは最終決戦後もしばらくは街に残っていたので事の顛末はなんとなく理解している。

数週間もしないうちに元仲間の追跡を恐れて逃げ出したのだが

「そうそう、で、いつもみたいにお空飛びながらごはん何にしよかなーって考えてたら、そう、勇者さんが見えたの。だから、どーしたのかなーってあいさつに言ったらなんか良く分からないけどバラバラにされちゃって。気が付いたらこんなとこにいたわけ」

「あの、大丈夫ですか?だいぶバラバラになってましたけど」

「だーいじょーぶ。ってかあんた誰?」

「俺の新しい友達のヘンリー。仲良しできる?」

キャスパーはヘンリエッタの顔をまじまじとみると

「できるよーっ!僕キャスパー、よろしくね」

「ヘンリエッタ・ミラージュです、その、よろしくお願いします」


かつての仲間を取り戻し戦力を一つ取り戻したフールムーンであったが、シルバーナイトの変貌っぷりに

不信感を抱いていた。ヒーローたちの身に何かがあったことはたしかなのだが、その情報はまだ少ない。

とりあえず先に進むことでしか謎のしっぽをつかむことはできないのであった。



同刻、ボタニカル科学研究所

その屋上で一人、少年の影

「そう。シルバーナイトがやられたみたいだよ。今手当てしに病院に向かうって連絡が入った。

致命傷じゃないと思うよ。あくまで僕の見解だけどね。うん、多分次はこっち。

例の薬品は順調に完成に向かってる。フールムーンがなんだい。僕に任せてよ、スター」

通話を切った少年は、少し間をおいてその場からスッと、魔法のように消えた。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