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苦痛の騎士は救えない 前編

ようやっと仲間の足取りをつかんだ一行だったが...?

第一の刺客、刺客ではないかもしれないが、元ヒーローチームメンバーの一人であるテディベアル三世を

打ち倒したフールムーンとヘンリエッタであったが、スターヒートの情報も得られず、味方も発見できず。

結局のところ何の収穫もなくまた外に出てきてしまっていた。

「ま、考えなしに進めばこうもなるわーよね」

「いかがしましょうか。また心当たりを検索してみるにしても...少々時間がかかります」

「いや、大丈夫。もしもの時に備えて助っ人は用意してあるわけよ」

フールムーンが耳に何かつける。どうやら昔懐かしのイヤホン式通信機のようだ

「ハーイ、グレー。中には潜入できた?」

『お陰様でね。溶かした門は別のものでふさいでおきましたぜ。ま、もう少し弱めに作ってくれりゃあもっと早くこれたかもわかりませんが』

ふと、覆われた銀の天井に鳥が飛んでいるのが見えた。

鳴き声からしてカラスである

「文句なら後で聞くよ。で、どうだい」

『今調べてきてもらった情報だと、生態研究所のほうに見覚えのあるやつがホルマリン漬けにされてるみたいだ。つかまってる容器の大きさからすると』

「キャスパーか」

『ご名答。んで、キャスパーに因縁深い奴つったら一人しかいねぇ。あんたの敵じゃないだろうが、気をつけなよ、旦那』

「はいはいどうも」

イヤホンを外しながら、南西の方角を指さす。

「生態研究所だとよ。ああ、今のは昔からの友人でね。幸い奴らにもつかまってなかったみたいだから助けに呼んどいたのよ」

説明しよう!といいたいところだが、それは彼が正式に登場してからのお楽しみとしよう。

「はぁ、偵察に優れた人なんですね」

「あとであんたにも紹介したげるよ。今は生態研究所だ、知り合いが待ってる」


アプリコット生態研究所。そこは、一万を超える種類の動物たちの生態を研究し、その性質を化学などに応用する方法を研究するところとして知られていた。危険度の低い動物たちを一般市民に公開し、自然と触れ合うことの大切さを説いていた場所でもある。

それが今となっては、動物たちの声は聞こえず静けさだけがのさばっている。

あの豊富な動物たちはどこへ消えたのだろうか。

しかし、全く使われていなかったというわけではないらしい。誰かの通った形跡がある。

フールムーンたちは、もぬけの殻となった檻のそばを歩いていた。

「やけに静かじゃないのさ、またスカってこたぁないでしょうね」

「お知り合いの言葉ですから、信じたほうがいいと思います、はい。見切り発車ではないぶん期待できますよ」

エレベーターは...故障しているようだ。動いた形跡がない。

仕方なく階段を上っていくと、何かが金切声をあげて飛んできた。

何の驚きもなく、それを握りつぶすフールムーン。

手の中にいたのは、生き物ではない。黒い液体であった。

マスター!とヘンリエッタがあわてた声を出す。

「なんだ、どうした」

「階段を上りきった先に複数の敵が確認できました。でも、ロボットでもなければ生き物でも無いみたいです、はい」

階段の上から、黒い物体からの攻撃が飛んでくる。それをよけながら登りきると

そこは先ほどまでの、動物園のようなものとは明らかに違う、例えるなら魔界のような紫色の空気を満たした場所であった。

『ようこそ、フールムーン』

園内放送用のスピーカーから、青年の暗い声が聞こえてくる。

「おお、その声はお前、アレだ。シルバーナイト。あれぇどったの、なんかつらそうじゃない」

説明しよう!

シルバーナイトとは、その名の通り、銀の甲冑に身を包み、悪しき心を切り裂き戦う

ヒーローだ!普段はペットショップで働く控えめな青年マーベル・サイモン、しかし街に危機が迫ったときは選ばれたものにしか使えず、主人の性質により効力を変える剣、ボー・ソードで戦うぞ!

