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恋愛の定め

作者: ささやか

この作品はわたしの処女作です。事実に基づくフィクションを交えた小説です。ゆっくりのんびり書き進めてまいります・・・。

それは、一本の電話から始まった。

「来て・・・?」

二十年が経った今でも、耳の奥に鮮やかにその声がこだまする。

瞬間的にバスに飛び乗った。彼女が待つ「あの場所」へ。


当時、僕は大学受験に二度失敗し、都会での浪人生活をあきらめて親元へと戻り、

屈辱と後悔に満ちた予備校生活を余儀なくされていた。

毎日が不安と緊張、そして「次はない」という焦り。二浪もしたことで、周りには誰一人話し相手すらいない。孤独とも戦う日々・・・。何かが崩れ始める、当然だろう。


ある日、予備校をサボタージュして「山」に登った。標高750mくらいのちょっとした「山」だ。

徒歩・・・。独りだ。なぜか心地よい。

頂上へたどり着く。開放感に浸りつつ、母が作ってくれた弁当を申し訳なく思いながらしたためる。美味い・・・。


やはり気持ちは下降線をたどる。気分が沈む。予備校をサボることが増え、いったい何をやってるのか自分が分からなくなる。不安の連鎖、緊張の高まり、そして「次はない」という使命感による焦り。


そんな、家に閉じこもる日々が続いたある日、その電話がかかってくる。

「もしもし」

「どうしてる?」

「はい・・・・・・」

「来て・・・?」

青春真っ只中の僕には、その会話はあまりに「扇情的」すぎた。一瞬でそのワードの虜となり、飛び乗るようにバスへと・・・。

「(待っててくれ)」不遜な片思いが生まれた瞬間だった。


実は彼女は、僕が通う予備校の「チューター」、クラス担任だ。始めてみた瞬間の・・・お約束だ。

しかし当時の僕には、恋愛などは無縁の話。一切かまわずひたすら勉強や自分との戦いを孤独に続けていた。くるしかった・・・。


そんな僕を彼女は「クラス担任」として見続けてくれていたのだろう。予備校最初の模試で、僕はクラス1位の成績だったこともあるだろう。普通、そういう生徒が、段々出席日数が減り、成績も下降線をたどるとなると、気になるのは当たり前で、それを「恋愛」と解釈してしまうのは、「青春の特権」というものだろう。返す返すも恥ずかしい・・・。


しかし、電話の後で出会った彼女の僕への対応は、通り一遍のありきたりものではなかった。

「お昼食べた?」

「まだ・・・」

「なら一緒に食べましょう?」

ここまで言われて勘違いしない男はどうかしてると今でも思う。明らかに彼女は、普通の「担任と生徒」の関係性を逸脱し、どうやら僕を特別に扱う気でいたようだ。この解釈も「青春の特権」であろう。

いや、そうでなければ、電話でのあの言葉はありえない。当時は固定電話しか普及しておらず、携帯電話等その発想すら無く、周囲にまったく人がいない状態での通話は不可能。後で分かったことだが、電話を他の担任が集まる部屋であの会話を敢えてするという・・・。周りの理解があってのことだったのか、今でも分からない。


会いにいった。別の部屋に通されて、二人きりで向かい合う。

「お昼を買いにいきましょう?」

「はい・・・」

そうとしか当時19歳の僕には返す言葉が見つからない。恋愛経験の全くなかった僕には、当時28歳でしかも

清楚さの中に少し危うさを感じさせる容姿を持つ美人「教師」・・・あまりにもハードルが高い。


近くのデパ地下で、サンドウィッチのすこし値が張る品を彼女がご馳走してくれた。

味など分からない・・・。ただ、だまって食べるだけ。

「美味しかった?」

「はい・・・」

「それならよかった。じゃ、後は何かして欲しいことは?」

・・・その言葉は行きすぎだろう。今になったからこその感想だ。しかし当時の僕はこう答えた。

「手を・・・」

「手・・・・・・あははははははははは♪」

お腹を抱えて笑う彼女。あっけにとられて呆然と彼女を見つめる僕。

何かが生まれた瞬間だった。



思えばあれは、僕が中学二年生の頃だった。生徒会副会長の僕にとって一期上の「先輩」は憧れだった。

初恋・・・まさにそれだ。ちょうど今、「彼女」に恋をしてしまったような一目惚れ。ずいぶんと思い上がっていたものだ。相手は自分に振り返りはしない、そういう安全圏から出ない、ずるい恋しか出来なかった僕。今度も、終わりが予定された恋をしている。情けない、当時の僕。


