恐怖のぬいぐるみ後編
二つで三話。次は五話ですね。間の数字が抜けてますか?縁起が悪いので言わないだけです、話に支障はないと思います。
前回、警備ロボからの猛攻から何とか逃げ切り中央地区の廃工場に逃げ込んだフールムーン一行。
ひと段落できると思ったのもつかの間。なんと廃工場は元スターファイアマスコット係、テディベアル三世の基地だったのだ。
激高するテディベアル三世の放った「恐怖のぬいぐるみ軍」の容赦ない銃撃が彼らを襲う!
はたしてここから無事脱出できるのか?
体の中に銃火器を備えたぬいぐるみの銃弾からすんでのところで厚い氷で何とか身を守る。
しかし敵の数も多い、ものの数分で氷は打ち破られてしまった。
生体反応を見失ったぬいぐるみたちが射撃をやめる。割れた氷の水蒸気の中はもぬけのからだ。
「抜け目のない奴め。さっさと探せ!」
テディベアル三世の怒号が工場の中にこだまし、ぬいぐるみたちは一斉に捜索を開始する。
一方その頃、何とか身を隠したフールムーンたちは
「見たことの無い警備ロボだな、新手かい」
「えっと、そうなります。過去にデータはないみたいなので、その、あまりピンとはきませんが、あのくまさんの作った最新兵器に違いないみたいです」
「はー、俺が見たときゃそんな技術力はないように見えたけど。人は変わるね」
鉄箱の中から外の様子を疑うと、あのぬいぐるみたちが目を光らせているのが見えた。
きっとここも時間の問題だろう。
「そういえばマスター。最終決戦のとき、あのクマさん、何してたんでしょう」
「ああ、スターヒートと一緒にいたよ」
「一緒に戦ったんですか?」
「いや、邪魔だからその前に叩き落とした」
少し気まずい沈黙が流れた。
いや、実際ふわふわしてるしかできないし、いても仕方なくはあるのだけど
そこまで役に立たないのは逆につらいものがあっただろう。
「ま、そんなもんよなぁ、デキないやつに見せ場はないのさ」
『誰ができない奴だって』
バッ、と後ろを振り返る。
テディの声を模したあのぬいぐるみ兵が、箱をこじ開けていた。
『いたぞ!』
どうやら見つかったらしい、相手が武器を出してくる前に頭をつぶす。
しかし仲間に居場所はばれてしまったらしい、数十の赤い瞳がこちらを見ている。
やむおえまいと氷のミサイルを作って発射するも、足止めになる前に破壊されてしまう。
「弾の威力が高すぎます、数個の氷じゃ無理みたいです、はい」
「いちいち相手にしてらんねぇ、一網打尽だなこりゃ」
地面を滑って逃げる男と、それを追いかけるぬいぐるみたち。
少しファンシーに見えるかもしれない。銃火器さえなければ。
「もうこの場に逃げ道は無いと思っていただこう。報いを受けるのだよ、フールムーン」
「あんたさっきから報い報いって言うけどさぁ、俺様が何したってのよ。あ、いいや心当たりが多すぎる」
テディは「何したってのよ」という言葉に目を光らせた。
モニターが工場の壁から離れ、浮遊しながらフールムーンを追いかけてくる。
どうしても聞かせたい話があるらしい。
「まだシラを切るつもりか!俺の主人...つまり、スーパーヒーローであるスターヒートが、あの人が心を病んだのはお前があの人の魂を穢したからだ!そうだろう!」
「そりゃどういう意味でよ」
「そうかそうか、そう来るならこの俺がズバリと言ってやろう。あの最終決戦からしばらくして、あの人は俺と会話を交わさなくなった。彼だけじゃない、チームの全員が輝きを失った。
もしかしたらヒーロー活動につかれたのかもしれない。俺は、今までのキャラクターを捨て、彼らに語りかけた。みんなよく悪と戦ってくれた、今はそれを祝福しようじゃないか。そしてまたヒーローとしてみんなでこの町を守ろう、と。スターヒートは今まで見たこともないような歪んだ笑みをして、俺を基地からブン投げた...そこで俺は気づいたよ。このスターヒートはいままでのスターヒートじゃあないんだと。
そしてこう推理した。お前はあの攻撃でバラバラになったように見せかけて実は気化して自分の分身をスターヒートの中に入りこませひそかに操っていた、そうだろう!」
フールムーンは逃げる足を止めた。
「ど、どうしたんですかマスター、敵が来ます、マスター?」
彼は答えなかった。
目の前のクマが自信に満ちた顔に、少し不安の色がうつる。
「そのとおりだよ」
トーンの落ちた声で彼はそういった。
クマの顔に喜びと安心がありありと浮かぶ。
まるでそう言って欲しかったかのように。しかしフールムーンの言葉はそこで終わらなかった。
