15話
そして午後……
「さて、聞いた奴もいるかもしれないが、午後は実戦だ。私が召喚した魔法生物と戦ってもらう。バディで協力しながらやってもらうから、作戦とか必要なら話しとけ」
教室がざわつく。
「順番はランダムに選んで呼ぶ。モニターに名前が出たら、前に出てきてくれ。他の奴は、後ろに下がった方がいいかもな。フィールドを作るから、それまでの間自由に相談してな」
俺と桜原は相談の結果、俺が近接戦闘に行き、桜原が遠距離攻撃や支援をするということでまとまった。
「女子に危険な目にはあわせられない」
俺がそう言うと、
「やっぱり、先輩って優しいですね」
と返ってきた。
……少し照れる。
ポン、と音がしてモニターに名前が出てきた後、男女2人組が杖を持って、おずおずと前に出てくる。
「さて、フィールド内に入って。……用意はいいか?サモン!」
フィールド内に三つ首の犬が現れるが、ケルベロスというやつだろう。
2人は目に見えてすくみ上がり、心なしか教室の空気も張り詰める。
2人の杖から弱々しい魔法が出るも、ダメージにはなっていないようで、女子の方は今にも泣きそうになっている。
「……はい、止め!」
先生がストップをかけ、2人がフィールド内から出てくる。
「まあ、最初からできるとは思ってないから、気にしなくていいからな?」
またポン、と音がして名前が出たので見ると俺と桜原の名前だったので杖を手に、フィールド内に入る。
「じゃあ、もう一度コイツと対決してもらおうか」
「サモン」
唱えると、手の中に剣が現れる。
さっきの実習の時間に作り、火属性を追加しておいたものだ。
杖をホルダーにしまって、ケルベロスに向かって構える。
「エンチャント」
桜原が唱えると俺の体が軽くなる。
翼が生えたのだ。
それに対して周囲からどよめきが上がる。
「サモン」
桜原がもう一度唱えると、桜原の手に弓矢が握られた。
事前に相談していたことだ。
魔法を連続で使うと魔力を大量に消費するから、魔法で強化した武器を使おうと。
さらに"強化"の魔法で、絶対命中や乱れ撃ちなどを追加した。
俺はケルベロスに向かって飛んだ。
身長を遥かに超えるケルベロスも、翼があれば問題ない。
するとケルベロスがこちらに気を取られる。
(予想通りだ)
その隙に、桜原が弓でケルベロスの足を狙う。
ドスッ、という鈍い音と共に、ケルベロスの足に矢が刺さった。
事前に毒を塗っておいた矢なので、相手は動けなくなるだろうが、それでも念を入れて、4本の足全てに矢を撃ち込んでもらう。
これでどちらにしろ動くことはできない。
そして俺が上空から一気に首めがけて剣を突き立てると手に鈍い感触が伝わってきた。
……躊躇わなかったわけではないがやるしかなかったのだろう、そう自分に理由をつけた。
完全に動かなくなったのを確認して剣をしまい、見ると桜原も弓をしまっていた。
ケルベロスの傷を確認すると、きちんと火属性の効果がついていたようで、軽く焼けたような痕が見える。
強化を解き、先生の指示を仰ごうと先生の方を見ると、
「……」
先生もクラスメイトも固まっていたが、無理もないだろうな、と思った。
「……いや、驚いたな……」
やっと口を開いた先生は心ここにあらず、というような状態だった。
ケルベロスを戻し、少し先生は休憩のため、教室を出ていく。
教室の中が一気に騒がしくなった。
思ったとおり、清水、藤井、石岡が来て口々に言う。
「凄かったぁ!ずっと目が離せなかったよぉ」
「愛ちゃんと萩田先輩はさすが、というか、もうとにかく凄かった!」
「愛ちゃんも萩田先輩も凄かったよ!あんなに大きな奴を一瞬で倒したんだ!」
「あ、ありがとう……。でも、私は特に何も……」
「俺はトドメをさしただけだ。凄いと言われるようなことはやっていない」
その後、先生が戻り、実戦が再開される。
かなり健闘したペアもあったが、俺達の他に相手を戦闘不能にした者はいなかった……。