避けられない流れになる。毎日予備校の個室に呼ばれ勉強の話「以外」をするようになった。彼女がどういうつもりか全く分からなかったが、夢中になって話をした。今読んでいる本、好きな漫画、高校生活の話、一浪目の東京独り暮らし、楽器をやっていたこと、ついには夢も語る・・・。自分の、自分「だけの」夢。決して彼女は自身の事は話さない。


わずかに、「わたしの夫、今モンゴルで単身赴任してるのよ」「そっか・・・」という、今思えば、僕との関係をそれ以上突き詰めないための・・・嘘・・・。


楽しかった。心が安定していく。彼女と居る事で自分が確かに存在している実感が持てる。話す内容はとりとめも無く、ただ日常を「僕が」語るだけ。それだけでも、当時の僕には、充分だった。10歳も年上の、しかも美人で清楚な女性が、自分だけを向いて話を聞いてくれる、してくれる・・・。楽しからぬはずがない。夢中になった。多分、彼女も。



午後・・・。いつもの「彼女」との時間が始まる。あの電話から半年、季節はもう冬だ。受験が近く、勉強に熱を入れなければならないときに、僕は・・・。

X’sも近い。自然と意識が彼女との関係に向く。(プレゼントなんて、僕には無理だ)そう思いつつ、なにか贈れはしないかと勉強以外の方向へと意識が導かれていく・・・。

僕はバスを降りて、欅並木の下を歩いて予備校へと向かう。そうだ!この艶やかに色づいた欅の葉を贈れば・・・。詩的すぎる、ばかな僕。

「これ・・・」

「ありがと、でもいらないわ・・・」

やはり通じないのか。今思えば当然だろう。単に道端で拾った葉っぱなのだから・・・。二人で散歩してそのときにでも拾うなら別だが。


あいかわらず、「彼女」との時間は毎日続く。淡々と語り合う。話題も尽きて、黙っている時間も増えていった。それでも、「彼女」との時間が愛おしい。「彼女」がどう思っているにせよ、僕には不遜なまでに高まる思いを抑えられない。

受験が近い・・・・・。



昔の話。中学までは勉強に関して言えば、文句の付けようがなかった。テストは試験勉強などせずとも満点、常に学年トップ。成績はオール5評価。一年生で生徒会副会長、そのまま生徒会長も勤め、更に吹奏楽部長とトランペット1st.。高校は地元で一番の難関公立校へとあっさり入学。新入生合宿で学年代表に先生により指名された。高校に入り、試験勉強をしなかったため成績は振るわず、その分吹奏楽Tp.に励む日々・・・。ただ、途中で自分の演奏技術の限界を感じ、折角高校二年でトッププレイヤーになったのに、辞めて生徒会長になった。


・・・ばかだろう、僕。「続けていればよかったのに、お兄ちゃん」と、妹に後で言われた。アンサンブルコンテストのことをすっかり忘れて、本当にみんなとあわせて演奏する喜びを実感しないまま辞めたのだ。一期上の先輩は僕の演奏を当てにはしていたが、それぞれ達成感を味わい満足して卒業していった。夏のコンクールはブロック大会銀賞だった。普門館こそ行けなかったが、県大会を通過できたのは、吹部関係者全員の喜びだった。野球応援にも春のブロック大会で演奏できた。野球部も強かった。昔は夏の甲子園を全国二連覇したほどの伝統校だ。別の大会だが、僕たちの吹部も全国の舞台は経験できた。倉敷での演奏旅行。みんなみんな楽しそうだった。僕は自分の演奏に追われてそれどころではなかった。Tp.B♭でハイCを連続して出さねばならず、かつ長いソロが三度もあり、苦心していた。今にして思う。折角遠征して景勝地に行けるのに、連泊なのに・・・もったいない。