彼の心はあまりにも優しく、敵でさえ傷をつけず平和的に問題を解決したいと思っている。

その優しい心で振られる剣は、敵の悪い心だけを切り、更生させることができるぞ!(フールムーンはそもそも罪悪感というものすら持っていなかったため切ることができなかった)

『冷静になっただけだ。ここに来たということはあのドラゴンを助けに来たということだな。俺は5階の大研究室にいる』

「そこでヤろうぜってか。いいのか?お前のなまくらじゃ俺は切れない」

『いや、もう切れる。真っ二つにしてやれるさ。俺もあれから変わったんだよフールムーン。今やこの剣はなんだって切り裂くことができる』

そこでぷつっと、スピーカーの音が途切れる

と同時に、地面から例の黒い物体が這い出てきた。

「敵です、前に十数体のみ。姿を現さなければ探知できないタイプのようです、はい。いかがなされますか」

どろどろと蕩けた動物のような何かが襲ってくる。

悲痛な叫び声をあげながら。

「避けられないってんなら正面からやってやるしかないさ」

弧を描くように形を模した液体を切り裂く。切った、という感覚はない。

ぴしゃん、と床に落ちたそれらがまた液体から個体へと姿を変える。

「キリがありませんね、冷凍攻撃をおすすめします」

「今そうしようと思ってたところだよ、もう」

地面に冷気を流し、液体から個体へ。

固まったはずなのにうごめくそれは、何とも不気味なものであった。

床からしみだしてくるそれらは、はっきりとした言語を持たずただひたすらに叫んだりへばりついたりを繰り返していた。

フールムーンも趣味がいいほうではないが、これには参ってしまう。

「で、これいったいなんなの。なんかの動物?」

「うまく分析できないんです、はい。なんかすごくドロドロしているということしかわからんです。

動物性のモノでもなければ、機械でもないし、オイルみたいだけど明らかに違うし...触っていると気が滅入ってきます。あ、それはいつもの事か」

何とか三階ではたどり着いたが、依然あの黒い液体集団の正体はわからぬまま。

何か明確な意思があるわけでもないように見える。時々よけきれずに液体を浴びてしまうがそれは体をむしばむというより、助けが欲しくて縋り付いているかのように思えた。

『ソレがなんなのか知りたいか、フールムーン』

天井からシルバーナイトの声が聞こえる。

『知りたければ三階のいずれかの部屋に入ると良い。ここで何が起こったのかを知ってから俺のところに来ても遅いことはない』

彼の声は相変わらず重いのかどうかわからない。

一瞬、フールムーンのひねくれが顔を出して、無視して先に進んじゃおうかな。とも思ったが

正体不明の敵について何も知りたくないわけじゃない。彼は「第六研究室」と書かれた部屋に入ることにした。

「そういえば、二階以降ってはじめてきます。下のほうの動物園しか見たことありませんでしたから」

「だろうねぇ。それ以降は解放されてなかったんだから。さて、なにがでるかな。俺だったら液体型新兵器としてこいつらを水道に流して街を襲うね」

ドアを開け、そこにあったのは複数の檻と様々な薬品。そして


数々の動物の屍の山

「ほーう。ま、そりゃ研究なんてそんなもんよなぁ」

『ただの研究だと思うか?違うな。これはある目的のために必要以上に動物達のちからを研究した結果だ』

「ある研究」

『人間の肉体のさらなる発展。限界への挑戦。簡単に言うと、ヒーローを作るための新薬の実験体なんだ。こいつらは。俺たちがいつも使っていた回復促進剤、そしてパワーアップドリンク。どれもいきなりヒーローの体で試すわけにはいかないだろう?だから試行錯誤を繰り返したんだ。そして、高い能力を持った動物からその能力を吸い尽くす。そうやって成り立ってたんだよ、俺たちの戦いは』

シルバーナイトの低い声と対照的に、フールムーンのバカにしたような笑い声が響く

「あんたも中々マヌケねーぇ。そりゃ成功の裏には対価があるってもんよ。あんたそれで勇者のくせに魔王じみた声なんか出しちゃってたわけ」

『成功、か。俺たちが救ってきたものの数か」

悪役ぶった騎士が笑った。いつものように明るく突き抜けたようなものではなく、自嘲的なものだが。

『救ったものさえなかったんだよ』

クツクツとした笑いが次第に大きくなっていく

『さて!フールムーン、俺の剣は持ち主の性質によって変化する剣だ。前までの俺は悪の魂だけを切り善の心を呼び覚ますものだったが...今の俺の剣はこうだ。苦痛に満ちた魂を呼び覚ますことだってできるんだ。さて、この場所に苦痛を感じた魂はどれほどいると思う?』

あちらこちらから例の黒い物体が現れる。しかしそれらの性質は先ほどとは違う。

明らかな怒りをはらんでいる。

「図ったなシルバーナイト」

フールムーンが舌打ちをする。さてどうするべきか


怒れる魂に囲まれたフールムーン。この危機を乗り越え、仲間を助けることはできるのか?

悪意に満ちた元騎士にとらえられたドラゴンとは?

待て次回!


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