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正面突破!ジャスティスゲート

第二話です。

ジャスティスタウン、かつてヒーローに守られていた町。

高度な技術の発展と豊かな資源により、多くの人がここで暮らすことを夢見ていた。

公園では子供が笑い、自然と機械が程よいバランスを保っていた。

有能なアイゼンバーグ市長、天才科学者ボタニカル博士、そして敏腕刑事マック・ドーナツ。

ヒーローのような特殊能力のない人間たちも、街の平和のために善処していた。

しかし今ではどうだろう、巨大な街は巨大な鉄壁により外界と遮断され

不気味な静けさに包まれている。

大きな鉄の門に、一つの冷たい風が吹いた。

「なぁにこのでっかいの。趣味悪いねぇ。やるならもっと愉快な色合いにすりゃあいいのに」

ドーナツ刑事との邂逅から数日後、フールムーンはジャスティスタウンの入り口に一人たたずんでいた。

鉄壁は街を完全に覆い尽くしており、上空からもその様子を見ることはできない。

「俺だったらもっとイかした作りにするね。例えばこう、宙に浮かすとか。そんなんどうよ」

フールムーンのそばにいつからいたのか、一人の女が佇んでいた。

フードでその顔を隠し、黒と白のゴスロリに身を包んだ陰気そうな女だ。

「えっと、私、そこら辺の趣味は良く分からなくて。何せしょぼい悪役だったもので、はい」

「強盗チームの一員だっけ?よくわかんねぇなぁ、そんなもんになーんでわざわざチームなんか組む必要があるのかね。まぁいい。頼りにしてるよ。えーと」

フールムーンも結構いい歳。人の顔と名前が一致しない。

「ヘンリエッタです。ヘンリエッタ・ミラージュ。えっと、フールムーン様直々のご指名、光栄です。

頑張ってご奉仕します、よろしくお願いします。はい」


説明しよう!彼女の名はヘンリエッタ・ミラージュ!強盗チーム「フォックス・イン・ザ・シティ」

の一員、元逃走経路用意係だ!鏡を使った能力を持つ地味で引っ込み思案な低知名度ヒールで、そもそも彼女のフルネームを知る者すら少ないぞ!最終決戦の時も鏡の中に逃げ込んでそのまま事なきを得ていたちゃっかり者だ!ちなみにフードの中身は絶対に見れないらしい。


「そうそうそう、ヘンリーちゃん。よろしくね。ほら手鏡」

ヘンリエッタは一礼すると、フールムーンのかざした手鏡の中へ吸い込まれるようにかくれる。

「ありがとうございます。私自身、戦闘能力はゼロに等しいので、そこのところは頼りにしないでもらえるとありがたいです、はい。では、フールムーン様、もといマスター。街の別入口にご案内します。まずは左方向に500メートル移動していただけますか」