生徒会長をしたこと自体は後悔はしていない。後悔などできる立場ではない。自分に投票し、当選したあと協力してくれた全校のみんなに失礼だ。自分は役員その他を任命し、あとは適材適所で全て任せて自分はお飾りに納まって、それでうまく運営できた。文化祭や体育祭の実行委員長は、僕では無く他の人物にやってもらうシステムだった。風紀に問題のある学校ではない進学校。それでは自分自身は生徒会長として何をやったかというと、「挨拶」だ。なんでも、卒業式の後で学年主任の先生に呼び止められて聞いたところ、僕の答辞は来賓の方々に絶賛されたそうだ。「さすがは・・・高校の卒業式ですね」と。なに、一夜漬けの思い付きを漢文調に再構成しただけの簡単な・・・これ以上言うと怒られそうだ。やめておく。


僕が卒業したときは・・・校門を独りでくぐった。忘れることはない。


恋愛は・・・できなかった。僕は多くのものを抱えすぎて、自分のため「だけ」に振舞うことを許されていなかった。そう当時は思い込んでいた。みんなが望む回答を率先して導くのが僕の務めだと堅く・・・信じるしか自分を保てなかった。今にして思う、誰かに声を掛けて、「普通に」恋愛を楽しんでいれば・・・。今、終わりが予定された恋を「彼女」と不遜に育むようなことは、なかったはずだ。



もっとも、女性経験が予備校生の当時全くなかったわけでもない。高校を卒業して、二十歳前だが「卒業コンパ」をクラスでやり、酔いつぶれた僕はいつの間にかあるクラスメイトの膝の上に頭をのせられていた。「膝枕」だ・・・。あるクラスメイトの男子がうらやましげに「お前・・・」と僕に投げかけてつぶやいた言葉が耳に残っている。


そして、夜も更けた帰り道。足元もおぼつかないほど酔っていた僕は、そのクラスメイトの女の子、Bさんとしよう、Bさんの肩につかまって・・・バスに一緒に乗り・・・家に着き・・・。そのとき僕は言ったさ・・・「帰りたくない」。今にしてまた思う。いきすぎだろうその言葉。Bさんは勘違いしたはずだ。当然それから二人は夜の闇へと・・・。

夜景が綺麗だ。遠くに赤く光る橋が見える。Bさんが僕のほほに唇を近づけてくる・・・。固まる僕、経験は全くない。ファーストキスだった。何度も何度も重ねる唇。

「何回目?」「ふふっ」

それ以上は・・・思案の他だ。


一月になった。予備校では追い込み勉強に活気があふれ、受験生でにぎわっていた。

僕はもうすでに、「彼女」の職員室のデスクの脇に椅子が設けられており、そこに座って彼女の様子を見ていたり、自分の物思いにさ迷っていたりと・・・。なんて予備校生なのだろう。勉強はどうした?恋愛なんかしている場合ではないだろう?そう今の僕が訴えかける。

だが、実際のところ僕は当時、「彼女」との恋愛、いや、もはや恋愛等という言葉では済まされなくなってきているこの関係の「口実」として、予備校に通っている状態。授業には出てはいたが、積極的に学ぼうとしていたわけではない。ただ、こなしていくだけ。他の受験生が聞けば非難の嵐だろう。とても言えたものではない。


ある日、「彼女」のほうから始めて誘いが来た。

「一緒に帰らない?」

「わかった・・・」

「じゃ、着替えて来るから待ってて」

「(うなずく僕)」

・・・・・・恋愛、もはや超えてるような。


二人で始めて外を歩く。右手にはお城の天守閣がライトアップされ、左手には大きく緩やかに流れる川が。通りはイルミネーションこそ無いが、ライトアップされた並木道。欅だ、あの。

