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恋の魔法、学びます。  作者:
事件
24/48

23話

魔法学の時間。


「さて、授業を始める前に、萩田が言いたいことがあるそうだ。しっかり聞けよ」

俺は席を立ち、桜原を促して前に行き、言葉を紡ぎだす。

「……皆もわかっているだろう。最近の桜原に対する態度についてだ」

教室がざわつき始め、その後しばらく、ざわつきは収まらなかった。


……自分が苛立っているのがわかる。

俺はおもむろに杖を持ち、空中へ向けた。

「バースト」

本で読んだ呪文を唱える。

これは属性魔法の上位系統にあたるものだ。

ドンッ、という音を立てて空気が爆発する。

正確には、空気中の水蒸気だが。


一瞬で教室が静まり返る。

「……お前らは人の話も聞けないほど馬鹿なのか?」

腕に感触。

見ると、桜原が俺の腕を握って俺を見つめていたので、それで少し冷静さを取り戻す。

ふう、とため息をついてから一気に言葉を吐き出した。


「お前らは桜原をいじめたんだよ。個人の勝手な正義感や、大衆心理にのってな。いじめた理由も他人の色恋沙汰だ。そんなのは当人同士の問題だろ。他人が勝手に軽々しく口出ししていいものじゃない。しかも桜原は頼まれて藤井を助けていたんだ。たまたま石岡の好きな相手が桜原だったというだけで、何か問題があるか?桜原が石岡の気を引いたという訳ではないだろう?さらに言うとだ、桜原は告白を断ってるんだ。桜原に悪い点があるか?勝手な思い込みで、軽々しく人を傷つけるな!」


教室の人間は皆固まっている。

「わ、私は……」

桜原が口を開いた。

俺の腕を握っている手が震えている。

「私は、誰かが"やめよう"って言ってくれるのを、待ってた。私は、前の学校でも……いじめられてたから、怖くて、何もできない。……これを、見て」

そう言うと、桜原は俺の腕を握っていた手を離し、自分の服の袖をまくって、腕をあらわにした途端、教室がざわっとなる。

俺もビックリした。

「これは、私がこういう目に合っていたことの証」

桜原の腕は痣や傷でいっぱいだ。

もともとの色はとても白かっただろうに、その腕はまさにボロボロというしかないほどの惨状。

「……こういう傷は、体中にあるの。でも、それ以上に傷だらけの場所がある。どこだと思う?……心なの。裏切られるっていう気持ち、わかる?昨日まで信頼していた人が、次の日には手のひらを返して、敵になる。……人が怖くなった」

腕を服の中にしまい、自分を守るかのように桜原は自分の体を抱きしめる。

その目からは、今にも涙が溢れだしそうだった。

「……もう大丈夫だ。心配しなくていい」

俺は桜原にそう言い、軽く抱きしめた。

ふと気づく。

(ああ、こんなに小さかったのか……)

身長的な差は20cmほどあるだろうか。

桜原の体は小さく、細く、すぐに壊れてしまいそうだ。

言葉にするなら……儚い。

(こんなに小さい体で、たくさんのものを背負ってきて……)

軽く頭をポンポンとたたき、生徒の方へ向き直る。

「これから桜原を無闇に傷つけようとする奴は、俺が許さない。これ以上、桜原に背負わせるな」

教室は静かなまま。

「……先生、生徒会室に行ってます。授業が終わったら相談したいことがあるんですけど、いいですか?」

「……ああ、わかった」

俺は桜原を連れて、生徒会室へと向かった。


生徒会室にて。

「先輩。相談したいことって?」

「ん?ああ。俺達2人だけでここで勉強できないかと思ってな」

「え?」

「あの教室には今は居づらい。ほとぼりが冷めるまで離れていた方がいいと俺は思う」

その後、先生と相談して、普通教科は俺が桜原に教え、魔法学は2人で勉強するという形にして、了承を得た。

こうも早く話がまとまるとは思ってなかったが。

そして、桜原は義理の家族と縁を切り、寮暮らしを始めた。

その手続き等は先生と相談しながら完了させる。

そうして、先生がこのことをクラスに伝えたことで、ひとまず問題はなくなったと思っていた。

だが、このことで1人、感情が別の方向に向いた奴がいたことを、俺達は知る由もなかった……。


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