10話
……数分後。
学校に着いたことを知らせる表示がモニターに表示されたので本をABにしまい、車を降りる。
周りを見ると、他の生徒はほとんどいなかった。
ちょうどそのとき、別の魔法車が到着。
出てきたのは、萩田先輩……ではなく、昨日私の前に魔法テストを受けた石岡くんだ。
「おはよう、石岡くん」
「お、おはよう、桜原さん」
少し緊張しているように見える。
(魔法学校初日で緊張しているのかな?)
「緊張しなくても大丈夫。一緒に頑張ろう」
「う、うん」
校門には林先生がいた。
「林先生、おはようございます」
「おはようございます」
「おう、おはよう。2人とも早いな」
私は曖昧に微笑んだ。
(まさか家にいたくなかったからとは言えない……)
「先に魔法学の教室に行ってくれ。椅子があるから、座って待ってな」
「はい、わかりました。行こう、石岡くん」
言いながらABを起動し、校内図を出して少し歩いた後、高等部の魔法学の教室に着く。
私は窓の近くの椅子に座り、読みかけだった本を出して読み始めた。
季節は初夏。
これからどんどん暑くなるからそれを考慮してか、窓が開けられていた。
さらに遮光カーテンもかかっている。
ときどき吹く風が心地よく、カーテンと私の髪が揺れる。
静かな教室で本を読むことは幸せだ。
ふと教室の前の方を見ると、モニターが表示されていたことに気付き、本を読むのを中断、モニターの方へ近づく。
見ると昨日のテストの順位表だった。
魔法のテストは、先生が言っていたとおり、私が1位で、萩田先輩が2位だ。
普通科目のテストの順位を下から見ていくが私の名前はなく、だんだんと視線が上に上がる。
え、と思い、じっとその文字を見つめると、私の順位は2位だった。
そしてその上に先輩の名前がある。
つまり先輩は1位だ。
(まさか、私と先輩が1位と2位を独占するなんて……)
思いもよらない結果に驚きながらも、椅子に戻り、本を再び読み始める。
ちらほらと生徒が増え、だんだん教室が賑やかになるが、皆の話題はやはり順位のようだ。
私と先輩が学校1位と2位を取ったことは共通の話題となり、皆の仲を良くするきっかけになっているようだ。
そして、先輩が教室に入ってきたとき皆の視線が一瞬向くが、また逸れて各々おしゃべりを再開する。
先輩はモニターの結果を確認すると、納得したような顔をして教室を見回す。
私の姿を見つけたようで、近くに来て、椅子に座った。
「……面倒だな」
「……はい」
2人してため息でもつきそうな顔をし、先輩もABから本を取り出し、読み始めた。
すると、教室の隅から明ちゃんが近づいてきた。
私に声をかけてくる。
「おめでとう、愛ちゃん!萩田先輩もおめでとうございます!」
「……ありがとう、明ちゃん」
私は読んでいた本から目を上げて、本を閉じて明ちゃんに笑いかけた。
「なんかねー、私はあんまり順位良くなくてさー。魔法の方なんてやっと表に載る程度!」
「そっかー」
「そうなの!それにひきかえ、愛ちゃんと萩田先輩は凄いねー!2人で1位と2位を独占しちゃうんだから!」
「私はそれほどでもないよ……」
「またまたー!表に出てるんだから、そういうことでしょ!」
「そうかな……」
「そうだよー!私のことたくさん助けてね!学校1位の愛ちゃん!」
「うん……。何かあったら言ってね……」
「うん!何でも言うー!」
と8時30分の鐘が鳴り、明ちゃんはもといた場所に戻っていった。
結局本はほとんど読めず、林先生が教室に入ってくる。
「……迷惑だったらちゃんと言わないと」
萩田先輩が言う。
「……でも、言うと明ちゃんに悪いかなーって思っちゃって。本はいつでも読めますし」
私はこんなときでも他人の顔色を窺ってしまっていた。