「まるでセーヌ川のほとりを歩いているようだ」

「(静かに笑う彼女)」

川に掛かる橋を渡る・・・。帰るはずなのに、そのまま反対の岸部を戻る彼女、付き添うように寄り添っていく僕。二人の距離が縮まる・・・・・・。立ち止まる二人。

「・・・」「・・・・・・」

彼女の肩に手を伸ばしたい。自然な感情があふれる。今まで一度も彼女には触れたことがない。半年以上毎日会っているが、話をするだけで、それ以上のことは何一つしてはいない。信じられないかもしれないが事実だ。そんなに軽薄ではないし、相当のストイックだ、僕は。


彼女は、白い天守閣を川越しに見つめながら、僕に背を向けている。周囲は向こうの岸辺と違い、暗い・・・。(今しかない・・・でも・・・)

そこには厳然として存在する、僕を強く引き留めるものがあった。受験はもうすぐそこだ。



センター試験当日。彼女は会場の正門で待っていた。自分の受け持ちでもない場所に・・・。

僕は連絡もせずに現われたその、真っ白なコートで着飾った彼女の姿を茫然と見つめながら、自分のために買って置いた一本だけの缶コーヒーを差し出した。

「これ・・・」

「いいの、受取れないわ」

今まで一度も、受取ったことがない彼女。僕の贈り物は。

「じゃ、頑張ってね」

「うん・・・」

まだ、言葉が出ないときもある僕。当然だろう、彼女は10歳も年上、しかも清楚な美人「教師」。僕は一介の二浪予備校生・・・。私服で出会うとその落差は激しすぎる。つりあわない。


試験の結果はまずまず。800点満点中700点くらい。これなら地元の帝大にも行けそうだ。しかし、狙うはやはりT大・・・。今更ながらそのしつこさにあきれ返る。

親に恵まれ、生活に心配も無く、精神的にも「彼女」に助けられて・・・。いい加減に目を覚まして、確実な大学を受験すべきだろう。しかし当時はこだわりがあった。二浪。


受験したのは、K大経済、W大政経、M大政経、R大法等。結果は見事にR大しか受からず。当然だろう。恋愛に現を抜かす予備校生・・・。R大に受かっただけまだマシというものだ。

彼女はこう言った。

「K大受ける人なんだから、R大は受かって当然でしょう?」

情け無くなった・・・。


受験のために上京し、上野の宿に連泊をしていたある日、突然、彼女から電話が掛かってきたと、宿からの取次ぎがあった。固定電話しかない時代。ここに泊まっている事は話していない。なぜだ。

話しは簡単で、僕の自宅に問い合わせて、彼女はわざわざ東京までの長距離通話をしてくれたようだ。

「もしもし、どう?調子は・・・。」

「うん、まぁ・・・」

「R大合格おめでとう」

「どうして知ってるの?」

「予備校の情報網をなめないで♪」

「そっか、ありがとう。」

「じゃ、またね」

・・・

胸にジーンときた。あんなに嬉しかったことは、以後今までの人生でも数えるほどしかない。これだけでも、彼女に出会えたその喜びがいかに・・・。


私立大学の受験旅行から戻り、今度は国立大学の受験だ。

赤本を探そうと、予備校の専用の図書室へと向かう。そこに彼女はいた。

「ここに座ったら?」

彼女は自分の目の前の椅子を指差して微笑む。大勢の予備校生のいる真っ只中で・・・。いつも彼女のデスク脇に椅子が設けられるようになって、ほかの予備校生の視線も気にならなくなってきたとはいえ、ここで、それをするのは真面目に勉強に取り組む皆へ申し訳なく思う。

しかし、座ってしまう僕。視線が痛い。別に何かを話すわけではないが、明らかに彼女が僕を特別に扱っている様子は、はっきりとわかる・・・はずだ。当時はぼんやりとしか感じなかったが、今にして思うと「ひどいやつだ」。


国立大学は落ちた。K大経済、T大法を受けたが。まぁ、仕方がないだろう。これで受験が終わった・・・。


(続きはまたの機会に   PN.ささやか)



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