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こちら痴女子こと黒色文香です。助けを求めて見ませんか?

「黒色文香、あだ名は痴女子だ! ただの人間には興味は無い。この中に、変態、痴女、アバズレ、好色、淫乱がいるなら私の所に来い! 本当のアブノーマルというものを教えてやろう!」


「黒色先輩、あんたはこの小説の特殊キーワードにR指定がないことを承知しているんですかこんちくしょう。みなさん、はなはだ変な先輩と存じますが、暖かく見守ってください本当に」

 街中を逃げていたら横を走る自転車の存在に気付いた。住宅街の路地をすいすいと走っている。


「なあ? 思春期真っ盛りのそこの君、反抗期真っ盛りのそこの君、君はなぜ逃げているんだろうか?」


 拡声器を顔の前に持って行きながら、見も知らぬ上級生が話し掛けてきている。七色日冬はゆっくりとその女子生徒の方を見て、それが黒色文香という超有名人だと気付くも、すぐに顔を逸らして走り続けた。


「僕は先輩に構っている暇はないわけなんです。逃げているということは刻一刻を争うということであり、例え呼び止めた相手が虹色学園きっての秀才かつ美女だとしても、僕は逃走することで命を拾う方に賭けるわけです。こちとら、ただの一般ピーポーな生徒なので、貴方とラブコメになる可能性はあり得ませんですし」


 日冬はそう言いながら速度を速め、一旦後ろを見た。数日前から逃走に次ぐ闘争で疲れ果てていた。そのせいか口調もおかしくなっているような気がするし。かなり今、てんぱっている。


 ああ、それと、逃走に次ぐ闘争、と書いたが、誤植ではない。本当に逃走に次ぐ闘争、または、闘争に次ぐ逃走なのである。


 最近彼を襲っているのは、ガラスの兵隊だった。ガラスに近づくとそのガラスがいきなり兵隊へと姿を変えて、日冬に襲ってくる。何のせいかは知らないが、日冬以外は襲わない。一度目の襲撃で右手に深々と傷を負ったのだ。


 さして特徴は無いが、それなりに整った顔の男子生徒、七色日冬は右手を気にしながら走り続けていた。


 黒色文香はゆっくりと後ろを振り返り変な後輩が逃げているという襲撃を見た。


「見た所、君はスカーズカと言う現象に巻き込まれているようじゃないか」


「スカーズカ、ロシア語で確か、おとぎ話ですか。寝言は寝て行ってくださると助かります。そんなファンシーな事件に見えますかこれ?」


「ファンシーじゃないか、ガラスの兵隊なんて、ロマンチックだなあ」


「くそ、感覚が噛みあいませんねうっとうしい」


 日冬はそう吐き捨てると更にスピードを上げた。すると、自転車のスピードも上がった。日冬はもう一度だけ女性徒の顔を見ることにした。


「貴方は、何から何まで黒くて辛気臭いですね。喪にでも服しているのですかそれ」


「ご名答、私は常に喪に服しているのだよ」


 ああ、そうですか。と言いながら、日冬は前を向いてまた走り出した。全くおかしな先輩に捕まってしまった。横をしゃーっという音を響かせながら進み続ける先輩を見て、日冬は自転車を奪って去ろうかと思ったが、やめた。良心くらいは自分にもある。

 日冬は一糸乱れぬフォームで走り続けていたが、いいかげん息が切れ始めてきた。ぜえぜえはあはあと息を漏らし、やがて、後ろを振り返ると、ガラスの兵隊が馬に乗って現れてきた。


「くそ反則じゃないのあれ」


「ほう、さすがに逃げ切れなそうだね。どれどれ、じゃあ、私が追い払ってやるとしようか」


 そう言って、文香はゆっくりと胸元のロザリオに手をやった。そして、自転車に乗ったまま足を組みかえ、横乗りになると、髪をなびかせながらロザリオにキスをする。


「光あれ」


 その言葉と共に、ガラスの兵隊の頭上から巨大な十字架が現れて粉々にくだいた。日冬は眼を丸くしながら、文香の方を見る。文香は自転車に横乗りになったまま、ゆっくりと進み続けている。そして、不敵な笑みを浮かべた。


 日冬は緊張しながら文香の方を見た。文香はしゃーっという自転車の音を心地よさそうに聞きながら、日冬の顔を愛おしそうに観察していた。しかし、よく見ると、彼女の進む先にはゴミ置き場があるようだった。


「黒色先輩、このままでは貴方がゴミまみれになってしまうのですが、それをご承知でそんな乗り方をしてらっしゃるのですか?」


 日冬は慌てて声を掛ける。しかし、時はすでに遅かった。文香はあっという間にゴミ箱に突っ込み、文香の身体が投げ出されてゴミ箱に頭から突っ込んだ。日冬はゆっくりと立ち止り、文香の姿を見た。


「絶世の美女であらせられる所の黒色文香先輩、先輩はゴミにまみれても美しいという自信がおありなのですね。あとパンツ見えてますが、これは僕へのサービスでしょうかやっほーい」


「ううむ? カッコをつけすぎたか、まあ、確かに私の美しさは揺らがないだろう。そして、パンツはサービスだよ良かったね」


 文香はさっと立ち上がり、身体をパタパタ叩く。そして、不意にロザリオに傷が無いか確認し、ほっと一息つく。どうやら、傷は無かったようだ。側に角材のような物が落ちていて、釘も刺さっているので危なかった。


 日冬は文香にハンカチを差し出すと、文香に怪我がないか一応確認した。ちなみに文香のパンツは黒のレースだった。


「ところで、私の親友は私を痴女子と呼ぶのだが、黒のレースは痴女っぽいかな?」


「それは本当に親友なのですか痴女子先輩、怪しいと思います。あと黒のレースは正直痴女っぽいです」


「なるほど、参考になった。実際に男の意見を聞かんと分からんものだしな」


 文香はぱあっと顔を輝かせ、にやりとする。


「何で顔を輝かせているのですか先輩、変態の汚名を被る気満々ですか」


「残念、痴女の汚名だ」


「どちらでもよいと存じますが、とにかく助かりました。しかし、僕と関わらない方が良いと存じます。僕と関わるとこんなことは日常茶飯事ですので」


「おやおや、じゃあ、いつも君が一人でいるのはこのせいか?」


「ええ、恩人であらせられる所の黒色先輩には打ち明けますが、僕は今まで幾度となくこのような事件に巻き込まれています。その度に逃げ延びてきましたが、今回は今までになく長い」


 そう言って日冬は無表情な顔を一瞬陰らせた。すると、文香はゆっくりと日冬の顔を見つめ、やがてあごに手を当てた。


 そして、日冬の手を取り不敵に笑って見せた。いい顔だった。


「私が助けて進ぜよう」


「ふむ、黒色先輩、頭に納豆が付いています」


 文香は納豆をハンカチで拭いながら、それでもなお、いい顔をし続けている。日冬は初めてくすりと笑った。


「それは僕のハンカチなのですが……」


 これが、七色日冬と黒色文香との出会いだった。


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