「そう言ってやりたいのはやまやまだが、俺じゃあない。お前、俺がやられたとこ見てないだろ。
一瞬で蒸発させられて、そんなこと考える余裕もなかったよ。ほんの少しのかけらから、数年かけてやっと復活したんだ」
「嘘をつくな!俺だって...俺だってあの場にいたんだ」
完全なる否定を真っ向から浴びせられたそいつの顔は、お世辞にもかわいいとは言えなかった
「空は見えたか?見えなかったろうな。氷と炎がぶつかり合って雲ができてたんだからよう。
...それにしても不思議なんだがよ。お前、そこまでわかってて何故あいつを止めなかったんだ?」
「まだ完全な技術力がなかったからだ!」
「今はどうだ?なんでこんなとこでまだ燻ってんだ、お前。俺を倒す前にやることあんだろ、なぁ」
「うるさい黙れ!俺は、俺はお前の魔の手から主人を守るんだ!」
「いいぜ?やってみろよ。だがこれだけは本当の事だぜおいよく聞けよ。お前は、お前のご主人の計画から外されたんだよ。役にたたねぇと思われたんだ」
「断じて違う!違うぞ、俺は役立たずじゃあない!ちが」
最後まで言わせずにモニターに拳で穴をあける。
「ヘンリー、広間はあるか?探してくれ。例の一網打尽だ」
「りょ、了解です」
すぐ後ろにぬいぐるみが迫る。フールムーンはまた水蒸気で身を隠し、敵を錯乱した。
『テディベアル様、いかがいたしましょう。敵の動きがおかしいように思えるのですが』
「構うな追え!何としても潰せ!」
逃げる途中、ヘンリエッタは今の自分の主に先ほどの事を聞きたくて仕方がなかった
「何故、あんな煽るようなことを、その、おっしゃったんですか?」
「煽っちゃないさ。ただ俺のせいにしてくるもんだからちょっと腹が立っただけよ。しかも、アイツから得られる情報はなーんにもないって事がわかっちゃったしね。罠にかかってやったってのにこれじゃ骨折り損のくたびれもうけ。やっぱ横着しないで地道に心当たり探したほうがよさそうね。ところでヘンリエッタ」
「あ、はい」
「お前さん自分に忠誠心はどれくらいあると思う?」
「あ、もしかして疑われてます?大丈夫ですよ、裏切りはしませんから」
「でも俺がしくじったら一人で逃げようと思ってるでしょう」
「それは、その...場合によっては、はい」
フールムーンの口角があがる。
「いいのよそれで、無能で忠誠心があるやつよりずっとマシってやつさ」
ぬいぐるみたちがフールムーンの軌跡をたどっていくと、二階の食堂にフールムーンを見つけた。
部屋の中央に、隠れもせず敵が座っている。
ぬいぐるみたちは主人の言いつけどおりに全速力で走りながら攻撃を仕掛けようとした。
そのとき、戦闘のウサギが床が凍っていることに気が付く。止まる間もなく、バランスを崩しながら
全員が部屋に滑り込んでしまった。
「バァカね。アホ面こいて総攻撃なんかしかけるからそんなことになるんだよ」
部屋の天井には無数のつららがきらめいている。
フールムーンがパチンと指を鳴らすと、それらが音をふってきた。
銃火器程度では到底太刀打ちできない。結局、全員が氷漬けになってしまった。
当のフールムーンはというと、平然とした顔で氷の中から現れた。
「鏡のように映るものなら何でも入ることができる。お手柄じゃないの」
「鏡の能力なんで...地味ですけど」
その時であった、部下の失態にしびれを切らしたテディベアル三世本人が、ふわふわと現れたのだ。
「なんて失態だ...この俺としたことが、やむおえぬ、お前に俺の真の姿を見せてやる」
ぬいぐるみボディの、私かはいってなさそうなそれから、なぜか骨のきしむ音がする。
かわいいクマが恐ろしい化け物に変形する
のを待たずに、フールムーンがつららの槍をテディベアルの腹部めがけて投げる。
貫通したつららが、クマごと壁に突き刺さった
「いちいちクドいんだよマヌケ。ちょっと反省しとけ」
フールムーンが振り返らずに廃工場の壁を破壊して、外に出る。
「ああ、待て、待てフールムーン!逃がさないぞ、お前だけは、お前だけは絶対に許さんからな!」
役立たずの遠吠えだけが、氷温室と化した工場に響いた。
時同じくして中央地区アプリコット生態研究所
五階建ての建物の一番大きな部屋に、怪獣が液体づけになっているポッドが置かれている。
そのポッドの前に勇者風の男の影
「テディベアルの工場がやられただけだ。心配はない。ああ、やつならこの程度だろう。しかし、フールムーンを迎え撃つだけの準備はできた。手加減はしない、俺はもうそう決めたんだ...連絡は、してあるよな。ああ、すべてはスターヒートの考え次第だ」