45話
そして3ヶ月が過ぎた。
図書室にある資料はあらかた保存し終えている。
授業には出ていない。
クラスの奴らも気まずいだろうし、何より俺が会いたくなかった。
クラスの様子を魔法で覗くと、実戦用というよりは日常的に使える魔法を学んでいるようだ。
政府から出ていた許可も、今は取り下げられてむしろ厳しく制限されることになっている。
ノワールに所属していたメンバーも、今は魔法学校で生徒として、または先生として過ごしていた。
ちなみに、ローズの本名は愛川花というらしく、今は先生として生徒を教えている。
日常が戻ったのだ。
……俺と愛以外には。
愛はいまだに目を覚まさない。
俺は変に愛に魔法を使うことは考えなかった。
その代わり、毎日話しかけることにしている。
今日も……。
「なあ、愛。外はもう随分と暖かくなってきたよ。この分だと、近いうちに桜が咲くかもな。愛の名字にもある花が……」
俺は愛の手を握りしめる。
「愛……。愛の声が聞きたい。愛の笑顔が見たい」
俺は初めてこの言葉を口にした。
「愛。俺は愛が好きだよ。たぶんずっと前から。……たぶんがつくのは許せよ。だからさ、目を開けて、返事くれよ」
そのとき……
ギュッ
「!?」
手を握り返された。
「……なんで先に言っちゃうんですか。私が言おうと思ってたのに」
ふふ、と懐かしい笑顔が見える。
「……愛」
「翔さん。私も翔さんのこと好きですよ。たぶんずっと前から」
「!!」
クスクス、ととても楽しそうに笑う。
心からの笑顔だった。
俺は愛を抱きしめる。
もう離さない、絶対に守る、と心に決めて。
「やっと気がつかれましたか」
「!誰だ?」
俺は愛から少し離れたが、いつでも守れる距離にいる。
『失礼いたしました。この声でお分かりになりますか?』
それはあの「声」だった。
『姿を現させていただきます』
ふわ……と女性が俺達の目の前に現れた。
「お初にお目にかかります、愛様、翔様。私、名をエルと申します。僭越ながら、お2人の守護神を務めさせてもらっている者です」
「「……守護神?」」
「はい。私どもは、滅多に主の前に姿を見せることはありません。が、今回は特別に姿を現させていただきました。そして、1つだけ、言わせてください。……誠に申し訳ありませんでした」
と言って、エルは俺達に頭を下げた。
「守護神でありながら、主をお守りできず、本当に不甲斐ないと思っております」
「……エルさんは、きちんと守ってくれましたよ?だから、謝る必要なんてないです」
「……もったいないお言葉、本当にありがとうございます」
「確かに、今俺達は生きている。それだけでいいんだ」
「翔様。……愛様も、ありがとうございます……」
エルは、今にも泣きそうな顔だ。
「あー……ところで、エル。聞きたいことがあるんだが、いいか?」
「はい、何でしょう?」
「あのとき使った大魔法。あれはどういうものなんだ?」
そう、いくら探しても文献には載ってなかった。
「あれは、愛様の"時間"を犠牲にして、翔様に超回復魔法をかけさせていただきました。これは守護神のみが知り、使える魔法です」
「……"時間"」
「はい」
「……なるほどな。でも、"時間"で良かった」
だって、"生命"なんてなってたら俺は愛に再び会えなくなるところだったのだから。
「ところで、愛。提案がある」
「はい?」
「2人で、この学校を出て、異世界へ行かないか?」
そう、俺が見つけた大魔法とは、異世界召喚の魔法。
「え?」
「この世界にいる限り、もう俺達は本当の意味で幸せにはなれないと思う。一応、もう魔法は見つけてある。もちろん、エルも一緒だ」
愛は少しだけ考えて、こう言った。
「私は、賛成です。違う世界で、新しい生活っていうの、すごく楽しそうですもん」
「ははっ、そうだな。エルはいいか?」
「はい、もちろん」
「じゃあ、決まりだ。そこでだ、1つ計画があるが、聞いてくれるか?」
俺は計画の内容を2人に話した。
それは、ローズがしてくれた話を聞いて、俺なりに考えたこと。
「……いいですね。それでいきましょうよ」
「よし」
そうして、計画実行当日まで、俺達は図書室の資料を写し、理解し、使えるようにする。
異世界のことについて話したり、当日の具体的なことを言い合ったりしながら時を過ごした。
愛は3ヶ月眠っていたせいで、体が前以上に弱くなってしまったようで、魔法の補助なしではまともに動くこともできない状態。
それでも、愛は負けずに懸命に頑張って、少しずつ体力を取り戻していった。