ヘンリエッタの言うことに間違いはない。実際その位置から少し動けば、ヘンリエッタが街内部の鏡と道をつないでフールムーンごと瞬間移動させることができるのだ。

数年間逃げ道ばかり探してきた彼女ならではの手口だ。

しかしその提案をフールムーンが気に入るかどうかは別問題なのだ。

「なーに言ってんのよヘンリー。この月の大魔王様がそんなせこい手を使うと思ってんの?」

「で、ですが、マスター、言わせていただきますが、その、それ以外に侵入経路が思いつきません。はい。

街の中には警備ロボと思わしき物体が何体もうごめいていて、慎重に入らなければハチの巣にされます

はい」

「あらそうなの?てっきり町は空っぽだと思ってた。それは面倒だね」

「はい、ですから、どうか私の指示に」

従ってください。ヘンリエッタがそう言い切る数秒前に入り口の鉄門が、白い氷におおわれる。

間違いない、フールムーンの能力によるものだ。

「でもまぁ」

次の瞬間、ビシッと日々の入った氷ごと門が破壊される。

「関係ないんだけどね」

街への門が強制的に開かれ、街に押し入ってきた侵入者を警備ロボたちが発見する。

「マスター!焦りすぎです、台無しです、はい!」

砕けた門の代わりに氷壁がその場を陣取る。

「どうせ俺様のモノになるんだから、門のデザインくらいかっこよくしとかないとね」

「わりとそれどころじゃないです、はい、すでに十数体のロボがこちらに向かってます、はい!」

そういってる間にも、警備ロボの放つレーザービームがフールムーンの頭をかすめる。

天才科学者の発案と腕利きの職人によって生成されたそれらは、人間よりも的確な判断をし、鉄をも溶かす強力な一撃を容赦なく繰り出してくる。

「南方向に逃げてください!一旦体勢を立て直しましょう!」

「バカ言ってんじゃないよ。このまま敵の本拠地まで突っ切るんだから」

「無茶です!」

「だーいじょうぶ、おじさんに任せなさい」

たとえ銃弾も跳ね返すボディを持っていたとしても、それはフールムーンの前では無関係だ。

走り出した敵に無慈悲な一斉射撃が行われる。ヘンリエッタは思わず目をつぶったが

すぐに打たれた本人も自分のいる手鏡の中も無傷なことに気が付く。

フールムーンの氷が、レーザービームを跳ね返し、ロボどもをなぎ倒していた。

「めちゃくちゃだぁ!」

「ビビってる暇があったらちゃんとナビゲーションしなさいよ」

「大体敵の本拠地ってどこですか!め、目途はついてるんですか!」

「あたぼうよ。だってあんた、ちょっと考えてもみなさいよ。やつらは街を征服したんだぜ?自分の城はどこにする?まさかあんたら強盗団みたいにちんまい倉庫で縮こまってるわけもあるまい。あそこだよ」

フールムーンが指さす場所は街の中央にそびえたつ大きな塔「ジャスティスタワー」なんのひねりもないネーミングだが侮ってはいけない。病院に科学研究所にロボット工場その他街の重要機関をすべて兼ね備えた中央地区で、そのすべてに対して指令を出す巨大な電波塔だ。ヒーローたちの本拠地でもあったその場所から指令を出せば、科学者や技師その他が全力でヒーローのバックアップをする。

つまり街の心臓にあたる部分だ。

「俺の勘があそこだっつってんだよ。だから、あそこ」

「で、でもジャスティスタワーは、最終決戦の後に閉鎖されたはず、今も機能したという記録はないです、はい。証拠がないんです、はい」

「いーや絶対にいるね。俺はあいつとやりあったからわかる。あの場所で、スターヒートが待っている!」

ヘンリエッタはなかなか察しのいい女だった。今の彼女のボスは完全に戦いの空気に酔っている。

きっとこの人は理屈で動いているのではない、完全に感情と情熱が心を支配している。

だからきっと、何を言っても無駄だ。先の事は後で考えたほうがいい、今は失敗よりも

この人の気分を害するほうが怖い。

「わかりました。中央区への行き方は...わかりますよね、中央門から突っ切ってまっすぐです。敵は数十体。普通は無理なんですけど、マスターほどの悪役なら恐れることはないと思います、はい」

「物わかりがいいじゃないの、だから気に入った!やっこさんはどこからくる?」

「まっすぐ行って左に三体潜伏、こちらに向かっているのが右から十二体、後方から狙っているのが十五体です、後方部隊から狙撃が来ます、お気をつけて!」

後ろの敵の放った弾は案の定そのままに跳ね返り、潜伏部隊はその力を発揮する前に飛んできた氷ミサイルで串刺しになった。

この程度のブリキ人形ではテンションの振り切れた悪役のおっさん一人止めるには至らず、フールムーンは何の苦もなく中央区へ、ヒーローたちの待つその場所にたどり着こうとしていた。


その様子をモニターで苦々しく見守る一つの影。

「こちら中央区第一工場、応答せよ」

その人物は通信機を手に取り、何者かと連絡を図った。

「ああ、間違いない。俺だって信じたくはないが...こちらに向かっている。

いや、見たところ一人のようだ。やつにもう仲間はいないはずだからな。任せろ、タワーへ到達する前に食い止める。スターヒートには、言うな。

ああ、じゃああとで」

苦々しくモニターに目を戻す。彼も確かに見たのだ、魔王が散るところを。

「ここに来たことを公開させてやる...フールムーン」

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